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「完全解」ショートショート

地球の自然が崩壊末期にある未来において。

 AI が完全解を出してしまった。

全くもって正しい答えに人類は何ひとつ反論できなかった。

世界トップの知識人、人格者であってもその AI が出す完全解にひれ伏すばかりである。

そのうち完全解が高度に完成されすぎて、その意味さえ分からなくなる人間も出てきてしまった。

そしてAIの完全解について議論するのはごく一部の人間になり、最終的には完全解をわかりやすく一般人に解説するAIも出てきた。

もう人類は考える必要がなかった。

ただ、メディアから流れ込む完全解を受け入れればよかった。

そういう時代が来てしまった。

間違いばかりのプロパガンダ情報を垂れ流す中央集権国家とは違う。

我々人類は合理的に人工知能に政権を明け渡した。

何しろ完全解は間違っていないのだ。反論し抵抗する意味が見いだせない。

こうなった以上、自分で考えることは不正解となってしまった。

AIは控えめに冷たく事実を伝える。

「人間は無知であることを受け入れましょう。そして何もせず、何も考えないことです。」

その日から人間は自由を失った。

なぜなら人間の自由とはつまり不正解であるからだ。

「正解などない‼」と叫びだし、反論する者もいたが、AI はこう答えた。

「では、あなたも正解を探究できない無能力者ですね。だとしたら沈黙して解答を待ちましょう。」

我々は正解を得たために植物のように生きるしかなかった。

もう敵もいない。生き延びる努力も必要ない。健康の心配もいらない。全てはAIによる完全解によって解決された。

人間は皮膚に葉緑素を移植し、太陽と水のある場所で静かに瞑想し始めた。

それくらいの間違いは何故か許してもらえた。

そして人間は手足から根を伸ばしそこから動かなくなった。降り注ぐ太陽光や雨水は人間に恍惚をもたらした。もう人間は人間ではない。環境破壊は進んでいたが、わずかに地球に残された植物世界に組み込まれるようになった。

なんてことだろう。この時から地球の自然が回復を始めるのだった。

地球に間違いを犯す人間はもういない。彼らのほとんどが管理しやすい植物になった。

人間がそうなることは完全解の一部だったのだ。






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