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これからのSmartHRの話をしよう─資金調達を経て目指したい、業務効率化の先の世界

こんにちは。SmartHR CEOの芹澤です。
先日シリーズEラウンド実施の記者会見を行い、SmartHRの新プロダクトや事業のこれからについてお話ししました。

おかげさまで多くの反響をいただきましたが、今回の一連の会見ではSmartHRが「なぜ」このような領域で事業展開をしているのかはお伝えできなかったので、この note でその辺りについて詳しく書きたいと思います。

僕たちの新しいプロダクト

会見では今後の事業展開として「人事労務領域」「情シス領域」「従業員領域」「プラットフォーム領域」におけるプロダクト開発について話しました。まずはそれぞれの領域について、開発の背景や狙いをご説明します。

最初は人事労務領域。SmartHRが祖業とする領域ですが、プロダクトローンチから8年がたった今もなお、テクノロジーによる効率化の余地が多く残されています。新プロダクトとして発表した「勤怠管理」(※1)もその1つです。勤怠管理はバックオフィス担当者、従業員双方にとって負担の大きい業務で、従業員の入退社や部署異動に伴う設定変更もコストとなっています。SmartHRで「勤怠管理」のプロダクトを提供することで操作性だけでなくシームレスなデータ連携による効率化も望めます。

次に情シス領域。近年、各種レガシーシステムの保守サポート終了やIT人材不足の加速に伴い、多くの会社でクラウドサービスの導入が進んでいます。その中で生まれてくる課題の1つがID管理です。従業員からバックオフィス担当者に宛てた問い合わせのうち「ログイン方法を忘れた」というものは決して少なくないですし、ID/パスワードの不適切な管理はセキュリティインシデントにもつながります。
SmartHRでは従業員が適切な権限設定のもとログインできる状態になっているので、SmartHRのIDと各種クラウドサービスのIDを紐付けて管理することはとても合理的です。
まずは各種クラウドサービスにシングルサインオンする機能を無償で提供して(※2)、それを足がかりに、DX人材の一人当たりの生産性を上げていくプロダクトを拡充していく予定です。また、情シス領域への展開に伴い、業務委託やアルバイトなど様々な雇用形態の方にも柔軟にご利用いただけるよう、雇用形態別で契約プランを選択できるようにもしていきます。

3つ目は従業員領域。バックオフィス業務の多くは、バックオフィス担当者と従業員のやりとりの上に成り立っています。何かを依頼したり、申請したりといったものです。
SmartHRのプロダクト作りにおけるこだわりの1つは「管理者だけでなく、従業員にとっても使いやすいシステムを作る」ということです。前述のようにSmartHRがカバーする業務範囲が増える中で、従業員が「従業員ポータル」(※3)にアクセスすれば「何をしたらいいか」がわかるような状態にし、バックオフィス担当者と従業員のスムーズなやり取りを後押ししていきたいと考えています。

最後にプラットフォーム領域ですが、会見では外部システムとの連携機構を強化し、ノーコード・ローコードで柔軟なデータ連携を実現するプロダクトについてお話ししました。
これまでの3つの領域とやりたいことは一貫していて、それは「従業員データを中心に据えて、すべての業務がSmartHR上でつながる」ことです。

思いのほか見過ごされがちなのですが、多くのバックオフィス業務では前工程・後工程にシステム間のデータ連携処理があり、担当者はCSVの加工に労力を割いています。従業員データを中心にすべての業務がSmartHR上でつながることで、このデータの加工・同期コストを削減し、各領域における個別の業務効率化だけでなくバックオフィス業務全体の効率化を推進していきたいのです。

効率化の先にあるもの

DX(Digital Transformation)の基本は、紙や手作業による業務をテクノロジーにて置き換えていくことであり、僕たちが実現したいことは「働く」をよりよくすることです。たしかに効率化・自動化は世の中を便利にしていきそうですが、僕たちがやるべきことはこれだけなのでしょうか。

経済学者のダロン・アセモグルは著書「技術革新と不平等の1000年史」で以下のように書いています。

デジタル・テクノロジーが仕事を自動化したせいで、労働は資本に対して、低スキルの労働者は大卒以上の労働者に対して不利になった。
(中略)
単純で、型にはまった、スキル不要の仕事は、リエンジニアリングされた環境には、ほとんど見られなくなるだろう。実際、複雑な仕事を担う賢い人は、必ずと言っていいほど大卒もしくは大学院修了の労働者だった。

ダロン・アセモグル「技術革新と不平等の1000年史」

僕たちはよく「単純な作業は機械に任せて、人間にしかできないことをしよう」と言います。ウェブエンジニアを出自とする僕も、常にこれを考え、世の中の自動化の余地を探っています。前述の「従業員データを中心にすべての業務がつながる」というのもこの思想の上に成り立っています。
ただ、忘れてはならないのは、それらの自動化によって残る仕事は相対的に複雑な仕事であり、難易度の高いものであるということです。「人間にしかできないこと」というのは多くの場合、トレーニングを受けた人が取り組むことを前提としており、そうでない人は活躍の機会を失ってしまう可能性がある、ダロン・アセモグルはそのことに警鐘を鳴らしているのです。

彼はここに対する打ち手として以下のように書いています。

トヨタは次々に作業を自動化したが、生産性は対して上昇していないことがわかった。というのも、労働者が現場に関与していなかったため、柔軟性と、需要や生産条件の変化への適応力を失ってしまったからだ。
(中略)
トヨタは独自の経営原理を応用した。その1つが、高度な機械を労働者のトレーニング、柔軟性、自発性と結びつけるアプローチだった。

ダロン・アセモグル「技術革新と不平等の1000年史」

つまり、テクノロジーを使いこなし、新しい働き方に適用できるようトレーニングをする機会を提供するべき、ということです。

ここで思い出したいのが、SmartHR社のコーポレートミッションです。私たちは「労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる」こと(= well-working)を目指していて、そのために「作業の効率化」と「エンゲージメントを高めること」を掛け合わせたサービス展開をしてきています。後者の「エンゲージメントを高める」ためのアプローチがタレントマネジメントであり、ここ最近では以下のようなプロダクトをリリースしています。

僕たちは人と組織に投資するための武器を揃えてきています。かつてトヨタが行ったように、業務の効率化だけでなく、従業員のエンゲージメントを向上しポテンシャルを引き出し、組織の出力を最大化することをサポートしていきたい。それが私たちのつくりたい well-working な世界だと考えています。

SmartHRの現在地

とはいえ、僕たちはその理想に対しては道半ばな状態です。効率化の側面でも、僕たちがカバーできているのはバックオフィス業務のほんの一部です。もっと領域を広げていかないとそもそものバックオフィス業務の最適化は実現できません。

タレントマネジメントに関しても、ようやくプロダクト群が揃ってきたところであり、それを活用してワークエンゲージメントの向上というアウトカムに繋げていけるのはまだまだこれからです。

今回の資金調達を経て、理想の実現を加速させたいのです。

一緒に働く仲間を募集しています

理想の実現を加速させる手段の1つは採用です。僕たちは現在、ほぼすべての職種で募集をオープンにしていて、今回の資金調達に合わせて各種採用イベントも企画しています。

もしこの記事を読んで僕たちがつくろうとしている未来にご興味を持っていただけましたら、ぜひイベントにご参加していただき、よりリアルな現場の話を聞いていただけると嬉しいです。

どうぞよろしくお願いします!


本文中注釈
※1 勤怠管理は、一部の「SmartHR」導入企業様へは年内提供開始を予定しています。「SmartHR」導入ご検討中の新規の企業様への提供は来年を予定しています。
※2 ID管理のIdP機能(シングルサインオン)は今夏のリリースを予定しています。
※3 従業員ポータルは今秋のリリースを予定しています。