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駅、シネマ好き男ふたり

早朝の通勤駅のホームに
iPadを携える男性ひとり。
推定60歳過ぎ、スーツ姿でノーネクタイ、
小柄でダークグレーのコート、
黒のリック姿、黒縁メガネが常。

その御仁は電車を待っている間、
車中でも窓際に立ち、
ずっとうつむいて
iPadを食い入るように観ている。

気付くといつも、
彼は僕の横に立ってる。
拙宅からの最寄りの駅、
そして横浜駅でもホームの上、
常々に彼は僕の隣にいる。

僕はさり気なく覗く。
イヤホンをしている彼が
何を観ているのか。
何にそんなに没頭しているのか。

明け方に配信のニュースか、
昨日の株価か、
前夜届いたメールのチェックか、
はたまたゲームを楽しんでいるとか。

果たしてその画面には洋画、
いやもしかしたら海外ドラマが
流れていた。

そうか。
お気に入りの名作映画、
あるいは人気ドラマを観ているのか。

僕も洋画と海外ドラマは大好きゆえに、
思わず計算してしまった。
週5日(本)✕月4週✕12ヶ月=240本

夏休みや在宅勤務を考慮しても
彼は往復の時間だけで
年間最大200本或いは巻の物語を
車中だけで堪能しているのだ。

翻って僕はどうだろう。
ホームや車中は殆ど読書タイム。
週に2冊読むとして
週2冊✕月4週✕12ヶ月=96
在宅勤務を考慮すると
おそらく50冊程度の換算になる。
これはこれで大満足なのだが。

でも早朝からシネマに浸る
その御仁の独自スタイルに
優雅さと羨ましさを覚える。
その手があったか!とすら思う。

そして勝手に想像が膨らむ。
彼は自宅で映画を観れないのだろうか。
あるいは自宅ではAudioなどに凝り、
かなり本格的なホームシアターを設え、
平日の帰宅後、あるいは休日に
シネマ三昧、ドラマまみれに❢?

そんな僕の勝手な妄想を
彼は知るよしもない。
きっと永遠に知ることはない。
そして僕も彼の映画依存度を
知る機会は永久にこない。
声をかけるなどは無粋、野暮。

互いの人生のほんの一時期、
同じホームと車両でのたまさか何かの縁、
隣合わせになっただけ。
ここまでの距離感が程よく、
互いに”映画”好きとはいえ
”ドラマ”を生む必要はない。



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