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「SF的な」夏休み

先日、私の職場で女性スタッフが「SFみたいだね・・・」と声を上げました。「SF的」なのは新型コロナウイルスの新たな感染者数です。その時は都内で初めて1日に300人を超えたというニュースが速報されていました。

ただ、彼女が「SFみたい」と言ったのは、人数が増えているからだけではなかったようです。速報が流れても誰も動揺しないというか、「またか・・・」と冷静に受け止めている状況。ちょっと前までは大騒ぎしていたような事態が(嘆息交じりではあれ)あっさりと「飲み込まれている」のです。

感染者が増えても重症者はそれほどではないとか、以前よりも検査数が急激に増えているからとか、いろいろ理由はつけられています。それで完全に納得できるわけもないのですが、感染症と共に生きる「ニューノーマル」がどんどん定着してきています。

「客と客の間を空ける」飲食店もかなり増えてきましたし、施設に入る時に検温される違和感はなくなりました。猛暑でもマスクを外している人は少ない。けさ見たニュースでは歌手のMISIAがマスク姿でライブをしている様子を紹介していて、少し前ならあり得ないことが起こっているのだなと実感しました。

人々がマスクやフェイスシールド越しにしかコミュニケーションができないという事態が心理面でどんな影響を与えるのでしょうか。「距離を詰める」ことに抵抗を感じる時代が既に来ているような感覚もあり、新たな分断が生まれないか心配です。

今回は「SFっぽい」ジャケット・デザインのアルバムを聴いてみましょう。デイヴ・パイク(vib)の「ジャズ・フォー・ザ・ジェット・セット」です。

このジャケット・デザインで女性が着ている服はある航空会社が男性客確保のために作った客室乗務員の制服です。この服もどこか近未来的な感覚がありますが、印象的なのは頭部を覆う透明なシールドです。これがあるために宇宙旅行すら想起させる「SF的な」ジャケットになりました。

リーダーのデイブ・パイク(1938-2015)は独学でバイブラフォンを始め、ポール・ブレイ(p)やハービー・マン(fl)との共演を経て自己のグループを結成、やがてブラジルやワールドミュージックの分野にまで活動の幅を広げました。

1965年に録音されたこの作品では何といってもハービー・ハンコックによるオルガンとクラーク・テリー(tp)の参加がポイントです。2人の生きのいいプレイを得て、「軽いタッチのファンキー・ジャズ」を聴くことができます。ある意味、「夏休み向け」かもしれません。

1965年10月26日と11月2日、NYでの録音。パイクはこの作品で全編マリンバを演奏しています。

Dave Pike(marimba)   Clark Terry(tp)  Martin Sheiler(tp)   Melvin Lastie(tp)
Herbie Hancock(org)  Billy Butler(g)  Bob Cranshaw(b)  Jimmy Lewis(b)
Bruno Carr(ds)   Grady Tate(ds)

①Blind Man Blind Man
ゆったりめの8ビートでハービーの曲を取り上げています。メロディー部ではオルガンとギターが独特の「ゆるさ」を醸し出し、そこに素朴なマリンバが加わることで、このアルバムの遊び心があるトーンを決定づけている感があります。最初のソロはパイク。正直、マリンバということで派手さはないのですが、ポコポコと響く楽器の特性を生かしつつ、連続した音で「波」を作っている感じです。続いてクラーク・テリーが登場。このソロが彼らしい、「面白いおしゃべり」を聞かされているような演奏です。最初は控えめに、後半は高音をうねるような独特の節回しを多用して盛り上げていきます。そして、ハービーのソロ。音楽全体を設計できるハービーならではで、最初こそ「間」をうまく使っていますが、そのうち音を伸ばせるオルガンの特性を利用して長いフレーズを連発、気持ちいい空間を作り出しています。

③Sunny
アレンジが素晴らしい。ボサノヴァのリズムにのってマリンバでメロディが提示されますが、バックでミュートのトランペットがつけられているのがジャズらしい味わいになっています。ソロはパイクのみで、このトラックはソロをどうこう言うよりもギターがつける気持ちいいリズムと、オルガンによるブルーなムード、トランペットによるリフなど、音楽全体の設計を楽しむナンバーだと思います。

このほか、⑦Just Say Goodbye もホーン・アレンジとギター、オルガンをうまく溶け合わせた演奏と言えるでしょう。

さて、各県知事が「帰省しないで」「ちゃんと対策をして帰ってきて」など呼びかけが分かれているお盆休みに入りました。きのうの東京都内の新たな感染者数は462人。フェイスシールドをしながら家族で団らん、という「ニューノーマル」的なお盆になっていくのか・・・・。
確かに、「いつもと違う夏」であることは間違いありませんし、「これからの当たり前」が始まる夏なのかもしれません。

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