GoToキャンペーンの騒動をみて最初に行うまっとうな反応は「ゲラゲラ笑い転げる」ことじゃないだろうか。

アメリカの物理学者リチャード・ファインマンのベストセラー「ご冗談でしょう、ファインマンさん」は自分の好きな本です。今回の「GoToキャンペーン」の騒動を見るにつけて、ふとその中の「ラテン語? イタリア語?」という短いエッセイを思い出し、久々に読み直してみたのでご紹介したいと思います。

少年時代のファインマンさんはラジオから流れるイタリア語に魅了されデタラメのイタリア語を使うことを覚える。それをときどきいたずらに使って人を煙に巻くのが何よりお気に入りだったらしい。なんとなくタモリの4ヶ国麻雀を知っている人がいれば雰囲気がわかるかもしれないですね。
以下該当部分の引用。

 しかも僕のイタリア語がでたらめとは、なかなかわかりにくいものらしい。一度などプリンストン時代、自転車でパルマー研究所に入っていこうとしたら、邪魔になるものがいる。つい習慣で派手なジェスチャーとともに「オレッツェ、カボンカ、ミッチェ!」と片手の甲をもう一方の手でぴしゃりとやりながらどなった。
 するとはるか向こうの長い芝生に何かを植えていたイタリア人の庭師が、手を止めて嬉しそうに手を振り、「レッツェ、マリッツァ!」と叫んだではないか。
そこで僕も負けずに「ロンテ、バルタ!」と挨拶を返した。どうも向こうは僕が全然イタリア語を知らないとは気が付かないらしい。僕の方だって彼がなんと言ったのか、てんでわかっていなかったし、彼も僕が何を言ったのか知りはしないのだ。それでもちっともかまわない。ちゃんと通用するのだから実に痛快だ。
<引用:ご冗談でしょう、ファインマンさん P48>

といった具合にハチャメチャなイタリア語を使って楽しんでるお茶目なひとがファインマンさんである。今回気になったのはこの先。以下は9歳年下の妹のガールスカウトの夕食会で父親の代わりに出席した際に同様のいたずらを行った際のエピソードの引用。

この夕食の間少女たちは詩の朗読をしたり寸劇をやったりして父親たちをもてなしたが、そのうち突然てっぺんに頭を入れる穴のある変てこなエプロンみたいなものを持ち出してきた。そして今度はお父さんたちが娘たちをもてなす番だというわけだ。そこで父親たちは、しかたなく一人一人立っては、このエプロンの穴に頭を入れて何かを言わなくてはならない。ある父親などは「メリーさんの羊」の詩を暗誦したりしたが、とにかくてんで能のない連中ばかりだ。僕とて何をしたものかわからないまま立ち上がったが、舞台に上がるまでには腹も決まったから「ちょっとした詩を暗誦することにします」と言った。「英語でなくて残念ですが、きっと楽しんでいただけることと思います。」
「 ア タッツオ ラント ボイツィ ディパレ (中略) オラ ティンタ ダラ ラルタ イェンタ ブッチャ ララ タルタ!」
この調子で三節が四節、イタリア語放送で聞いた通り感情をたっぷりこめて唱えた。少女たちはもう笑いが止まらず、お腹をかかえ、通路を転げまわって笑いこけている。
夕食会が終わってスカウトリーダーと学校の先生が僕のところにやってきた。僕の暗誦した詩のことをあれこれ話し合ったのだが、一人はイタリア語だと思い、もう一人はラテン語だと思って一向に決まらない。先生のほうが「それで、どっちが当たっているんでしょう?」とたずねた。
僕は「それだったらあの少女たちにきいてください。みんな何語だか、すぐにわかったようですから」と答えた。
<引用 ご冗談でしょう、ファインマンさん P49~51>

といった具合でかなり皮肉の聞いた面白エピソードです。
この物語のキモは少女たちはファインマンのしゃべった詩が何語かすぐにわかったけど大人はあれこれ理屈を述べてもっともらしいことを訪ねてきており本質を掴めずにいるといったところにあります。
今、「GoToキャンペーン」の2転3転している顛末や世間の反応をみると、もちろん1兆円以上かけているし、死活問題となる人がいるという真面目なことなので、まじめに議論するのはもちろん大切なのですが、それ以前の段階で、もしも僕らが「彼らのしゃべっている言葉が何語なのか」をすぐにわかることができるのなら、一番最初のリアクションはゲラゲラと笑い転げることじゃないだろうか?と思ってしまったのです。
こういうことを書くと怒る人はいると思いますが、しかし、ここで最初に笑えないのだとしたら、どこか本当の根本的な部分で、まっとうでなくなっているような予感がするのです。

皆さんどう思いますか?

さて蛇足ですが、ファインマンさん自体は科学的であること、エセ科学に騙されないことの重要性を説いた内容も「ご冗談でしょう、ファインマンさん」に載せているので、ちょうどこの時期に読むのによい本かもしれません。

「カーゴ・カルトサイエンス」に関するエッセイ
参考
https://www.cscd.osaka-u.ac.jp/user/rosaldo/12Cargo_cult_science.html

以上、最近のコロナ雑感と本の紹介でした。


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