優しい彼女(優しさの意味を知りたい)
23時が過ぎた。
優子は畳み終えた洗濯物を目の前に暗い部屋で一人、卓也の帰りを待っていた。
ガチャ。玄関の鍵を開ける音がした。
リビングのドアが開いて、拓也が入ってきた。
「え、どうしたの?電気もつけずに・・・」そう言いながら、卓也は電気をつける。
優子が部屋で待っていることは知っている。
「私ね、学生のころから成績はずっとBで勉強もスポーツも平均より少し上くらいだったの」
「ん、どうしたの急に?あぁ、優子は真面目だもんな。」
「そう、真面目なの。真面目って普通なんだよね。ねぇ、卓也は私のことどこが好き?」
「なんだよ、急に。さっきからなんか変だぞ。」
優子は黙っている。
「いや、まぁ優子の優しいところいいと思うよ」
「そうなの。莉佳子は頭がよくて先生にも褒められてた。私がどんなに頑張っても勉強では勝てなかった。愛佳は可愛くて愛嬌も良かったから、男子からモテてたの。遥は美人でバスケ部のエースで女子からも人気があった。」
「優子は優しいね、私はそれしか言われてこなかったの。優しいは何もない人が言われるの。」
「優しいって何?」
「みんながやりたがらない、実行委員も掃除係も引き受けるよ。でもね、感謝はされるけど、誰からも褒められなかった。」
「優しいって普通なんだよ。普通ってつまらないもん。」
「誰も洗濯物畳んで待っててなんて、頼んでないんだもん。そんな優しさいらないんだよ。必要とされるのはかわいくて、笑顔でいつもニコニコしてて。こんなめんどくさいこと言わないの。」
「でも、結局私は普通の優しい人でしかいられないの。彼氏の浮気に気づきながら、気づかないフリをする、そんな優しいフリをしながら彼氏の帰りを待っている。私はそんな私が嫌いです。ごめんなさい。」
そう言って、優子は部屋を飛び出していた。
日付が変わっていた。
2回目の記念日の終わりとともにまた一つ恋が終わった。
(完)
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