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相撲基礎練習法 第4回 四股1

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相撲基礎練習法 第3回 股割3


1. はじめに:四股を踏むことの意味は何か?

 今回からは、計5回の予定で四股を中心にしたお話をしたいと思います。初回である今回は、股割の時と同じように、四股というトレーニング法が何を目的としたものであるかということについて整理することから始めたいと思います。

四股を踏むということに相撲の上達との関係でどのような意味があるのかということを理解しておくことはとても重要なことです。なぜなら、そのような認識を持っておくことで、具体的にどのような四股を踏めるようになることを目指すべきなのかであるとか、反対に、どのような踏み方は修正が必要なのかといったことを判断する上での指針を得ることができるからです。

 四股を踏むということが、相撲の上達を目指す上でどのような意味を持っているのかということは、意外に答えるのが難しい問題です。私は以前、四股を踏むことが本当に相撲の上達を目指す上で効率的な練習方法なのかと疑問に思ったことがあります。四股は古くから存在する稽古法であり、かつ儀式的な側面も多分に含まれています。そのため、トレーニング方法という観点からは必ずしも最適化されているとはかぎらず、現代においてはもっと効率の良いトレーニング法が存在しているのかもしれないと考えたのです。

しかし私は、いろいろと試してみた上で、四股を踏むことは他の方法では置き換えることができない、相撲の上達に非常に効果的なトレーニング法であるという結論に至りました。以下では、私がどのような考えからこのような結論に至ったのかについてお話ししたいと思います。

2. 片脚立ちにおけるバランス維持能力の強化

 四股を踏むことの効果として、まず思いつくものとして、下半身の筋肉のストレッチ効果や筋力トレーニング効果などがあります。私は現役時代、これらが四股の主な効果だと漠然と考えていました。そして同時に、このような効果を得たいのであれば、より効率的な方法があるのではないかとも考えていました。下半身の筋肉を対象としたストレッチには他にもいろいろな種目がありますし、筋力を強化したいのならば、高重量でのスクワットなどのウェイトトレーニングを行った方が効果的ではないかと思っていたのです。

確かに、四股を踏むことにはストレッチ効果や筋力トレーニング効果もあると思います。特に、四股を踏むことによる、股関節の動きを滑らかにする効果は非常に大きいと感じています。しかし、このような理解だけでは、四股に含まれているより重要な側面を見過ごしてしまい、最大限の効果を得ることが難しくなってしまうと考えています。

 四股というトレーニング法のポテンシャルを最大限に引き出すためには、四股とは片脚立ちにおけるバランス維持能力を高めることを主な目的としたトレーニングだと理解しておくべきだと私は考えています。もっとも、片脚立ちでのバランス維持能力は相撲に限らず、最近では様々なスポーツで重要視されています。そのため現在は、片脚立ちでのバランス維持能力を強化することを目的としたトレーニング種目は四股以外にもたくさん存在しています。

先ほど、四股よりも効率的な方法でストレッチ効果や筋力トレーニング効果を得ることができるのではないかという問題意識を提示しました。これと同じ発想で、片脚立ちのバランス維持能力を高めるという目的に対しても、より効率的な別のトレーニング法が存在するのではないかと疑ってみることもできそうです。

この点については、相撲において特別に必要となる身体操作が四股以上に含まれているトレーニング法が存在していないため、四股を踏むということを他のトレーニング法によって置き換えることはできないというのが現時点での私の見解です。つまり私の解釈では、四股とは、「片脚立ちでのバランス維持能力を高めるためのトレーニング法の一種であり、特に相撲に必要な身体操作に焦点を当てたもの」ということになります。

 相撲において特別に必要になる身体操作とは何かということについては、4節および5節でさらに詳しく説明したいと思います。その前に、なぜ片脚立ちでのバランス維持能力を高めることが相撲の上達に結びつくのかという点について、さらに立ち止まって考えてみたいと思います。

 他のスポーツにおいても片脚立ちでのバランス維持能力が重要視されるようになってきている理由としては、多くのスポーツにおいては、片足だけが地面についている場面が頻繁に発生するからだと考えられます。そのため、片脚立ち状態において自分の身体をうまくコントロールできるかが、その人の競技力と深く関係することになります。だからこそ、トレーニングによって片脚立ちでのバランス維持能力を強化することが、競技力を向上させる上で効果的なのではないかという発想が出てくるのだと思います。

ここで問題となるのは、この「実際の競技においてよく発生する状況に対処する能力を向上させる」という考え方によっては、四股の重要性をうまく説明できないかもしれないということです。なぜなら、相撲において片脚立ちでのバランス維持能力が要求される場面はそれほど多くないかもしれないからです。

 相撲では伝統的に、すり足を徹底し、両足を地面から離さないことが重要とされています。もしこの教えを徹底して守ることができるのならば、片脚立ち状態は発生しないことになってしまいます。

もちろん、自分から進んで片脚立ちになろうとはしていなくても、攻防の過程でそのような状態にならざるを得ない場合もあります。例えば、投げの打ち合いの際には、四股において脚を高く挙げている状況に近い体勢になることがあります。そして、四股において脚を高く挙げる動作をすることには、こうした局面におけるバランス能力を高める効果もあるかもしれません。

しかし、現代の相撲では、そのようなお互いに脚を高く挙げ合うような形での投げの打ち合いが発生する頻度は、昔と比べてどんどん減少していっていると思われます。だとすると、「四股は、投げの打ち合いにおいて、片脚立ちになったときのバランス能力を強化できるから重要なのだ」という説明では、時々しか発生しない状況への対処能力を高めるために、膨大な時間を費やしているということになってしまい、それこそ非効率的なのではないかという気がしてしまいます。

3. 前に出るためには片脚支持状態を作らなくてはならない

 前節では、四股とは片脚立ちにおけるバランス維持能力を強化することを主な目的としたトレーニング法であると位置づけました。しかし、このような主張に対しては、相撲においては片脚立ちでバランスをとることが要求される場面はそれほど多くないのではないかという疑問が生じるということまでお話ししました。

本節では、このような疑問を払拭するために、「片脚立ち状態」というのを、「片方の足が地面から完全に離れている状態」という意味ではなく、「体重を支えるのに実質的に貢献しているのが片脚のみである状態」という意味で解釈するならば、そのような状態は相撲をとっている最中に頻繁に生じるのだということを説明したいと思います。

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