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ティンカー、テイラー、ソルジャー、そして、”ジョン・ル・カレ”

 Tinker, Tailor, Soldier, Novelist

12月12日に逝去したジョン・ル・カレに対し、謹んでご冥福をお祈りします。


 寒くなると読みたくなる作家さんがいて、私の場合は、ジョン・ル・カレがそんな作家さんです。

    ジョン・ル・カレは、スパイ小説で人気を博したイギリスの小説家で、多くの著作があります。

 ル・カレのスパイ小説には、派手な銃撃戦も、ハイテクな秘密兵器も、もちろんセクシーな美女も出てきません。

 スパイの行なっていることは、リアルな情報戦で、相手に罠を仕掛けたり、正体不明の黒幕をあぶりだしたりと、地味なスパイ活動が描かれてるのです。

 イアン・フレミングの”007シリーズ”のような派手なスパイものも楽しいですが、ル・カレの生み出す心理的なスパイ・サスペンスも、とても面白くて、読むと、ちょっと大人になった気がしたものです。


 代表作品をいくつか紹介すると


『寒い国から帰ってきたスパイ』(1963)

 スパイ小説の金字塔などと呼ばれる、ル・カレの代表作。
 冷戦が最も緊張化していた1950年代から1960年代頃のベルリンを舞台として、イギリス秘密情報部ベルリン代表部員たちと、東ドイツ諜報部との静かな攻防を描いたものです。


『リトル・ドラマー・ガール』(1983)

 ヨーロッパ各地で頻発するアラブの爆弾テロに対し、イスラエル情報機関がとった作戦とは、イギリスの女優チャーリーをスパイに仕立てて送り込むもの。果たしてチャーリーの運命は!
 みたいな感じの展開なんですが、一見、おいおいって作戦なんですが、緻密に描かれていて、攻防が面白いのです。
 決して軽くはないストーリーなのですが、止まりません。


『ナイロビの蜂』(2001)

 ナイロビに駐在しているイギリス人外交官の妻が殺害されてしまうことが発端に、その真相を追うドラマ。背後に多国籍企業と巨大国家の謀略が浮かびあがってくるって感じのストーリーなんですが、とにかく悲しいんですよね。そのせいか、忘れ難かったりします。


* * *

 

『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』(1974)

 最後に紹介するのがこの本。
 ル・カレの中で、一番、自分が好きなのが、この本なのです。
 
ストーリーは、英国情報部〈サーカス〉の中枢に潜むソ連の二重スパイに対し、元情報部員が膨大な記録を調べたり、関係者の証言を集めながら、真相に迫っていく。みたいな感じなんですが、地味だけど、ずっと緊張感があるんですよね。そこがたまらない。
 タイトルの『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』はマザー・グースからの引用なんですが、4人目の職業は"スパイ"になっていて、誰か一人がスパイなんだってことなんです。

 最終的な真相が明らかになっても、感情が大きく動くわけではなく、敵の方も冷静な対応で、ほんと、大人で老成した展開で、スパイって、こういう世界で生きてるんだと感じさせてくれる作品なのです。


 ル・カレの原作は、けっこう映画化されていて、『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』も映画化されています。

 日本でのタイトルは『裏切りのサーカス』(2011)

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 この映画も良かったな~
 けっこう原作に忠実に作られていたし、主役の元諜報部員を演じているゲイリー・オールドマンが渋すぎでした。
 コリン・ファースやベネディクト・カンバーバッチも抑えた演技で、まさに大人の娯楽作品って趣でしたね。



 90歳近くになった今も、精力的に執筆を続けているジョン・ル・カレ(近年、立て続けにスパイ小説が発表されてます。)ですが、ずっと元気でいてほしい作家さんの1人なのです。


* * *


(追悼、その後)

    残念ながら、先日(12月12日)、ル・カレの訃報が飛び込んできました。
 近年も『スパイたちの遺産(2017)』や『スパイはいまも謀略の地に(2019)』など、健在ぶりを見せてくれていたところなのに、とても残念です。

 氏のご冥福をお祈りするとともに、これまで、様々な作品で楽しませてくれたことに、本当に感謝したいと思います。