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日曜日の本棚#37『メトロポリス』手塚治虫(講談社)【漫画の神様ですら、予見しえなかった未来に生きる私たち】

毎週日曜日は、読書感想をUPしています。

前回はこちら。

今回は、手塚治虫さんの『メトロポリス(大都会)』です。このコーナー初の漫画作品で、1949年の作です。初期SF3部作の一つと言われています。
実は、私はあまり手塚作品を読んでおらず、しっかりと読んだのは『ブラックジャック』と『奇子(あやこ)』だけなので、なかなか興味深い読書体験でした。

作品紹介(講談社作品紹介より)

太陽の大黒点の影響によって、世界一美しい人造人間ミッチイが誕生した! 天使の姿と悪魔の超能力を持ったミッチイをねらう、秘密組織レッド党の陰謀とは何か!?漫画史上にその名も高い古典的名作、堂々大登場!!

所感(ネタバレを含みます)

◆手塚作品のキャラクターとストーリーの関係性

本作の主人公は、ミッチイという人造細胞によってつくられた雌雄両体のキャラクターです。このミッチイは、のちのアトムの原型となると手塚先生が語っておられます。

驚くことに手塚作品のキャラクターは、多くの作品に登場するとのこと。ヒゲオヤジや敵役のレッド公爵もしかりです。

手塚作品におけるキャラクターは、徹頭徹尾ストーリーの中で厳格に作者によって決められた動きをすることを求められます。

そのため「キャラクターが勝手に動き出す」ことはないのでしょう。

多くの作品が後続の漫画家に影響を与えた作家ですが、このキャラクターの使い方を継承した漫画家は少ないのではと思います。

それは、精緻なストーリーを組み上げることができる能力は、手塚治虫に比肩する人物がいないからともいえそうです。

モブシーンが与えた影響
一方で、表現方法として、モブシーンが与えた影響は大きいのだろうと実感します。

冒頭からモブシーンが連続してでてきます。これは圧倒されます。
ここで手塚先生は、キャラクター一人一人に自ら主線(おもせん)を入れていたとか。
宮崎駿監督の『風立ちぬ』でのモブシーンは有名ですが、これは手塚先生からの影響であったことは疑いようがないところだと実感しています。

この時期の手塚先生は、漫画一本ということもあり、絵がとても立体的だと感じます。『ブラック・ジャック』の方が漫画的な絵だったのだと感じます。のちにアニメーションを手掛けるようになり、漫画とアニメーションの使い分けをされておられたのかもしれません。

◆冒頭の印象的なセリフは今も有効だが・・・。

冒頭、ナビゲート役のキャラクターは、恐竜や大型動物の絶滅を紹介したのち、こう言います。

「いつか人間も発達しすぎた科学のために、かえって自分を滅ぼしてしまうのではないだろうか?」

この言葉は、物語の舞台となった19××年よりも未来となった現代でも尚、有効な言葉になっていると感じます。

しかし、科学よりももっと恐ろしい存在が私たちを滅ぼしかねないのかもしれません。

それが資本主義です。

地球環境を破壊しているダイナモは科学ではなく、むしろ資本主義なのではないか。本作を読むとそれを痛感します。

どこか憎めないヒールのレッド公爵がロボットたちを酷使する場面は、非正規労働者を増やす新自由主義者を連想させます。

当時は、社会主義国家も誕生し、労働運動も盛んだった時代。さすがの手塚先生も竹〇〇蔵のような人物が到来する資本主義隆盛の未来を予見するのは難しかったのだなあと実感します。

「いつか人間も発達しすぎた資本主義のために、かえって自分を滅ぼしてしまうのではないだろうか?」

は、よりリアリティを感じます。

大手ハンバーガーチェーン店のために、アマゾンの森林は破壊され続けています。必要のない森林の伐採を止めるためには、私たちの生活のあり方を考え直すことが必要で、本当の意味での持続可能社会は、私たちの欲望を抑制するための手段ではないかなと感じます。

私たちは、漫画の神様すら予見しえなかった未来社会を生きている。そのことへの危機感は持つべきなのだと実感しています。


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