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新規事業リーダーを社外から採用するのは失敗の元

「新規事業を任せられる人材がいない」問題への対応として検討されやすいのが、新規事業の経験者を中途採用すること。新規事業を始めるために、良い新規事業経験者を中途採用して、新規事業開発の責任者に据えれば良いと思われがちです。
しかし、この方法はうまく機能しないことが多いです。

複数の新規事業開発の経験を持つ中途採用者は、確かに新規事業のセオリーを知り勘所を抑えているでしょう。しかし中途採用者は、自社事業の蓄積された強みや技術、組織の力学を知らず、社内の人との人間的な信頼関係がありません。社内を動かせず、新規事業をうまく立ち上げることができないのです。
いかに中途採用者の新規事業立ち上げ能力が高くとも、1人では企業で新規事業を作ることはできません。

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実は私自身、以前勤めたITベンチャー企業で新規事業開発のプロジェクトリーダーをしていたとき、この失敗を犯しそうになりました。

そのITベンチャーは、当時破竹の勢いで成長していました。しかしアメリカ同業ベンチャーの日本参入により一気に競争が激化、会社の成長が急ストップし新規事業の開発が経営命題となりました。新規事業を立ち上げよと社長に命ぜられ、新規事業開発プロジェクトのリーダーを私が担当することに。
当時社長には、立ち上げる新規事業のイメージがありました。「新規プロダクトA案」としましょう。私は新規プロダクトA案のイメージを社長から聞き、事業の企画開発に取り組みました。想定顧客と話し、顧客が抱える課題や苦痛を捉えて、その解決策を検討。解決策を具体化する組織や生産方法を考えて新規プロダクト化し、そのプロダクトのテスト販売をし、上々の結果を得るところまでたどり着きました。
テスト販売結果を社長に報告した際に、事件が起こりました。社長に言わせると、テスト販売までできたものは「新規プロダクトB」であって、思い描いた「新規プロダクトA案」ではないと。社長との激しい議論を交わしました。社長の頭の中の妄想に過ぎない「新規プロダクトA案」を進めたいのか、それとも、テスト販売とはいえ実際に売れた「新規プロダクトB」を進めるのかと。議論の末、テスト販売済みの「新規プロダクトB」を正式に進めることとなりました。

社長承認を得た「新規プロダクトB」の販売を始め、その拡販や組織拡充を進めていたある日、社長に呼び出されてこう言われました。
「新規プロダクトBだけでなく、やっぱり新規プロダクトA案も立ち上げてくれ」

新規事業を立ち上げ時はやることが山積し、とても他のことに手が回る状態ではありません。その上、新規プロダクトA案は、私の能力では対応が困難な内容であり、できる能力を有する人は社内にいない。しかし社長はやりたいと言っている。そこで、禁断の手段である「新規事業の経験者を中途採用で社外から連れきて、新規プロダクトAの立ち上げリーダーにしよう」と考えました。

何人かの知り合いのヘッドハンターらに相談しました。すると、そのやり方はやめたほうが良いと、全員から助言されました。別々の方に相談したにも関わらず、みな一様に、次のような流れで失敗すると教えてくれました。

中途採用者入社時
・新規事業で実績のある人(Cさんとする)を中途採用する。
・入社時は、社長や経営陣の期待は青天井。凄い人が来てくれたと、社長が必要以上に期待を膨らませる。
・Cさんやる気十分、社長の期待に応えようと奮起する。
・元からいる社員は、ほとんどの人はお手並み拝見状態。新規事業は自分の担当外なので遠目に眺めるだけ。
  ↓
入社後半年ほど
・Cさん奮起するも半年経っても何もできないまま。(自社の強みや技術を知らず、社内人脈がなくて周囲の協力得られず)
・社長の期待は急速にしぼみ始める。
・ほどなく社長が梯子を外す。
  ↓
入社後1-2年
・更に暫く経つと、社長がCさんはダメな人だったと言い始め、Cさんに責任転嫁する。
・元からいる社員は、うまくいかない新規事業から意識的に距離をおこうとする。
・何もできないまま。Cさんの心が折れ、1〜2年で退職する。

新規事業に向く資質を持ち、複数の新規事業開発の経験を持つ中途採用者は、新規事業のセオリーを知り勘所を抑えています。しかし自社事業の特徴や強み、社内人脈がなく、社内を動かしたり、社内の協力を得ることができないため、「新規事業リーダーを中途採用して据える」方法はあまりうまくいきません。

■経験豊富な中途採用者の活用方法 

一方で、いきなり新規事業リーダーに据えなければ、複数の新規事業開発の経験を持つ中途採用者は、新規事業開発の大きな力になります。

うまくいきやすいパターンは、複数の新規事業開発の経験を持つ中途採用者に、まずは保守本流事業で2〜3年以上働いてもらい、その後、新規事業チームに加える方法です。
保守本流事業で数年働くことで、自社の強みや技術、様々な部署の人たちとの関係性、組織風土や意思決定のクセなどを知るようになります。 

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新規事業リーダーは、新規事業の資質持つ社内の生え抜き人材が担い、その人の右腕左腕として、複数新規事業開発の経験を持つ人を中途採用するのもうまくいきやすい。
豊富な新規事業経験を持つ人を惹きつけるには、魅力ある新規事業のビジョンや意義深い新規事業の姿を描く必要があります。そのハードルを越えられるかどうかが問題です。

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社内の生え抜きイノベーター人材を新規事業リーダーに据え、その人の右腕左腕として、複数新規事業開発の経験を持つ人をコンサル利用するのも良い選択肢。
新規事業の当事者経験があり、企画立案経験に加えて新事業を立ち上げて事業運営経験もあるコンサルタントを探して利用しましょう。

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平成時代の大成功新規事業のNTTドコモ iモードの立上げ初期体制は、まさにこの通りでした。 iモード立上げプロジェクトリーダーは、生え抜きの榎啓一氏が、法人営業部長と兼務しながら。右腕は、新規事業開発の経験豊富な中途採用組の松永氏(リクルート社「とらばーゆ」元編集長)と夏野氏(ハイパーネット社元副社長)が活躍しました。
中途採用組が加入する前から、左腕にはコンサル会社のマッキンゼー(後にDeNA社を創業した南場氏ら)を利用しました。そこに社内公募の異動者数名。
寄せ集めの「外人部隊と志願兵」チームが、後の大成功新規事業iモードのスタート時点の体制でした。



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