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ずっと好きだったんだぜ 相変わらず綺麗だな

斉藤和義に「ずっと好きだった」という名曲がある。オーソドックスなブルース進行を基調にしつつも、サビのメロディーは甘々のベッタベタ。ミュージシャンシップの骨太感を背後に漂わせながら、きちんとJ-POPとしても機能するカラオケにも持ってこいのオールマイティー対応の名曲。歌詞の中で表現されている「プラトニックでクリーンな初恋の思い出」と「同窓会で初恋の人とSEXするぞ」という、男性の素朴さと愛すべき愚かさの同居については異を論じるところは無い。この二律背反の同居は、さながら岡本太郎の対極主義を想起させるほどである。私もサビをシンガロングして全人格をその歌詞のストーリーに預けたいのだが、ひとつだけどうしても許せないフレーズがある。それは「教えてよ やっぱいいや あの時のキスの意味」である。なんだよー。結局そっち側の人間かよー。休み時間や下校時の自転車置き場で女の子とキャッキャッしている勝ち組さんの方かよー。16歳の時にYardbirds「Yardbirds on Air」のライナーノーツに書いてあるクラプトン、ジェフベック、ジミーペイジの3大ギタリストを中心としたCreamやBlind face、Led Zeppelinなどのバンドのピープルツリーを教室の隅で指でなぞりながら必死に暗記している時に、GLAYや浜崎あゆみやたまごっちで即物的な人間関係と即物的な消費を楽しんで盛り上がっているカルチャーに対するコミットメントが低いやつら達の為の歌かよー!!!(後半部、尻上がり的に絶叫)
そして、大いに期待を裏切られ、落胆するD.Tの私がこの歌に対して取りうることが出来る態度は、同窓会の後、初恋の人と二次会に行った後に絶対にSEXをしないで欲しいと、強く願うことだけだった。ペニスが挿入されたその瞬間、この曲に纏われる全てのブルースは無効化され、ロックンロールは死ぬ。

娘に付けた名前を私も妻も大変気に入っているので、娘に「○○ちゃん、自分の名前好き?」と聞いてみたところ「好きじゃなーい」と即答。がーん。「じゃあ、どう言う名前が良かったの?」と狼狽しつつ聞いてみると「アリエル!!」と即答。娘よ、マジか。それは、…アリエないだろ!!

新橋のアスティルへ。ただの桃源郷。アスティルに住みたい。

家族で都議会選挙へ。ベタにモーニング娘。の「選挙の日ってウチじゃなぜか投票行って外食するんだ」のフレーズを思い出し、外食しなければならないのでは無いかとの焦燥に駆られる。頭に「ザ・ピ〜ス!」が爆音で脳内に流れながらスーパーで卵、納豆、牛乳等を買い、無事帰宅。歌謡曲の力と攻めぎあう日曜の雨の夕暮れ。

緊急事態宣言が明けた為、最善の対策がされた酒場へ昼飲みに向かう。四谷から荒木町まで〈のんき〉を梯子。昔ほど飲み会が楽しめなくなってきた。飲み会の着地点が同じだし、積み上げがない。積み上げないと楽しめなくなったのは、感性の堕落と感ずる。無駄を愛せない精神の貧しさ、ゆとりのなさ。若くはない今、若さではない何かを、私は未だに手に入れることが出来ないでいる。

はっぴいえんどが再びマイブーム。ギターウルフセイジがアメリカ公演で「You have Elvis , We have Yazawa!」と言ったのは有名な話だが、イギリスに向かって「You have Beatles , We have はっぴいえんど!」と叫びたい。Buffalo SpringfieldやMoby Grapeを起点にしつつも、このオリジナリティのストイックな追求、音楽制作におけるストラグルより実現した世界基準スタンダード。メンバー4人それぞれの個性と人生のストーリーの交錯。日本にロックは無いなんて誰が言ったんだ。はっぴいえんどは日本の宝ではない。世界の宝である。



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