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焦ると大切なものを見失う

この1週間、オミクロン株でいろいろな混乱がありました。日本で最もバタバタしたのが「水際対策」です。

オミクロン株への感染拡大に備えるため、国土交通省が11月29日(月)、航空各社に対して12月末までの1か月間、日本に到着するすべての国際線の新たな予約を停止するよう要請しました。

ところが、新規予約の停止要請の対象には海外にいる日本人も含まれていたため、予約を取っていない人は帰国できなくなることになってしまい、困惑が広がっていました。すると、今月2日には国土交通省が予約停止の要請を取り下げわずか3日間で方針を転換してしまったのです。

このプロセスをどう評価するかは難しいところです。オミクロン株はワクチンを2回接種した人でも感染していることから感染力が強そうなことが推測されますが、重症化のリスクなどはまだ不明です。政府の対応を拙速と責めるのは簡単ですが、ウイルスの影響力が分からないうちは最悪のケースを考えるのはありとも思えます。

おそらく国土交通省も「手遅れ」で批判されることだけは避けたかったのでしょう。今回の慌てぶりは「以前なら起こりえなかったことが普通になった」コロナ時代ならではの出来事だったのだと思います。

何だか焦っちゃうな・・・そんな事態を目の当たりにして取り出したのがソニー・ロリンズ(ts)の「イースト・ブロードウェイ・ラン・ダウン」です。このアルバムのタイトル曲名が「イースト・ブロードウェイを走り抜ける」ということですから師走の慌ただしさすら感じてしまいますが、実際の演奏もどこか切迫感があるものになっています。

背景には録音された1966年という時代があるのでしょう。当時、同じくテナーサックスのジョン・コルトレーンが前衛的な演奏に傾倒し、オーネット・コールマン(as)らも脚光を浴びていました。巨匠・ロリンズも時代の波をとらえてアグレッシブな傾向を強めていたのです。

「イースト・ブロードウェイ・ラン・ダウン」はピアノレスのカルテット編成で、ドラムスは少し前にコルトレーンのバンドを離れたエルビン・ジョーンズ。自由な空間と強力なリズムをバックにロリンズがややせっかちに暴れる演奏が圧巻です。好き嫌いはあると思いますけど・・・。

1966年5月9日の録音。エンジニアはルディ・ヴァン・ゲルダーです。

Sonny Rollins(ts)  Elvin Jones(ds)  Jimmy Garrison(b)  Freddie Hubbard(tp)

①East Broadway Run Down
ソニー・ロリンズによるオリジナル。20分以上に及ぶ非常に長い演奏です。冒頭、テナー・サックスとトランペットがユニゾンでいきなりテーマを放ちます。短い信号を突き付けられたような始まり方から、どこかただならぬ緊張を覚えます。
すぐにロリンズのソロへ。最初から飛ばしはしませんが、フレーズがおなじみの歌うようなものではなく、どこに行くのか不明な捻り方をしています。これに対してエルビンが俊敏に反応してバシバシ煽るのが圧巻。
続いてフレディ・ハバードのトランペット・ソロへ。ここは彼らしくストレートなブロウをメインにしつつ、高音で際どい鋭角的なフレーズを連発してきます。
そして、ジミー・ギャリソン単独のベース・ソロへ。彼はこの時、コルトレーンのバンドにいたようですが、重厚でズンと響いてくるベースがバンドの屋台骨になったことがよくわかるソロです。
この後はエルビンのソロ。ロリンズと「1対1」のつなぎで転換を印象付けた後、エルビンのみのソロとなります。底から湧き上がってくるような「黒っぽい」重みと、一音一音の説得力がすごく、聴いているだけでドキドキする・・・。
このソロを受けて再びホーン陣がテーマが提示、ここからエルビンがものすごい「煽り」を行って13分台以降、テンションが再び急激に高まります。15分台からロリンズがマウスピースのみでソロを吹く部分もあり、何度か「ざわつく」瞬間が訪れながら最後は各プレーヤーのアブストラクトな演奏が盛り込まれつつ終わっていきます。

③We Kiss In A Shadow
こちらはリチャード~ロジャースの曲。①とは打って変わって、鼻歌をゆったり歌っているかのような穏やかなロリンズが聴けます。編成はハバードを抜いたトリオ。ゆったりとしたメロディからそのままロリンズのソロとなりますがフレーズを伸ばし伸ばしで気持ちよく吹いている様子が見えてくるようです。時に絶妙な間を空けてダイナミズムを加える名人芸は本当に①と同じ奏者か?と思いますが、どちらもこの瞬間のロリンズなのだから面白いものです。5分30秒ほどの演奏をずっとロリンズが引っ張っています。

今回の「水際対策騒動」ですが、国土交通省に欠けていた視点があるとすれば、慌てるあまり「海外にいる邦人」の安全や「国に捨てられる」感覚にまで思いが至っていなかったことです。

国土交通省は「緊急避難的な予防措置だ」と言ってはいましたが、あまり焦ると本当に大切な政府の役割が置き去りにされた印象を与えてしまう。今回の教訓は大切にした方が良いようです。

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