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ロリスの今観返したい映画レビュー『ハイテンション』編

前回『ヒルズ・ハブ・アイズ』の記事を投稿した時に触れた『ハイテンション』なる映画。
私はこちらも大好きな作品で、先日改めて視聴したのだがやはり面白い。
そういうわけで2連続でアレクサンドル・アジャ監督作品の紹介をさせていただく。


『ハイテンション』

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簡単なあらすじ紹介。
主人公はマリーという名前の女学生。
試験勉強のために友人のアレックスの家族が住む田舎へとやってきた。
アレックスの家族とも挨拶を交わし、明日から勉強するぞ!と決意し床についた深夜。
つなぎを着た謎の男が家のドアベルを鳴らす……。
つなぎ男はアレックスとその家族に襲いかかり、アレックスは男に攫われてしまう。
親友を救うためにマリーはたった一人でつなぎの男に対峙する……といったストーリー。
まあ、手垢まみれ。
田舎の一軒家に襲いくる殺人鬼、それに立ち向かうヒロインというのは特に目新しい設定ではない。
ではないのだが、つなぎ姿の殺人鬼との緊迫感のある駆け引きがスリリングで楽しいのだ。
主人公のマリーは電話で助けを呼ぶのが間に合わないと判断すると、真っ先に自分のいた痕跡を消す。
ベッドのシワを伸ばし、ずらした家具の位置を直し、洗面所の水を拭く。
そこに件のつなぎ男が入ってきて部屋の様子を調べるのだが、ここのシーンはドキドキしっぱなしだ。
マリーの手際に不備がないかまるで嫁をいびる材料を探す姑の如く、細かく部屋を探るのだ。
ここで上手いなーと感じるのは見えない視点での男の行動だ。
当然のことだが映画の視点はほとんどずっと主人公のマリー視点で話が進んでいく。
ゆえに哀れなアレックスの家族の悲鳴を頼りに男が今どこで何をしているかを探り、行動することになる。
マリーは武器を持っているわけでもなく、身体能力が高いわけでもない。
つなぎ男相手に唯一のアドバンテージは「男がマリーの存在に気づいていないこと」のみだ。
このため、マリーの慎重な一挙手一投足を見せられているこちらまで「気づかれないように声を殺せ!」と言われているような気持ちになる。
常に綱渡りのような選択の連続でつなぎ男と戦うアレックスの姿を、つなぎ男にバレないように声なき声で応援したくなるような一本だ。











と、ここまでが本作のフェイクレビュー。
もちろん嘘は書いてないのだが、本作の肝と言えばやはり凄惨なスプラッターの裏に隠された巧妙なギミックでしょう。
まだ本作を未視聴な方はここで引き返して、先に本編を観ることを推奨する。



さて、つなぎ男との激戦を制したマリーから場面は変わり途中で立ち寄ったガソリンスタンドへ。
ガソリンスタンドに現れたのはマリーが電話で呼んでいた警察官。
とはいえ、残されているのはつなぎ男に殺されたスタンド店員の死体くらいのもの。
警察官が店内を映した監視カメラで何が起きたのかを確認する。
そこに映っていたのはスタンド店員の胸に斧を突き立てるマリーの姿だった……。
こんな風に文章でオチだけ書くと「よくあるネタ」と冷笑しかねないんだけど、ここに至るまでのミスリードがとても上手い。
だって生首にフェラチオさせてた殺人鬼が実は存在しないなんて思わないじゃん!?
まあ、このオチだとそのシーンを筆頭にその他もろもろ整合性が取れなくなるから冷静になると「何だったんだあれは」ってなるんだけど!
だが、あの映像を見せられるた瞬間に知らず知らず伏線がばら撒かれてたことが芋づる式にわかるのがとても気持ちいい。
マリーが車内で見た夢、アレックス母の最期の一言、「殺すつもりなら殺してる。生かすつもりなのよ」という台詞。
どれもこれも伏線とは思っていないどころか(衝撃のラスト!なんて言われてても所詮はスプラッターでしょ)と決めつけて観てたただけに衝撃は大きかった。
で、真実を明かされてからのマリー役セシル・ドゥ・フランスの怪演もすごい。
特にアレックスの親友マリーから殺人鬼のつなぎ男へのスイッチは達人技。
で、解放された(というか解放した)アレックスを追い回すシーンでようやくジャケット写真の伏線回収がなされるわけで思わず笑ってしまった。
そんな意味だと思わないもの。
ていうかDVDのジャケットすごいネタバレだよね、『猿の惑星』かよ。
本作に隠されたギミックを許せるか許せないかが、評価のポイントとなる映画だと思うのだが、ここまで読んでわかるように私は「許す」側の人間だ。
『ジョジョ』とか『キン肉マン』とか『男塾』みたいな整合性は抜きにして演出を楽しむタイプのエンタメとして観ていただきたい一本だ。
その辺の読者と本作の視聴者の層が共通することは少ないとは思うが……。

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