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私たちがこの30数年で失ったものを問う(5)【北と南の半導体コンチェルト。欠けていると感じるある議論】

私たちは、この30数年で何を失ったのか。それを考えています。

前回はこちら。

かつて日本は、半導体王国でした。世界シェアの50%近くを日本企業が持っていた時代もありましたが、今や10%を切る瀬戸際とされています。

なぜここまで凋落したのか。電気機器メーカーの新電元工業が端的にまとめています。

これは、富士通の元幹部の方の証言とほぼ一致します。

その日本が巻き返しの一手として力を入れているのが、南北に工場を建設する2つの会社です。

北の大地、北海道千歳市に工場を建設するラピダスは、トヨタ自動車、デンソー、ソニーグループ、NTT、NEC、ソフトバンク、キオクシア、三菱UFJ銀行が出資する「最先端半導体」を手掛ける会社です。

一方、南には、かつてのシリコンアイランドの拠点だった熊本県に進出する台湾のTSMCの工場です。

九州に住んでいると、このTSMCの熊本進出は、まさに半導体「狂」想曲ともいうべきもので、いいことばかりしかないと言わんばかりの報道です。

このふたつの工場建設は、久々の明るいニュースなので、上げ基調になるのはそれはそれでいいのでしょうが、もう少し冷静に見てもいいのかなと感じています。

なぜなら、日本の半導体は、ここが問題だった、今回はこの反省を踏まえてこう改善した

という報道がほどんど出てこないからです。

こういう上げ潮モードの時は、悪い情報を探して問題点を挙げておく方がいいと思っていることもあり、あえて「意地悪な」視点で書きたいと思います。

まず、北海道のラピダスは、国策半導体メーカーとして無残にも散ったエルピーダメモリの悪夢もまだ記憶に残るだけに、先進半導体を目指すとか言っても「大丈夫なんだろうか?」という疑念はあってしかるべきです。

ところが、疑念の声はそこまで大きくないようです。そんなに簡単にリセットモードで大丈夫なのでしょうか。
そもそも、もはや最先端半導体企業とは言えないIBMから技術供与を受けるということからちょっと心もとない。

絵に描いた餅なのでは?と個人的には感じるところですが、もちろん、やらないよりはマシとも思いますが、どのような勝算があるのかは気になるところです。

次に、熊本のTSMCの方は、逆に先進半導体「ではない」工場ですが、これはしっかりとした戦略あってのことなのでしょうか。

これは見方を変えると、薄利多売の廉価半導体の下請け工場と見ることも可能です。もちろん、そうだと言っているわけではありませんし、仮に最先端でなくてもきちんとした戦略があれば、それはそれで問題はないと思います。

どのようなシナリオで、この熊本工場を位置付けているのでしょうか。熊本大学工学部や九州の高専に人材育成をする学科を作っていくそうですが、若い技術者をしっかりと育てていく視点があるのか。単なる使い捨て人材を育成することにならないように最大限の配慮はお願いしたいところです。

ただ単に工場が来た。雇用が生まれる。日の丸半導体の復活だというには、無理があるのかなと感じます。

いろんな面で、この国は疲弊しすぎたと感じます。

この30数年の間に世界最高水準から転落したという失敗を経験した半導体。その失敗から何を学んだのか。捲土重来を期すために何を改善したのか。そこが一番気になります。

その議論が不十分であれば、次も確実に負けるでしょう。反省なくんば、何度やっても負ける。勝負事は、そういうものだと私は思います。



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