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【ショートストーリー】総理の夫。②


定期的に会うようになって、最初のうちはホテルで会っていたのが

次第に決められた時間の中で外で食事をしたりお酒を飲んだりするようになった。

回を重ねる毎に彼のことが気になるようになっていた。

笑った時にできる目尻の皺が好きだった。

何をしている人なのか、もしかしたら既婚者なのか、彼のことは名前すら知らない。

最初に会った時、「何て呼んだらいいですか?」と聞いたら

「ヤスでお願いします。」と言われて以来、ヤスさんと呼んでいる。


はじめて会ってから数ヶ月が経った頃、別れ際に個人的な連絡先を渡した。

お店としてはルール違反である。

信用を失っただろうか、もしかしたらお店に報告されて辞めさせられたらもう会うこともできなくなるかもしれない。

そんなことを考えていると、3日後に彼から連絡が来た。

「連絡先、ありがとう。これからも会ってもらえるのかな?」


それからは彼からの連絡を待つ生活になった。

自分からは連絡をしない、それが自分なりのルールだった。

彼からは「○日予定空いてる?」とだけ来て、それに合わせる。

会った日は、食事に行ったり、映画を観に行ったり、そんな関係が続いていた。

ある日、お酒を飲んでいた時。

ふと彼が、「もっと住みやすい世の中だったらいいのに。」そんなことを言っていた。

「お願いがあるんだけど、良かったら一緒に旅行したいんだ。」と彼が言った。

そして、翌週京都に一泊旅行することになった。

京都はカップルや家族連れ、観光客で賑わっていた。

彼と過ごすいつもとは違う時間に自然とテンションも上がる。

京都の街を散策中、ふと彼と手を繋いでみたい、そんな思いが湧き上がったが、嫌に思うかな、迷惑かけたらいけない、そんな思いからそっと気持ちに蓋をした。


彼とのはじめての旅行は無事に楽しく終えることができた。

しかしその旅行以降、彼からは連絡が来なくなった。

理由はわからなかった。

もともとただのお客さん、名前も知らない人だ、そう言い聞かせる毎日が続いた。

お店に残っていたらいずれ彼とまた会えるかもしれない、

そんな期待もあったが、お店のルールを破った後ろめたさもありそのままお店も辞めることにした。

若い頃のちょっと昔の過去の記憶。





あれから、15年が経った。





テレビでは次期首相候補者たちを伝えるニュースが流れていた。

次期首相候補の中にはもちろん女性もいる。

テレビの中の見覚えのある顔にあの当時の記憶を思い出す。

あの頃と変わらない目尻の皺。


僕が彼の夫になった未来、

僕らが彼らと結婚したり誰かの夫になったりする。

そんな未来。

この先、総理の妻だけでなく、いろいろな総理の夫がいる、

そんな、少しだけ明るい新しい未来があるのかもしれない。

そんなことを考えながらテレビを見ていた。


(完)

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