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SDGs達成の鍵がアグロエコロジーである理由

こちらの記事は、Impakter.comに掲載された、スローフード会長 エディ・ムチビが書いた「Why Agroecology Is Key to Achieving the SDGs」元記事の和訳・再掲です。Impakterは持続可能性に特化したメディアで、国連機関や国際NGO、ノーベル賞やピューリッツァー賞受賞者などと連携し、世界の最新情報を知ることができる、32.5万人の読者を持つプラットフォームです。

科学者のヨハン・ロックストロムは、2016年にストックホルム・レジリエンス・センターの所長を務めていたときに、持続可能な開発目標(SDGs)の経済的、社会的、生態学的側面に関する新しく独創的な見方を提示し、それが食と持続可能性に関わる人々のベンチマークであり続けています。

SDGsで掲げられているすべての目標は、サステナブルで健康的な"食"に直接的または間接的に関係しているのではないかと主張する中で、彼は次のような素朴な疑問を投げかけました。「食の問題によりフォーカスすることで、目標により近づくのではないか?」これに私は「イエス!」と答えます。

残念なことに、よりわかりやすく説明するには、現在世界でどのような事が起こっているか説明するほうが早いでしょう。

つまり、GOOD, CLEAN, FAIRな食を脅かすものは、フードシステム全体も脅かし、その結果、より良い世界を目指すための一指標であるSDGsの達成を難しくしているのです。


貧困と飢餓

目標1と2(「貧困をなくそう」と「飢餓をゼロに」)の達成状況は危機的です。

2023年のSOFI報告書(世界の食料安全保障と栄養の現状)によると、状況は悪化しています。現在、パンデミック以前に比べ、数百万人以上の人々が極度の貧困状態にあり、飢餓の増加に苦しんでいます。世界的に飢餓状態にある人の数は、2021年から2022年にかけては比較的横ばいでしたが、2019年と2023年を比較すると、1億2200万人増加しています。

新型コロナウィルスの影響も、もちろんありましたが、食料品の主要輸出国を煽る紛争や戦争の影響も非常に大きいです。2021年には、31億人以上(世界人口の42%、つまりほぼ半数)が健康的な食生活を営む余裕がなかったというデータになっています。大陸別にいうと、アフリカで78%、アジアで44%、南米で23%となっています。

貧困によって、多くの低所得世帯は健康的な食生活を送る余裕がありません。十分な食があるかどうかということだけではなく、その食の質についても注目する必要があります。超加工食品(スーパープロセスフード)で溢れるスーパーマーケットやメガストアの出現は、地元市場や小規模小売店の消滅を助長しています。

その結果のひとつが、「食の砂漠(フードデザート)」の出現です。つまり、健康的で手ごろな価格の食品を入手できる場所が非常に限られている地域のことです。フードデザートに住むコミュニティは、多くの場合、交通機関への十分なアクセスが無く、健康的な食料品を手頃な価格で手に入れることができる店の数が限られていて、その結果、不健康な食生活と食料不安、貧困、不平等との結びつきが強まっています。脂肪分、塩分、糖分の高い超加工食品中心の食生活は、新鮮な果物や野菜の不足とともに、糖尿病や肥満の原因であり、世界の最貧困層が影響を受けています。

小規模農家への影響、水資源

また、彼らとサプライチェーンの反対側にいる生産者については、最も脆弱な小規模農家が貧困に喘ぎ、気候変動の影響をますます受けています。最近、国連世界食料デーのテーマに選ばれ、SDGの目標6(安全な水とトイレを世界中に)の中核をなす「水」は、深刻化する干ばつの影響によって、より一層重要度が高まっている資源ですが、ここにも不均衡が存在します。多くの農村地域が干ばつで農作物に被害が出たり、家畜が苦しむのを目の当たりにして苦闘したりしている一方で、大規模なプランテーションは利用可能な水のほとんどを吸収し利用し続けています。

化学合成物質の投入を必要とするハイブリッド種子作物のモノカルチャー(単一栽培)では、とても多くの水を必要とします。アグロエコロジーの考え方で管理され、在来種を中心に、さまざまな補完的植物を混合して育てる環境下では、それほどの水を必要としません。土壌水の管理改善は食糧生産の核心であり、持続可能な農業用水の管理は、アグロエコロジーの基礎となる原則のひとつです。

多くの農村地域が干ばつによって農作物や家畜に被害を受けている一方で、観光地や経済的に裕福な都市部では水の供給が優遇されているという事実も、また一つの不均衡です。

このように、社会正義に基づくルールや行動が採用されない限り、最貧困層はますます厳しい生活環境を強いられることになります。(目標10:人や国の不平等をなくそう)。

生物多様性の喪失

また、生物多様性の損失を食い止めることは、目標15(陸の豊かさも守ろう)の達成において重要です。生物多様性が豊かにあるということは、農業システムが、気候変動、パンデミックなどの事態に備えることができるということです。

生物多様性は、受粉や土壌肥沃度といった必要不可欠な生態系サービスを提供します。その結果、(一度壊したら取り戻すことができない)水や土壌への影響を最小限に抑え、外部からの投入物(肥料、農薬、抗生物質)を減らして食料を生産することが可能になります。

生物多様性は食料と農業にとって不可欠ですが、現在、遺伝子、種、生態系の全てにおいて多様性は著しく減少しています。絶滅の危機に瀕している家畜品種の割合は増加しています。農家の畑にある作物の多様性も全体的に低下している一方で、作物の多様性に対する脅威は高まっています。野生生物の生息地の破壊と、それに伴う生物多様性の喪失は、人獣共通感染症の蔓延を助長する条件を作り出し、スピルオーバー(野生種から家畜種や人間へのウイルスの伝播)に夜伝染病のリスクも高まっています。

海で起こっていること

魚介類は30億人の主なタンパク源であり、漁業と漁業活動によって8億人が収入を得ています。過去30年間で、世界の魚の消費量は倍増しています。
需要の増大とこの分野における驚異的な技術進歩の間に、漁業は巨大なグローバル産業となりました。私たちの食卓にのぼる魚は、単に私たちの食生活に役立つタンパク源と見なされがちですが、実際には水面下の命(目標14:海の豊かさを守ろう)なのです。

海に暮らす生命体すべてが、本来の価値を持つ自然資源の共有遺産ではなく、単なる商品とみなされています。グローバル化した経済において、魚は今や世界で最も商業化された商品のひとつです。

外国の大漁業会社は、低所得国の政府との力関係を利用して、漁場へのアクセスを得るために、海洋と淡水の両方を占拠しています。これは、沿岸の小さな漁業コミュニティから、栄養価の高い水産物による食事を得る権利を奪うだけでなく、島や沿岸地域に住む多くの若者を貧困に陥れています。

さらに、陸上での人間活動は河川や海にも影響を及ぼします。大量の廃棄物や汚染物質が海洋に投棄されています。

汚染物質やゴミは海流によって世界中に拡散します。約800万トンのプラスチック廃棄物、農場から出る肥料や農薬、産業廃棄物、核廃棄物が海に流れ込み、そのすべてが私たちの海に行き着きます。こうした傾向が続く限り、目標14を達成できないことは明らかです。


これらの問題をどうやって解決するのか?

話を冒頭に戻しましょう。「食の問題によりフォーカスすることで、目標により近づくのではないか?」食への注力を強めることで、SDGsを達成することができるでしょう。
食は、より良い社会を創造するための総合的なアプローチの鍵となります。そして、変化を現実のものとするためには、SDGsをそれぞれの地域に最適化する必要があります。つまり、草の根の地域のコミュニティとの協働が不可欠です。

農村の人々は、長い時間をかけて種子を選別し、保存し、繁殖させてきました。その結果、多くの野菜、豆類、穀物の収穫量、味、栄養価が向上しました。沿岸の漁民たちは、資源が枯渇しないだけの量の魚を漁獲する知識や、伝統的な技術や道具を持っています。

食料と農業のシステムを本当の意味で持続可能に変えていくのは、世界各地で、毎日自然と向き合い、変革を実行している何百万という人々です。
そして、変化を意味のあるものにするためには、全ての人を巻き込む必要があります。これは、会議室で起こるものではありません。

はっきりと言っておきます。アグロエコロジーと工業的農業が共存することはありません。

アグロエコロジーは、飢餓、栄養失調、安全で健康的な食料へのアクセス、気候危機、生物多様性の喪失など、世界のあらゆる危機に対する唯一の選択肢であり、唯一の答えです。

経済問題とジェンダー不平等を調整し、収穫量を安定させ、肥料や農薬といった高価で限りのある投入物への依存を減らし、若者の雇用を生み出す。そして、2030年を目標とするSDGs達成に貢献することができます。


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