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シウマイ弁当と熱燗、夜を待ちわびて

落語家の桂歌丸さんの地元は横浜、 
崎陽軒のシウマイ弁当が大好きだったと 
新聞で読んだことがある。 

ご高齢になり病気をされてからは 
同社の炒飯弁当を選ぶようになったとも。 
白米より炒飯のほうが喉の通りが良い。 

関西などの高座に上がるため 
横浜から新幹線に乗る際には
お弟子さんが崎陽軒の弁当を買い揃えた
というエピソードがある。 

崎陽軒のシウマイ弁当は全国区の知名度があるのでは。平日の夕方に買いに行くと売り切れており、感染拡大下でも人気は絶大。時節柄、巣籠りのひとつの贅沢となろう。

このお弁当は、味の染み込んだ筍、あっさり味の唐揚げ、鮪の漬け焼、玉子焼き、蒲鉾など、日本人の郷愁を誘う総菜が豊富。箱のなかで所狭しと居並んだおかずたちの絶妙な配置が、心尽くしのおもてなしを感じさせる。 

僕は休日の昼にシウマイ弁当を買った場合、紐で括られたその包みをしげしげと見つめ、「よし、これは夜にとっておき、晩酌のともにしよう」とすることが多い。そんなときのランチは軽食、カップ麺などで軽く済ませる。そしてその午後は晩酌を展望し、夜を待ちわびる。 

ところで日頃、僕は仕事をするうえで、思考が複雑になって焦点が見えなくなることの例えに、幕の内弁当を引き合いにすることがある。

おかずが豊富ゆえに食べて数時間経つと、何を食べたか記憶に残らない場合があると。仕事にあっては、とんかつ弁当なのか、ハンバーグ弁当なのか、聞き手に印象付けることが大切。

全体を俯瞰したうえで、しっかり要点を絞って書いたり、説明しようと呼びかけている。歌丸師匠の噺のようにわかりやすく、メリハリを効かせるということ。

シウマイ弁当は、主役のシウマイのとんがり過ぎない存在感があったうえで、脇を固める総菜が座長をしっかり支えている。

百花繚乱の派手なオールスター揃い踏みでなく、滋味なおかずたちが、地道な良い仕事をしている。生かし合うこの関係性と均衡が秀逸。この贅沢に奏功するのは、ビールからの、この季節の主役、熱燗。

崎陽軒は夜にとっておく。
しばれる夜のために置いておく。
歌丸師匠を想い、今宵も一献。

「夕暮れや 冷えた弁当 あたたむ燗」弥七

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