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日曜日の本棚#11『白い濁流』小藪浩二郎(笑がお書房)【決して小さくない食品添加物という現代の闇】

毎週日曜日は、読書感想をUPしています。
前回はこちら。

今回は、NHKBSでドラマ化された小藪浩二郎さんの『白い濁流』という小説です。
小藪浩二郎さんは、食品添加物の問題を社会に提起されてこられたジャーナリズムの方というイメージだったので、小説を書かれたというのは驚きでもありました。

あらすじ

食品業界の深い闇に鋭く切り込んだ問題小説!
薬学を志す、好並一樹は名門大学教授の研究室で卓越した才能を発揮していた。
研究開発で協力する製薬会社が製造した保存料でさつま揚げに異常が発生するが、新しい添加物を開発し製薬会社の信頼を手に入れる。
その後も開発や特許をめぐる企業間競争に巻き込まれ、ふせいに手を染める状況に追い詰められていく。
一樹が発明した甘味料を添加したハムを分析した結果、発がん性が強く疑われている。
使用を直ちに禁止するべきか隠蔽するか。一樹は添加物で白く濁った濁流の中でもがき苦しむ夢に悩まされるようになる。
(作品紹介より)

懐古調恋愛小説?

主人公は好並一樹という研究者。物語は、京都大学をモデルにした京都総合大学に通う大学生のころから始まります。本作は、食品添加物に翻弄される一樹の人生を描いていきます。そのため、人に焦点を当てた「小説」として貫かれています。一樹は、同じ大学の法学部に通う高校の同級生・河原智子に想いを寄せており、これも人を描くことを主眼として考えられた設定であるのでしょう。

また、一樹の人生を狂わせる存在となる、食品添加物を製造販売する北野製薬との接点も社長の息子の家庭教師という形から入っています。

そのため、本作は恋愛小説という側面もあります。ただ、作者の世代の価値観が深く投影されていることもあり、懐古調な印象もある小説といえそうです。

食品添加物の記述は冴えに冴えている作品

小説とはいえ、本作の主役は、やはり食品添加物のついての話。ここは作者のこれまでのジャーナリストとしての活動もあり、冴えに冴えているといえます。食品添加物がどのような過程で開発されているのか、食品会社はどのように利用しているのかの記述は、リアルです。

高温で揚げるポテトチップスで食中毒が起こるという話は、なかなかの着眼点であり、添加物に目を向けさせるいいアイデアであるといえます。

NHKのドラマは、原作をうまく生かせていない。

本作は、NHKBSで伊藤淳史さん主演でドラマ化されています。私もこれがきっかけで本作を手に取っています。

ただ、作品の良さを引き出せていない印象です。ドラマ向けのアレンジがイマイチということもありますが、多くの食品会社がスポンサーになっている民放では、食品会社の闇を描く本作の映像化は不可能である以上、NHKでしか作れない作品であるはずです。本作が優れているジャーナリズム視点の告発性が弱いのが残念でなりません。

本作に限れば、ドラマより原作が推しとなります。

アンバランスに目をつぶれば読む価値のある作品

ヒロインともいえる河原智子があまりに男性目線の理想化された人物として造形されていたり、北野製薬社長の息女・葉子が現代の若い女性とはかけ離れた価値観を持っているなど、キャラクターについて著しいアンバランスが垣間見られる作品ではあります。しかし、そこを寛容に見れば、本作は読む価値があるといえます。少なくとも、食品添加物のことは日常生活で気にすべきことだという意識は芽生えるのではと思います。

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