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スペシャルコンテンツ 幸野志有人 SHOOT KOHNO Vol.1「サッカー選手を続けるために、サッカー以外で稼ぐ」

現役サッカー選手でありながら、アパレルブランド、ラジオMCなどビジネス面でも多彩な才能を発揮する。
幸野志有人はサッカー選手を続けるために、サッカー以外でも稼ぐという新たなロールモデルを作ろうとしている。
「SmartSportsNews」の独占インタビューを3回に分けてお届けする。


サッカー選手の当たり前を変えたかった

――幸野選手は今年に入って「CLUB SARCASM(クラブ・サーカズム)」というアパレルブランドを立ち上げられて、売り上げも好調だと聞きました。Jリーガーのアパレルというのは珍しくはないと思いますが、幸野選手の場合は自身で工場と交渉したり、デザインから生地選び、発注までやっているそうですね。引退後ならまだしも現役のうちにそこまでできる選手は少ないと思います。まずはなぜサッカー選手以外のところでビジネスをしようと思ったのですか?

僕が洋服とかサッカー以外のことでお金を稼ぎたいと思ったのは、そもそもサッカーがめちゃくちゃ好きで、サッカーをなるべく続けたいと思ったからなんですよ。

――サッカー選手を続けるために他で稼ぐと?

サッカー選手の価値というのはピークを過ぎると基本的には落ちていきますよね。それに伴って自分の年俸が下がってきて、これ以上はもう現役を続けるのが難しくなったから引退しなければいけないっていう状況を変えたかった。それがそもそもの発想のスタートですね。

――年棒が下がっても他で稼げていれば現役を続けることができるということですね。

プライオリティの一番上はもちろんサッカーで、そこがもうやりたくないと思ったらいつでも辞めるつもりです。でもまだやりたいと思っていて、やれる自信もあるのに辞めなければいけないという状況にならないようにしたかった。だからサッカー以外のことで稼いでおこうと思ったんですよね。ただ、しっかりとマネタイズして、サッカー選手としての給料と合わせて生活していけるようにするのは簡単ではないと思います。でもいずれはサッカー選手以外のことに切り替えなければいけないのだとしたら少しでも早く始めたほうがいいですよね。もちろん、そこでサッカーに支障が出てはいけないというのは前提にありますけど。

――サッカー以外のビジネスで稼ぐことで、そういう不安から解放されて自由にサッカー選手を続けられるわけですね。

自分がそういう状況になってわかったことなんですけど、日本だと12月頃になると契約延長か満了かを告げられるんですね。選手としては年内に契約を決められなければ結構キツいんですよ。実際、去年は厳しかったし、今年もコロナの影響でもっと厳しいと思います。そういう不安な気持ちで年を越すのはすごく嫌なわけです。そういうときに毎月安定した収入があったら精神的に全然違いますよね。

――それは当然そうだと思いますね。

僕は独身なのでそこまで気にしていなかったんですけど、家族がいる選手はもっと不安じゃないですか。例えば契約満了が告げられてからある程度時間が経って焦りがあるなかでオファーが届いたとします。そもそもオファーがあるだけありがたいですけど、そのオファーも、もうちょっと待てばもっと良いオファーがあるかもしれないけど、それを待つ余裕がないからそれを選ぶしかなくなる。もしくは金銭的にやっていけるオファーがなく他からの収入源もなければ現役を辞めなきゃいけなくなる。
そういう状況を避けたかった。

昔からずっと服が好きだった

――サッカー以外のことで稼ごうと考えたときにアパレルブランドを選んだ理由は?

幸野 アパレルに関しては、自分がサッカー選手でファンがある程度いるから売れるだろうか、そういう発想で始めたわけではないです。単純に昔から洋服が好きでずっとやりたいと思っていたからです。好きなもののほうが最後は踏ん張りが効くと思うので。

――踏ん張りが効くというのは?

幸野 好きなものであれば面倒なことも頑張れるじゃないですか。今までだってサッカーという好きなことしかやってきていなくて、これからも好きなことをやって生きていくのが一番幸せだと思います。そういうものを突き詰めていけば仕事にもなるし、お金も稼げますから。だから好きなものはたくさんあったほうがいいと思いますね。

――そういう好きなことをして生きていきたいという価値観は昔から持っていました?

幸野 2018年に左膝の前十字靭帯を断裂したときもそうだし、他の怪我でサッカーができない時期は結構あったんですよ。そういうときにサッカーができなくてストレスを感じることが全くなかったです。もちろん、サッカーはめちゃくちゃ好きなんですけど、サッカー以外にも好きなことはたくさんありました。だからサッカーができなくてもストレスを感じなかった。正直、そういう時期にサッカーがやりたいと思ったことはなかったですね。それでも当然、リハビリはしっかりとやります。ただ、好きなことがたくさんあったことで変に自暴自棄になることはなかったので、それは本当によかったなと思っています。

“10割”の選手は不安を抱えている

――そういう時期にサッカーだけではなくて、他でも稼げる手段があったほうがいいという発想になったわけですか?

幸野 去年から今年にかけて実際にチームが決まらない時期があって、そういう切羽詰まった状況を経験してこのままではダメだなと改めて考えさせられましたね。ただ、こういうことを現役の選手に話してもなかなか理解できないというか、難しいと思いますね。例えばこのインタビューが記事になって、この記事をこういう経験をしていない選手が読んでどれくらい共感できるか。やっぱり自分で経験していないとそういう発想にはならないと思います。ただ、選択肢としてこういう道もあるんだと認識してもらうだけで全然違うと思います。

――現役の間にそこまで考えている選手というのはなかなかいないですよね。

自分がFC東京に入ったときも他のことをやりながらプレーしている人はいなかったですね。そういう時代でもなかったと思います。引退した人がそういうキャリアのことについて話してくれることはありましたけど、引退した人と現役の人が言うのでは全然違いますよね。僕みたいに他でなにかサッカー以外のことをしている人がチームにいて、そういう選択肢もあるんだなと感じてもらえたらいいなとは思います。そこからはその人がどう選択するかだけですけど。もちろん、全員が全員、現役のうちからそういうこと考えてやったほうがいいは思いません。あくまでも選択肢として視野に入れておいてもいいなということですね。


――幸野選手のように先々のことを考えながらやりたいことも明確な人はなかなかいないかもしれないですね。

幸野 別にクリエイティブなことでなくてもいいんですよ。資産運用でもいいと思います。そういう選手として不安定な状況になったときに、ちゃんとオファーを吟味できるくらいの余裕が持てるようにリスクヘッジを考えておく必要がありますよね。でも確かに実際はそういうことを考えてやれている選手はごく少数だと思います。ただ、10割の選手はそういう不安を抱えていると思います。でもやれているのは 1割くらいじゃないですかね。それはあくまでも僕の感覚ですけど。

――10割は不安に思っているのに1割しかできていないというのはすごいですね。

幸野 選手として稼いでいるときに、ちゃんと次のことも考えておいたほうがいいと言われてもそんな言葉は耳に入らないですよね。でもいくら稼いでいてもそういうときは絶対に来るんですよ。逆に選手としての価値が高いうちにそのブランドを活かしてビジネスを展開するのはアリだと思うんですけどね。引退間際でブランド価値が下がったときにやるより絶対にいいと思います。

■プロフィール
幸野志有人(こうの・しゅうと)
1993年5月4日生まれ、東京都江戸川区出身。各年代の日本代表に選ばれ、JFAアカデミーの1期生となる。2009年のU-17ワールドカップには唯一の高校1年生として出場した。16歳でFC東京とプロ契約。その後、複数のJクラブを渡り歩く。2020年、オーストラリアのシドニーオリンピックFCに移籍するも、開幕前の大怪我によって退団。復帰を目指してリハビリをしながら、アパレルブランド「CLUB SARCASM」を立ち上げるなど、サッカー以外にも精力的に活動している。
https://www.instagram.com/shoot_kohno/
https://www.instagram.com/clubsarcasm_1993/

■クレジット
取材・構成:SmartsSportsNews編集部

Vol.2, Vol.3 は Smart Sports News 本サイトにてお楽しみください!
https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/5fae54b082f02561e9268814
https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/5fae54ba1ce93b77d4362832

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