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全部観たいデヴィッド・リンチ

 David Keith Lynch 

 気に入った映画と出会ったら、同じ監督の作品を追いかけるのも楽しいもので、自分は、好きになった映画監督の作品は、全部観たくなるタイプなので、そんな監督さんを "note" していきたいと思います。


 

 今回は「カルトの帝王」と呼ばれた ”デヴィッド・リンチ” について

デヴィッド・リンチ (1946/1/20 - )
 アメリカ合衆国モンタナ州出身の映画監督、脚本家、プロデューサー、ミュージシャン、アーティスト、俳優。
 低予算映画『イレイザーヘッド』で有名となり、「カルトの帝王」と呼ばれることもある。
 2017年に映画監督からの引退を表明しているが、その後、自身の公式YouTubeチャンネル「David Lynch Theater」等で新作短編映画を発表するなど、映像作成は続けている。


【監督作品】
1.イレイザーヘッド (1976)
2.エレファント・マン (1980)
3.デューン/砂の惑星  (1984)
4.ブルーベルベット  (1986)
5.ワイルド・アット・ハート (1990)
6.ツイン・ピークス-ローラ・パーマー最期の7日間 (1992)
7.ロスト・ハイウェイ  (1997)
8.ストレイト・ストーリー (1999、共作)
9.マルホランド・ドライブ (2001)
10.インランド・エンパイア (2006)

<TVシリーズ>
● ツイン・ピークス (1989)※TVパイロット版
● ツイン・ピークス (1990-1991)
● ツイン・ピークス The Return(2017)


(デヴィッド・リンチが観たくなる理由)

①覗いてみたいリンチの”闇の世界”

 リンチの映画には、日常とは違った、得体のしれない闇の世界が存在します。その闇の世界を垣間見れるとこがリンチの魅力でもあるのです。
 リンチの闇の世界は、怖さを覚えるというよりも、何か気味の悪さを感じさせてくれる闇なのです。

【ブルーベルベットの闇】
 リンチがその作家性を前面に出し始めた作品は『ブルーベルベット』だと思うのですが、その冒頭に描かれた場面が、リンチの描く世界の象徴だと自分には感じられます。

赤いバラ、白いフェンス、青い空――。絵葉書のようなアメリカの典型的な田舎町ランバートン。病院に父を見舞った帰り道、大学生のジェフリーは、野原で切り落とされた人間の片耳をみつけた。その耳の真相を追い求めていくうちに、謎めいたキャバレーの女性歌手ドロシーの存在を知り、次第に犯罪と暴力、SEXとSMのアブノーマルな世界に足を踏み込んでいく……。


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 映画の冒頭シーンですが、ボビー・ヴィントンの歌う牧歌的な「ブルーベルベット」が流れる中、赤いバラ、白いフェンス、青い空に続いて、庭の水やりをしている老人が映し出されます。その時、老人は脳溢血?を起こして倒れます。
 その後、カメラは庭の芝生にクローズアップしていき、その向こうの暗がりに何やら虫が蠢く異形の世界を映し出すのです。

 日常と隣り合わせには深い闇が潜んでるというメタファーなのでしょうが、かなりゾワゾワッとさせてくれるシーンなのです。

 物語は、その後、主役のカイル・マクラクランが、犯罪と暴力、倒錯した闇の世界へと誘い込まれていく様子が描かれていくことになります。

 この『ブルーベルベット』では、人間の心の闇が描かれているわけなのですが、エンディングの平穏さが、かえって身近に潜む闇の世界をクローズアップするのです。


【ツイン・ピークスに潜む闇の世界(ブラックロッジ)】

 社会現象にもなったTVシリーズの『ツイン・ピークス』ですが、時期としては『ブルーベルベット』に続くリンチ作品になります。

アメリカ北西部にある田舎町ツイン・ピークスで、人気者だった女子高生ローラ・パーマーが何者かに殺された。
FBIのクーパー捜査官は地元保安官トルーマンと捜査するが、事件の背後には住人たちの複雑な関係が潜んでいた。
更に捜査が進むにつれ、謎の怪現象も発生し始める…。

 捜査を進めるうちに、殺された女子高生に裏の顔があったり、ただの田舎町と思っていたツイン・ピークスにも、実は、麻薬・売春・暴力などが潜んでいたことが明らかになるなど、人の闇が描かれている部分は『ブルーベルベット』と同様です。

 ところが、『ツイン・ピークス』では、途中からスーパーナチュラルなイメージが挿入されて、いよいよリンチ・ワールドが全開になっていくのです。

 そのリンチ・ワールドを代表するイメージとして、TVシリーズ第3話で、捜査官の夢に「赤いカーテンの部屋」が登場します。

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 赤いカーテンにシェブロン・ストライプのカーペットの部屋は、ドラマで起きる事件に関係している別次元の空間の ”ブラックロッジ” の一部という設定です。

 その部屋には ”ブラックロッジ” のいろんな住人たちも登場するのですが、その特異なイメージはインパクト十分で、その後のシリーズ(25年後に作成された”The Return”も含めて)の核心部分となっていくのです。


 ムチャクチャ変てこでしょう____

 当時、何だこれは?!って、観てた人はみんな驚いたと思います。

 まあ、タイトルが『”ツイン”・ピークス』ですからね、隣り合う二つの世界があるってのは、最初から暗示されていたんですよね。


②迷うことを楽しむリンチの迷宮

 リンチ映画では、登場人物や作品世界に ”二面性” を持たせているため、物語構成が複雑になって、出口のない迷宮のような作品があります。

 正直、最後まで観ても ”わからない” というのは、リンチ映画では普通のことと思っていた方が良いかもしれません。
 結末まで観てスッキリすることを求めるのではなく、夢か現実かわからなくなるような ”浮遊感” を楽しみながら、リンチ独特のイメージを感じること、それが正しい観方だと思います。

 特に後年の作品である『ロスト・ハイウェイ』『マルホランド・ドライブ』『インランド・エンパイア』、そして『ツイン・ピークス The Return』などでは、迷宮に迷い込む感覚が得られる、いや、間違いなく迷っちゃうと思います。


『ロスト・ハイウェイ』

ある日、謎のメッセージを受け取ったフレッドは、不気味なビデオテープにも悩まされる。その中には、妻のレネエが惨殺されている映像が映されていた。ショックで意識を失ったフレッドが目覚めると、妻殺しの犯人として死刑を宣告され─。


『マルホランド・ドライブ』

濃厚な闇に覆われた真夜中の山道を走る1台の車。やがてぼんやりとしたヘッドライトに浮かび上がる“マルホランド・ドライブ”の標識。それは一度知ると何度でも味わいたくなる、美しくも妖しいワンダーミステリーへの入り口だった…。


『インランド・エンパイア』

女優ニッキーが出演することになった作品は、かつて主演俳優2人が撮影中に死亡したため、撮影が中断されたいわくつきの映画だった。ニッキーは映画の役にのめりこみ、次第に映画と私生活の区別がつかなくなっていき、やがて奇妙な出来事が起こる。


ツイン・ピークス The Return

クーパー捜査官は異空間にいた。そこで巨人と不可解な会話を交わし、新たな異空間へと飛ばされる。そしてブラック・ロッジにいるクーパーの前にはローラ・パーマーが現れ、彼の耳元で何かを囁く─ 。
いっぽう現実世界には、長い髪にレサ?ージャケットを着たもう1人のクーパー、Mr.Cが存在していた。この男は冷酷で殺人を繰り返していたが、その目的とは一体─ 。



③無邪気に楽しむ『ワイルド・アット・ハート』

 カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した『ワイルド・アット・ハート』は、リンチ映画では特殊なポジションの作品です。

 時期的には『ツイン・ピークス』のTVシリーズと同時期に撮影された作品なんですが、内容にはかなり ”お馬鹿” な部分があって、リンチ映画でなければ振り落とされそうな勢いだったりします。

 TVシリーズの『ツイン・ピークス』にもコメディな部分があるのですが、この『ワイルド・アット・ハート』では、更に、そのコメディ部分が突き抜けてる感じなのです。

殺人を犯してしまったセイラーは、恋人のルーラと破天荒な逃亡の旅に出る。娘を溺愛し、そもそもセイラーを殺しの罠にはめたルーラの母親マリエッタは、暗黒街の顔役にセイラー殺しを依頼するのだが…。


 コメディ映画ではないんです___。が、とにかく、お馬鹿カップルな主役二人をはじめ、出てくる人物が皆アクが強く、過剰な演出はほとんどギャグみたいになってる映画なのです。

 もちろん、リンチらしい暴力や倒錯した世界もありますが、力づくで結末に持っていくパワフルなストーリーを、難しいことを考えずに楽しむ作品だと思います。
 そういう意味で、ちょっと特殊な作品なのですが、自分にとって愛すべき作品なのも間違いないです。



④初期のリンチ映画では異形を楽しむこと

 デビュー作『イレイザーヘッド』は、グロテスクで、ほとんど実験映画みたいでシュールな内容ですが、続く『エレファント・マン』と『デューン/砂の惑星』は、作家デヴィッド・リンチが、商業映画とのマッチングを模索してた時期の作品です。

 『エレファント・マン』は、生まれつき奇形で醜悪な外見により「エレファント・マン」として見世物小屋に立たされていた青年が主人公で、周りの人々と交流を通して主人公の内面が描かれる人間ドラマ。
 『デューン/砂の惑星』は、フランク・ハーバートのSF大河小説『デューン』の映像化作品です。

 初期作品で共通しているのは、異形の者たちが登場することで、特に酷評された『デューン/砂の惑星』なんかは、いびつな登場人物が多くて、その異形さ加減は、実にリンチらしいと感じます。


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 映画監督引退を表明しているリンチですが、インターネットメディアでは、時々、新作短編を発表してくれています。
 ただ、作風はデビュー作の『イレイザーヘッド』を彷彿とさせるものが多くて、映画というよりもリンチ芸術みたいな感じなので、人によっては付いていけないこともあるかもです。


※リンチ映画をはじめて観る場合は....

 若い世代の方の中には、デヴィッド・リンチ作品は『ツイン・ピークス』などのタイトルを知っているだけという人も多いかもしれませんね。

 リンチはくせのある作家なので、はじめての場合は、比較的物語がわかりやすい『ブルーベルベッド』や『ワイルド・アット・ハート』をお薦めします。

 有名タイトルの『ツイン・ピークス』は長いので最後の方はダルダルになってしまいますが、『序章』と『1stシーズン(1~7話)』は抜群に面白いので、「赤いカーテンの部屋」を含めて楽しんでいただければと思います。

 今後、リンチの長編映画が発表されることはないかもしれませんが、ぜひ、過去のリンチ映画にふれてほしいと思っています。