あるダンディイズム〜コロンボ譚(1)
アメリカ映画のスターで歌手の
ジョン・ペインを僕は、
刑事コロンボを観るまで知らなかった。
ペインが活躍したのは主に1940年代。
この頃のスターで僕が知っているのは、
ヘンリー・フォンダであり、
ゲーリー・クーパー、
ハンフリー・ボガート、
ジェームス・キャグニー、
ジェームズ・スチュワート、
グレゴリー・ペック。
ジョンといえば、ウェインだった。
ジョン・ペイン演じる紳士に
コロンボは言う、
「彼女はもってあと2ヶ月だと、
医者は言ってます」。
紳士は愕然とし、言うのだ。
「彼女の夫を殺したのは私だ」と。
彼女をかばうのだ。
「刑事コロンボ」で最も好きな巻は
と訊かれれば、僕は「殺しの序曲」か
「忘れられたスター」と答える。
前者は以前ブログでご紹介したので
今回は「忘れられたスター」を。
(半世紀前の巻ゆえ、ネタバレご勘弁)
往年のミュージカルスター、グレース
(ジャネット・リー)は引退して久しく、
もう一度スクリーンの世界へ
カンバック(映画製作と主演)を狙うが、
医者である夫はそれに反対し、
映画作りの資金を出さない。
彼女は夫に睡眠薬を飲ませ、
自殺と見せかけて殺害してしまう。
夫の遺産を得たグレースは
ミュージカル映画製作へと
かつての恋人で映画スターだった、
ダイヤモンド(ジョン・ペイン)に
協力を仰ぐ。
グレースとダイヤモンドは、
撮影開始に向け忙しい日々を送る。
そんななか、毎日のように
グレースの家に日参するのが、
ヨレヨレのレインコートのコロンボ
(ピーター・フォーク)。
グレースとダイヤモンドの
大ファンであるコロンボは、
複雑な気持ちで捜査にあたるも
様々な事実を把握するに至る。
その夜、コロンボはグレースから
自宅での映画試写会に招かれる。
若い頃彼女が主演した
「ウォーキング・マイ・ベイビー」だ。
ダイヤモンドも同席する。
このときコロンボは
「あなたが犯人ですね」と彼女に
印籠を渡すつもりで訪問したのだ。
試写が始まる前、
せわしくその準備をする彼女を横目に
コロンボとダイヤモンドが
ひそひそ話を始める。
彼女が夫を殺したと疑うコロンボを
ダイヤモンドは批難していたから、
コロンボは、殺害方法を立証すべく
淡々と説明する。
コロンボは何故、直接彼女に説明せず、
事前にダイヤモンドに話したのか。
彼女は不治の病に侵され、かつ、
記憶喪失になっていたからだ。
彼女が余命幾ばくもなく、
もってあと2ヶ月だとコロンボは
ダイヤモンドに告げる。
勿論、それを彼女は知らないと。
ダイヤモンドは、彼女に言うのだ、
「君の夫を殺したのは僕だ」と。
そしてコロンボに言う
「警部、僕を連行してください」と。
ふたり。遠い昔、深い恋に落ちた、
グレースとダイヤモンド。
コロンボは呆れるも、
まぁ、それも良いでしょう、
でも「あんたの自供などすぐに覆される」
と告げ、ダイヤモンドと豪邸を跡にする。
このラストシーンでの
ダイヤモンドを演じたジョン・ペインは
惚れ惚れする程の男ぶり。
ダンディイズムとは、こういうものだ。
コロンボと共に警察に出向くべく、
豪邸の玄関で帽子をかぶる堂々たる姿は
僕の中で燦然と輝く、
これぞハリウッドスター。
ちなみに、この巻のなかで、ペインが、ミュージカルソングを歌う場面がある。
静かに口ずさむ、哀愁を帯びた歌声は
40年代に時計の針を巻き戻す力がある。
僕は少年の頃から、
この巻を観続けてきたが、
ペインが滲み出す味を知ったのは
ほんの数年前。
40代の頃までは、
この渋みに気付かなかった。
コロンボの推理力だけに着眼し、
人間ドラマに気付かなかった。
齢を重ね知ることもある。
そうか、そうであったかと。