見出し画像

ジャズ界で相次ぐ「コロナ悲報」

アルト・サックスの巨匠、リー・コニッツが15日(水)にNYで亡くなりました。92歳でした。

一報を聞いたとき、高齢だったので持病があったのかと思いましたが、何と新型コロナウイルス感染の合併症だったとのことです。最近、ジャズマンがこのウイルスに侵される悲しい事態が相次いでおり、本当に悲しいことです。

リー・コニッツは1927年、シカゴ生まれ。マイルス・デイヴィスの「クールの誕生」(1949~1950年)に参加したことで知られ、現在まで70年以上のキャリアを誇ってきました。

私の印象では最近に至るまでコニッツは「現役の人」でした。2009年にライブ録音された「Live At Birdland」(ECM)ではブラッド・メルドー(p)らと見事に溶け込んだプレイをしていましたし、2017年には東京JAZZへの出演も果たしていました。さすがにこの時は(テレビで見ただけですが)かなり足取りがおぼつかなかったものの静かに炎が揺らめくようなプレイは健在で、決して古びない魅力を持っているプレーヤーでした。謹んでご冥福をお祈りします。

今回は私が持っているコニッツのコレクションの中で、思い入れの強い一枚を聴いていきましょう。1957年録音の「トランキリティ」です。

タイトルは「平穏」「落ち着き」といった意味で、ここで聴ける音楽はまさにその通りの静けさをたたえた音楽です。普通であればバラッド集になるところですが、テンポの早い曲があってもどこか落ち着きがある演奏が収められています。

不思議なのはそれが全く「かったるく」なることがなく、全編に「冷静な歌心」が込められているため逆に吸い寄せられるように聴き惚れてしまうことです。これこそコニッツのオリジナルの世界。名作「ヴェリー・クール」や「リアル・リー・コニッツ」などと録音日時が近く、忘れられがちなアルバムですが、もっと高く評価されていいと思います。

1957年10月22日、ニューヨークでの録音。

Lee Konitz(as) Billy Bauer(g) Henry Grimes(b) Dave Bailey(ds)

①Stephanie
コニッツのオリジナル。静穏でくつろぎにあふれた演奏です。アルト・サックスとギター・トリオでこのような静かで美しい世界を作り上げたバンドはなかなかないでしょう。同じ編成にポール・デスモンド(as)とジム・ホール(g)の組み合わせがありますが、こちらとはまた違い、コニッツには「秘められた躍動感」があるのがミソです。夏の日、穏やかな風が入り込む部屋で時を過ごしているような情景を思い起こさせるメロディからコニッツのソロへ。音数は少なく、スローな展開ですが、一つ一つのフレーズがつながり「静かなグルーブ」が生まれているのが印象深い。続くビリー・バウアーのソロのバックでアルトがさりげなく入るのも対位法的な面白さがあります。「穏やかなジャズ」の一つの完成形ではないでしょうか。

⑤Sunday
ちょっとひねったアレンジなのにユーモアが漂う独特のナンバーです。元はジュール・スタインらが作曲した作品。ギターのみのイントロにアルトがからむ瞬間、風が吹いたような雰囲気が漂いハッとさせられます。それからベース・ドラムが加わってさらに躍動感が加わり、バンド全体がミディアム・テンポに乗っていく展開が自然で好ましい。コニッツのソロはくつろいだ雰囲気の中でスルスルとつながっていきます。声高な主張がないのにこれだけ「聴こえてくる」ソロを取れるのは本当にすごい。「静かだがウォーム」という独特の個性が光っています。

それにしても昨今のウォレス・ルーニー(tp)といい、エリス・マルサリス(p)といい、新型コロナウイルスによる悲報がジャズ界で相次いでいます。それだけアメリカの被害が深刻だということなのでしょうが、一刻も早い収束を願うばかりです。

この記事は投げ銭です。記事が気に入ったらサポートしていただけるとうれしいです(100円〜)。記事に関するリサーチや書籍・CD代に使わせていただきます。最高の励みになりますのでどうかよろしくお願いします。