【第3話】X-Pro3を買えなかった男
良いカメラというのは、直接、写りに関係ない部分にお金や労力をかけている。加えて、写りも良ければ、文句なしである。
フジフイルムの新製品X-E4が発売早々、シンプルなデザインで人気を博している。最近のフジフイルムは、中判GFX100Sをフルサイズ並みの攻めた値段で発売するなど、すこぶる元気だ。
私はX-E4の先代X-E3を所有していたことが、ボディの質感はチープだった。いまひとつ、所有する喜びを感じられず、X100Vが発売されると、買い替えた。
しかし、X-E4は余計なボタン類を取り払って、その浮いたコストをボディの質感に注ぎ込んだのだろうか、「質感も良い」という人がいたので気になるカメラだった。
「だった」と過去形にしたのは、いまはある理由で関心の外になっているためだ。
前回、私はフジフイルムのプロダクトに「どうしても理解できない、いや、我慢ならない出来事があった」と申し上げた。
そのプロダクトはフラッグシップX-Pro3だった。
私が最初に手にしたフジ機はX-T20。ボディ重量330gと、小型軽量なミラーレスの特性を体現したカメラだった。
しかも、センサーと画像処理エンジンは当時の最上位機種と同じ。スナップだけでなく、長女の大学ラクロス公式戦も、このX-T20に、F2.8通しの赤バッチXF50-140mm&1.4倍テレコンをつけて撮影するのが快適だった。
ただ、これは「フジ機ファンあるある」なのだが、当時のフラッグシップX-Pro2に最も魅力を感じていた。フラットな軍艦部、素通しのファインダー、ボディの質感・・・。フィルムカメラで育った私には好印象だった。
2019年のCP+で握った際には、グリップ感も良かった。スナップ向きな機種なので、いよいよ購入しようとしたところ、フジフイルム関係者から年内に次機種が発売される予定だと聞いた。
「だったら、新型X-Pro3の発売を待とうか」と考えた。
2019年11月、待望のX-Pro3が発表された。しかし、釈然としなかった。液晶モニターを見るとき、わざわざ下開きする必要があるチルト式モニター「Hidden LCD」だった。
同社は「フィルムカメラには液晶モニターがなかった。そのときのように液晶を見ずに撮影に没入してほしい」と説明していた。
これは余計なお世話である。
この説明はフィルムカメラで必死に撮影していた人たちの心情を知らない人が抱く表層的印象論だと感じたのだ。
前回、私はフィルムカメラで仕事していた時の心情を次のように述べた。
現像しなければ、どう写っているのか分からないフィルム時代は、常に撮影結果に怯えていたような気がする。撮影現場から暗室に戻って、現像したフィルムの出来が悪かったときの失望感たるや、「この世の終わり」とさえ思えたものだ。 現場は二度と蘇ってくれない。撮り直しが効かないわけだから、頭を下げるしかない。しかし、デジタル時代のいまはすべて現場で確認できる。素晴らしい進化だと思う。 私のスナップも、いまはシャッターを切ってカメラの液晶を軽くのぞいて「うん、OK」と心の中で呟き、次の被写体を撮影する、このリズムが実に心地よい。
私は多少スペックが劣って不自由なカメラであっても、それは撮影者が創意工夫するべきものだと考えている。しかし、撮影スタイルは決してメーカーに押し付けられるものではない。
ましてや、私の撮影リズムを想像すると、シャッターを切るたびに液晶モニターを開き、しまいには開き放しで、どう見ても情けない格好になってしまいそうだ。私は購入を見送った。
ただ、断っておくが、私の撮影スタイルとX-Pro3が合わなかったというだけで、この機種から素晴らしい撮影体験が得られる人もたくさん存在すると思う。X-Pro3が全ての人にダメな機種だと申し上げるつもりはない。
ただ、「Hidden LCD」には賛否両論が巻き起こったし、X-Pro3の登場を首を長くして待ち望んでいた私にとって、落胆は大きかった。X-Pro4の登場まで、おそらく4年間は待つ必要があるからだ。
2020年秋、ソニーが軍艦部のフラットなフルサイズミラーレスα7Cを発売した。
液晶モニターはバリアングル。これだと、私の撮影スタイルに支障はない。キャッチフレーズは「もっと自由に」。その思想に共感し、発売後まもなく購入した。趣味カメラは気分が大切なのである。
冒頭、新型のX-E4が気になっていたが、いまは関心の外にある、と申し上げた。
というのは、紆余曲折を経て、X-Pro2を購入したからだ。いまから4年前の2017年、限定1000セットで販売され、現在ディスコンの「X-Pro2 Graphite Edition」である。
背面液晶は固定式だが、これでいい。私にとって、下開きするチルト式モニター「Hidden LCD」よりも断然、撮影が快適になるはずだ。
好きなメーカーであっても、新型が最善とは限らない。カメラとの相性は極めて個別かつ相対(あいたい)的なものだからだ。
ただ、大切なことがある。趣味カメラは「もっと自由に」ありたい。「たかがカメラ、されどカメラ」なのである。
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