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新規事業の領域パターン⑦:別業界×新商品

ここまで説明した新規事業のパターンは、既存客や隣接領域、周辺領域など自社の存在を、顧客側がおおよそ認知している領域です。
一方で、新規事業の領域パターン⑦は、別業界向けの新規事業。市場や顧客側に、自社の存在は知られておらず、本流事業の営業基盤や顧客基盤のシナジーを期待できません。販路や商流に限らず、自社の立ち位置そのものを、その業界や市場でゼロから作り上げる必要がある新規事業です。

【市場・顧客軸】
「別業界」

【商品・ビジネスモデル軸】
「新商品(既存ビジネスモデル・新しいビジネスモデル)」

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この領域パターン⑦は、自社にとっては別業界で、どのような市場で誰が顧客であり、どのような問題があるかをイチから知る必要があります。ただそれは自社にとって新しいだけであり、その業界にはもともと様々な企業が様々なプロダクトを提供しています。
そのため、自社が保有する特有の強みを用いて、その市場の既存プロダクトより数倍良いものや、既存にない新しい価値軸のプロダクトを提供する必要があります。もちろん良いプロダクトだけでは売れず、その業界にどう参入して中期的に勝っていくか綿密に練り上げる競争戦略も求められます。
この領域パターンは、大別すると2通りに分かれます。1つは自社技術コアを活かす方法。1つは自社特有のビジネスモデルとオペレーションモデルを生かす方法です。

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自社技術コアを活かす方法
自社技術コアを活かして別業界で新事業を行う場合、自社単独で別業界で新規事業を開発するのは極めて異例であり、ほとんどの場合は、その業界メーカーに対する技術供与・ライセンスアウトとなります。自社の研究資産に、他業界で稼いできてもらう発想です。
例えば、ソニーが独自開発した炭素素材を、ロート製薬が採用して発売した、男性加齢臭用ボディウォシュ「デ・オウ」は、この領域パターンの新プロダクトです。
ソニーが研究開発した新素材「トリポーラス」は、コメの籾殻を原料とする独特の微細構造を持つ多孔質炭素素材で、従来技術では吸着しにくかった分子量の大きな物質を用意に吸着する特性を有します。トリボーラスは活性炭に比べ、約6倍のスピードで体臭などの原因となるアンモニアガスを吸着し、有機色素は2倍以上、アレルゲンは3〜8倍も吸着するそうです。
ソニーはこの新素材をライセンスアウトし、様々な企業や研究機関と協業して事業化を推進しており、トリポーラスのニオイの吸着力を活用して事業化されたプロダクト第1段がロート製薬が発売した「デ・オウ」です。

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三菱重工の宇宙用制御技術の、船舶横揺れ減揺機「アンチローリングジャイロ」開発も、自社技術コアを活用した別業界向け新プロダクトの優良事例です。
宇宙用制御技術の一つであるコントロールモーメントジャイロ技術を、船舶用に応用開発し、船舶の横揺れを低減し、乗り心地を向上させる機器を開発し、イタリアのヨットメーカーと売買独占契約を締結し、欧州中心に販売していました。イタリアヨットメーカーは、同業他社製品との差別化のために三菱ブランドの「アンチローリングジャイロ」をヨット搭載して販売拡大しました。
(その後同事業は、愛知県の東明工業に事業売却。安定的に利益を出していたものの、事業の選択と集中の中で、非中核領域として事業売却されました。)

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自社特有のビジネスモデルとオペレーションモデルを生かす方法
例えば、リクルート社が1980年代に次々新メディアを立ち上げたのは、自社のマッチングビジネスモデル(リボンモデル)と組織的営業力を活かした、別業界での新規事業開発です。
創業事業である大学生向け就職情報誌「企業への招待(現リクナビ)」で確立した広告ビジネスモデルを横展開する形で、1976年に「住宅情報(現SUUMO)」、1980年に「とらばーゆ」、1984年に「カーセンサー」、1990年に「じゃらん」、1993年に「ゼクシィ」、2000年に「Hot Pepper」と、次々に別業界に新規事業を立ち上げました。 

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ネット印刷のラクスル社が、自社のビジネスモデル(自社が総合注文窓口になり、全国の零細事業者を束ね、零細事業者が仕事を実行する)を配送業界に適応して立ち上げた「ハコベル」も、自社特有の強みを生かして別業界に過去にないサービスを立ち上げた新規事業です。

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この領域パターン⑦に取り組む際の体制は、自社技術コアを活かす方法の場合は、R&D部門と、事業開発経験のある社員がタッグを組んで進める必要があります。
別業界の事業側課題とのマッチングや共同事業開発が求められます。 自社特有のビジネスモデルとオペレーションを活かす方法の場合は、自社特有ビジネスモデルの事業の立ち上げ経験者+新規事業経験のある異端児的社員+その業界経験者を中途採用するのが良いでしょう。


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