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私が「普通の受験生」に『大学への数学』(東京出版)を勧めない理由

たまにではありますが、受験生から『大学への数学』をやるべきですか?と聞かれます。

『大学への数学』とは東京出版の月刊誌です。

「やるべきかと聞くのだから、今はやってないのかな?」と問うと、答えはイエスとなることが大半です。

「ならば、無理をしてやる必要はないよ」と答えています。私は、仕事柄毎月購読していますが、良さを実感する一方で、問題がなくもないかなと感じるからです。

意欲を持ってやることに意義があると思うので、「やりたい」人を止める理由はなく、むしろ積極的にやるべきだなと思います。ただ、義務感にとらわれてまでやる必要はないかなと感じます。

今回は、『大学への数学』について、普通の受験生に向けて考えを書いてみます。

解説が微妙である

私が普通の受験生におすすめしない理由は、まず解説が微妙であることが挙げられます。そもそも『大学への数学』の読者は、かなりの水準であることを前提とされているので、発想(着眼)・式(論理)展開が独特です。高度だと言ってもいいでしょう。その結果、「どうしてこうなるの?」という解説が一定数出てしまいます。これに「普通の受験生」がついていくのは容易ではなく、示される別解も特殊な例が紹介されており、「普通に解くのでは、ダメなの?」と思うことがあります。

ハマる受験生は、偏食受験生が多い

私は、数学、物理、化学を担当していることもあり、受験に対する考えはバランス主義です。特定の科目を絶対視することは受験的にメリットがないと思っています。
いろんな受験生をみてきましたが、明らかに特定の科目への肩入れが強くなる人はいます。高校生時代の同級生は、生物が好きで、1日12時間近く勉強していると豪語していました。もちろん生物については、定期テストは当然として、記述模試もマーク模試も、そして入試でも満点を狙っていました。

ただ、その他の科目は、「やる気がでない」とこぼすことが多かったように思います。受験的には不利なタイプだと言えます。実際にそうだったようです。

数学もハマることが多い科目です。数学を突き詰めたいと考える受験生にとって、『大学への数学』はとてもいい環境を提供してくれる雑誌です。ただ、それはバランスを崩しやすい要因とも言え、結果として「数学偏食」受験生を生み出すことにつながります。バランスを上手にとれるのであれば、いいと思いますが、そのたりは気をつける必要があります。

言い換えると「普通の受験生」は、そもそも数学偏食にならないので、この雑誌で学ぶには難しい環境にあるとも言えなくもありません。

大学別対策に向かない

私が一番おすすめしない理由は、大学別の対策に向かないことです。私は総合型選抜入試について言及していますが、だからといって一般入試がいい制度だと思ってはいません。その理由の一つが、数学の問題がマニアック過ぎることが挙げられます。『大学への数学』は皮肉にも、それを可視化する雑誌になっていると思います。

ハッキリ言って、このような広範囲なレパートリーの問題が出題されている現実はどうなんだろうと思っています。このあたりを物理、化学と比べると明らかに問題なのではと思います。

ある受験生は「数学はコスパが悪すぎる。数学の高得点を前提にした戦略はありえない」と言っていましたが、その通りだと思います。

なので、数学の対策は原則、大学別対策であるべきと思います。
ある程度の幅は必要ですが、例えば九州大を目指すなら、九大がよく出題している問題やその周辺に対策を絞ることが必要です。そうしないと数学の無間地獄に陥る危険性があります。

『大学への数学』はいろんなレパートリーの問題が載っていることがメリットではありますが、それが「このような問題がでたらどうしよう」という不安心理喚起させ、結果として数学の勉強時間を増やし、他教科の勉強の時間を圧迫することにつながります。これではデメリットになりかねません。

このあたりも「普通の受験生」が手を出すメリットがないところです。

何事も使いようである

個人的には『大学への数学』は好きな雑誌ですし、いい雑誌だと思っています。アーカイブ的な価値もある意義深い専門誌だと思います。ただ、受験生にとって『大学への数学』はあくまで道具です。そして、使いようによっては、毒にもなる強い側面を持ちます。少なくとも「普通の受験生」が使いこなせるような雑誌ではないと思います。

別に『大学への数学』でなくても受験に適した問題集・参考書はたくさんあります。無理をして使う必要ないと思いますし、「普通の受験生」ならなおさらだと思います。

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