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杉山清貴&オメガトライブのナイトサイド(シティ・ポップの記憶③)

 The City-Pop in my MemoryⅢ


 ”シティ・ポップ” について明確な定義はなく、人それぞれに ”シティ・ポップ” の範囲は異なります。
 ここで言う ”シティ・ポップ” とは、私の感覚で、洗練された都会のムードを感じさせてくれるポップスのことで、80年代のあの時代、好きだったアーティストたちを紹介していきます。 


 私が “シティ・ポップ” と思って聴いていたアーティストに関する “note” ですが、今回は、杉山清貴&オメガトライブについて記事にしていこうと思います。

 そもそもオメガトライブは、バンドというよりもプロジェクトというべきグループで、ボーカルやメンバーが替わりながら、いくつかの形態が存在します。
 杉山清貴&オメガトライブはそのプロジェクトの最初の形態であり、1983年4月にデビューして、1985年12月に解散するまでの2年8ヶ月の間に、7枚のシングルと、5枚のアルバムを発表しました。

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  杉山清貴&オメガトライブといえば

 「夏」と「海」...

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「夏」と「海」!

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「夏」と「海」!!

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 最大のヒット曲が「ふたりの夏物語」だし、ジャケットデザインなどのビジュアルは、常に「夏」と「海」のイメージで、リゾート感溢れる感じなんですが、実は、その影に隠れて、夜の都会のイメージの曲もけっこうあるんですよね。

 自分が魅かれたのは、そんな "ナイトサイド" の部分なのです。


◎都会の夜を駆けるイメージ

 デビュー曲「SUMMER SUSPICION」は、黄昏時から夜に移り変わっていく時間に、女性の運転する車の助手席に座りながら、別れを予感する男性の焦燥を描いたものでした。

 杉山清貴&オメガトライブの曲って、こういう男女の心の駆け引きの場面として、よく車の中が登場するんですよね。
 そして、そんな二人を乗せた車は、都会の夜を駆けていく場面が似合うのです!


「SUMMER SUSPICION」
1983年4月
 作詞: 康珍化、作曲・編曲: 林哲司

ただ言葉もなく走る都会
スモールライトだけで夜に飛び込む


「Misty Night Cruising」1984年12月 
 作詞:康珍化 作曲:杉山清貴 編曲:松下誠

ブレーキを踏む
ひそかなチャンス探し続けて
過ぎるインターチェンジ
君がヒールの脚を静かに組み替えた時
合図さ


「ガラスのPALM TREE」 1985年11月
 作詞:康珍化 、作曲・編曲:林哲司

ためらいを切り裂いて
空に伸びてくヘッドライト
あの時と同じだね
アクセルを踏み込めば
夜霧の彼方 道は分かれる
ふたつの愛をためすようにね


 いや~、走る車という密室空間では、沈黙してても様々な駆け引きがされてるんですよね、そこを描く康珍化さんの歌詞にピッタリなのです。

 自分の場合、隣に女性を乗せてるわけではありませんが(ここ大事!)、夜の高速道路を走ってると聴きたくなる曲なんです!



◎都会をテーマにしたアルバム

 杉山清貴&オメガトライブは5枚のオリジナルアルバムを発表していますが、いつもの「夏」「海」のイメージではなく、「都会」をイメージしたアルバムがあるんですよね。

 それが、2ndアルバム『River's Island』(リヴァーズ・アイランド)で、自分はこのアルバムが好きだったんです!

『River's Island』

 摩天楼のシルエットが描かれたジャケットだし、アルバムタイトルからも、テーマはニューヨークのマンハッタン島だということが伝わってきます。
 もちろん「ASPHALT LADY」や「君のハートはマリンブルー」などのシングル曲も収録されているんですが、それにも増して、都会をイメージさせる曲が随所に配置されてるアルバムなんです。


「RIVER'S ISLAND」
 作詞:秋元康 作曲・編曲:林哲司 

バックストリート 吹き出す白い蒸気
ネオン染まれば虹になった
ここには過去などない
初めて出逢うように
This night シャープに
Lose Sight 暮らしていける

 A面1曲目は、表題曲でもある「RIVER'S ISLAND」なんですが、これが16ビートのアダルティな曲なんですよね~。
 詞の随所に街の風景が描かれていて、この歌のテーマは、まさに "この街" で、アルバムのトーンを作る曲になっているのです。


「SATURDAY'S GENERATION」
 作詞:秋元康 作曲:西原俊次/杉山清貴 編曲:松下誠

あのビルの右肩がパープルに染まれば
あと少しで朝になるわと君は教えてくれた
この部屋の東から見下ろせる街並
遠いブリッジを通り過ぎてく緩い車の流れ

 A面最後の4曲目に配置されていたのがバラードの「SATURDAY'S GENERATION」
 
秋元康さんのストーリー性のある歌詞で染みわたるように始まるバラードなんですが、後半はドラマティックに展開するとこがいいのです!
 このアルバムの中でも大好きな1曲なのです。



「君のハートはマリンブルー」
 作詞:康珍化 作曲・編曲: 林哲司

季節外れの Busが1台
すれちがう 海が見える道
ダッシュボードに 顔を沈めて
君は 泣き出してしまったね

 B面の1曲目がヒットシングル「君のハートはマリンブルー」だったんですよね~。
 「街」というテーマには不似合いな点はあるのですが、B面のトーンを作っていく曲なんです。


「SAIGO NO NIGHT FLIGHT (最後のナイト・フライト)」
 作詞:秋元康 作曲:杉山清貴 編曲:志熊研三

車を寄せたフリーウェイから
遠くの空だけが明るく見える
エアポートには行かないつもり
君に逢ってしまったら自信がないさ
今は何も後悔できなくて
一人きりのナイトフライト

 そして、B面2曲目に配置された「最後のナイト・フライト」は、飛び立つ女性を送っていく場面を歌った寂しい曲なんです。
 ここでも車がでてくるんですが、乗っているのは1人だけなのです。
 前のB面1曲目に収録されている「君のハートはマリンブルー」も車中でのシチュエーションなので、聴いてる方としては、なんかドラマの続きのように思えてくるんです。


「SILENT ROMANCE」
 作詞:康珍化 作曲・編曲:林哲司

テーブルの上に投げ出したKeyを
ぼんやりと見つめ
あなた動かない
パーティの渦 抜け出してきた
霧にかくれる夜へと

 そして、アルバムB面最後の曲も、寂しげなバラード「SILENT ROMANCE」で締めくくられています。
 曲の中で何度も繰り返される "whispering night"(ささやくような夜)という言葉やタイトルの通り、静かに終わっていくのです。


+  +  +  +  +  +


 杉山清貴さんのミントが香ってくるような声って、ほんと爽やかなんですよね~。なので、「夏」や「海」のリゾート感における清涼剤のような歌も似合うんですが、やっぱり寂しげで悲し気なバラードに真骨頂があるように思えます。
 窮屈なプロダクション環境から、数年で解散してしまったのは残念だったのですが、今、聴いても魅かれる歌声なのです。

 自分が、"70年代後半からのAOR" を聴くようになったのは、もっと大人になってからなんですが、この杉山清貴&オメガトライブというプロジェクトが、いかに和製AORを意識したものだったのかということが、今なら分かるんですよね~。
 今回紹介した『River's Island』なんかは、そういう意味で、和製AORの名盤だと思うんです。



※ 追記

 デビュー40周年となる2023年に向けて、「杉山清貴&オメガトライブ 40周年プロジェクト」が進行中らしいです。
 その一環として、林哲司さんによる総監修のもと、アルバムがリミックスされてるらしいです。

『RIVER'S ISLAND REMIX』

 そして、ボーナストラックとして追加された「最後のナイト・フライト

「SAIGO NO NIGHT FLIGHT 86」




(関係note)


<シティ・ポップの記憶>
私のシティ・ポップの原点「アスペック・スペシャル」
夜の都会のムードを感じさせた稲垣潤一
シティ・ポップの貴公子と呼ばれた山本達彦の歌声
寺尾聰の『Reflections』には風が吹く
優しすぎる安部恭弘の歌声
私のシティ・ポップでの重要人物だった井上鑑の音楽