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村上春樹の6つの短編を元にしたアニメの話


 ちょっと前から話題になっていた、村上春樹原作のアニメ映画の話です。
 先日、我が町でも公開されたので観に行ってきました。

『めくらやなぎと眠る女』

 原題:SAULES AVEUGLES, FEMME ENDORMIE
 監督:ピエール・フォルデス

 2022年にフランスで制作され、いろんな映画祭で賞を取ったり、プレミア上映され話題を呼んだ作品なんですが、日本公開に際して、新たに"日本語版"も制作されています。
 私が観たのも "日本語版" だったのですが、感じたことをつらつらと書いていきます。


◎村上春樹作品とアニメは意外と合う!

 私自身、村上春樹原作の実写映画を観てきてるんですが、村上作品の持つ現実と微妙に乖離した世界観というか、リアルと同居する別次元の感覚みたいな、独特の浮遊感が感じられたのは、この『めくらやなぎと眠る女』が初めてでした。
 もしかすると、村上作品の映像化にはアニメーションという手法がもっとも適してるのかもしれません。

 もちろん、作品は日本を舞台にしてるんですが、海外の監督が描いた日本ということもあって、"日本のようで日本でない"、そんな絶妙な雰囲気がまさに村上春樹作品という印象なのです。
 また、人物の画風が妙に生々しくて、最初は抵抗感があるのですが、すぐに慣れます!


◎原作となった6つの短編小説

 原作となった短編小説は、公式HP順に紹介すると次の6編で、後ろの( )内は収録短編集名です。

「かえるくん、東京を救う」(『神の子どもたちはみな踊る』収録)
「バースデイ・ガール」(『バースデイ・ストーリーズ』収録*)
「かいつぶり」(『カンガルー日和』収録)
「ねじまき鳥と火曜日の女たち」(『パン屋再襲撃』収録)
「UFOが釧路に降りる」(『神の子どもたちはみな踊る』収録)
「めくらやなぎと、眠る女」(『レキシントンの幽霊』収録*)

 収録短編集には、他にも全集や逆輸入された海外版短篇集もあります。
 『バースデイ・ストーリーズ』は、村上春樹編纂の、誕生日にまつわる短編小説のアンソロジーです。
 また、「めくらやなぎと、眠る女」について、公式HPでは『螢・納屋を焼く』収録となっていますが、映画の原作としては、改稿され再収録された『レキシントンの幽霊』収録版が正しいと思われます。


◎原作短編と映画の構成(ちょっとだけネタバレ)

 今回の映画は、村上春樹さんの6つの短編小説を原作としたオムニバス形式の作品ではなく、それぞれの短編のエピソードを使いながら再構成された作品です。

 まず、映画で中心となるのは、短編集『神の子どもたちはみな踊る』に収録された「UFOが釧路に降りる」と「かえるくん、東京を救う」です。(原作では"阪神・淡路大震災"後だったものを"東日本大震災"後に変更)
 主な登場人物は、「UFOが釧路に降りる」の主人公:小村その妻キョウコ)と、「かえるくん、東京を救う」の主人公:片桐の3人です。

春樹さんにしか見えない「小村」
原作では名前の無かった小村の妻「キョウコ」
かえるくんと共に東京を救う「片桐」

 基本、「かえるくん、東京を救う」のパートは原作通りに進むのですが、小村とその妻(キョウコ)のパートについては、小村の勤め先が、片桐と同じ東京安全信用金庫新宿支店と変更されていたり、他の短編のエピソードをつないだものとなっています。
 その構成のつながりについては大まかに次のような感じです。

「UFOが釧路に降りる」の冒頭
・小村は片桐の同僚として信用金庫の職員となっている。
 
「めくらやなぎと、眠る女」
・主人公の「僕」=小村となっている。
・入院していた友人のガールフレンド=妻(キョウコ)となっている。
 ↓
「UFOが釧路に降りる」の後半
 ↓
「バースデイ・ガール」
・妻(キョウコ)が二十歳の時のエピソードとして語られる。
・聞き手の「僕」は小村ではない男性。
 ↓
「ねじまき鳥と火曜日の女たち」
・主人公の「僕」=小村となっている。
・妻(キョウコ)、及び猫(ワタナベノボル)の消息が付加されている。

 この "小村とその妻" のパートの間に並行して「かえるくん、東京を救う」のパートが語られていく構成です。
 なるほど、と思うぐらい、"小村とその妻" のパートはうまくつなげられています。

 … と、解説してみたんですが、あ、あれ?
 「かいつぶり」が入ってない!
 すみません「かいつぶり」のエピソードがどの場面で使われていたのか記憶がありません??w(イメージシーンですかね… 誰か知ってたら教えてください!)

 映画とともに原作短編を楽しんでもらおうと、ちょいネタバレ気味の解説部分だったのですが、かえって謎を作ってしまいました。
 多分「かいつぶり」(『カンガルー日和』収録)だけは、映画の前に読んでおくことをお薦めします!


◎「かえるくん」が登場する以上、やはり日本語版が良い!

 今回の日本公開では、英語字幕版と日本語版がそれぞれ公開されています。
 これは好みの問題でもあるのでしょうが、この映画には "かえるくん" というキャラクターが登場するので、私は日本語版を観に行きました。
 作中にも言及されてるのですが、"かえるさん" ではなく "かえるくん" なんですよね。
 このニュアンスは日本語ならではだと思うんです。
 ただ、原作を知ってる人なんかは、この部分がどういう風に英語化されてるのか気になるかもなんで、英語版の予告編も貼っておきますね。


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 相変わらず、ミニシアター通いを続けてるんですが、8月に観た映画の一本がこの作品でした。

 なんともいえない放り出され方なんかは、これまでの実写映画以上にハルキ感満載で、とても良かったんです。
 せっかくなんで、監督であるピエール・フォルデスの他作品を調べてみようと思ったんですが、あまり情報が無いんです。
 その代わり、同じくアニメ映画を撮っていた父親ピーター・フォルデスの作品が見つかったので貼っておきます。
 なんとなく『めくらやなぎと眠る女』におけるイメージシーンに通じるとこがあるように感じるんですよね。

『Metadata』1971



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