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LOVE CINEMAS

第一話「書くよりは産むが易し」


これはペン太を信じた人間、もしくは知らなかった人間、そして信じてみようとした人間がもたらした神の啓示である。(改訂版)

男は言った。

何だか思いだしたように白鯨について考えていた。

映画の白鯨。

おおまかにわけて

エイハブ、スターバック、その他。

このみっつ。

スターバックは白鯨を「鯨」だと受け入れた。

「鯨捕りが鯨を捕らないでどうする」

と、最も人間を人間足らしめる理由をもって白鯨に向かう。

これは信仰。

その他は白鯨を神の化身としている。

偶像そのもの。

それを恐れ立ち去ろうとする。

これは信仰のもつ姿ではない。

エイハブは憎んでる。

白鯨の向こう側を。

偶像を恐れない。

信仰のもうひとつあるべき姿。

信仰の一歩手前、それとも一歩向こう。

その狂気性。

その男、啓司に捧ぐ。


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僕、いや私か。

私は今、小説を書いている。

ペンネーム・ハンドルネームはカタコト。

何時だっただろうか、わたしのブログにメッセージが届いて以降、メル友になったペラペラさんと言う方がいる。30代のOLさんだそうだ。

私はついつい嘘をついた。

「私も30代のOLです。」と。

匿名ではなく読者が形を纏うと

不思議なものでぼやけていた僕自身に

シャープがかかったような心持ちになる。

メールのやり取りしかないけれど

画面の向こう側にいる誰かの息づかいが

届くような。

そしてわたしの呼吸が確かなものだと

気付かされるような。

いわば『僕の。僕自身の』レゾンテートル。

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題:悲しいことがありまして(カタコトより)

本文:今日の天気はいかがですか?

今日は仕事でやりきれない事があってちょっと凹んでいます。そんな時には読書が最適です。

有名じゃないですが、芥川順平さんの詩を置いておきたいと思います。私好きなんです。

「きっと枯れないでね」「きっと枯れないでね」と

声をかけた そのひとはけっして なにも 見失わない

だから そんなのみこまれてしまうような                                               ことばを口にするのはいよいよ泣いてし まうときじゃないかとはらはらしていると

そのひとは笑っていたから

それを見たぼくの目にはのみこんだ はずのことばがあふれでて

それでそれから

そのひとはそんなぼくを見るなり困ったような顔をすると

ふいに泣いてしまったから

つまりは

ぼくのやせがまんとそのひとのがまんはいつだってちぐはぐにこわしあって

だから例のごとく

こまったぼくは

やはり

天気のはなしをはじめ

そして

つまり

そのひとは微笑み

もちろん

ぼくだって笑った

だって

さっきまで泣いていたものだから

ただただするりとぼくらのてからこぼれおちた

それは直ぐにかたちをまとい、それゆえこわれるのです。ことばとなったわたくしのこころは現実に寄り添い、ただくだけるのです。その音が、その響きが、あまりに悲しいのでわたくしなど涙が流れ落ちてしまうのです。ただ悲しくて鳴き、可笑しくなり笑うのです。わたくしが知っていることなどたったそれぐらいのことなのです。

芥川順平

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題:カタコトさんへ

本文:透きとおる何か奇麗なもの。(感想)

芥川順平さんと言う方にすごく興味を持ちました。調べてみたのですが有名な方ではないのですね、見つかりませんでした。

読んでいてちょっと涙ぐんでしまいました。

そういうわたしもやはり天気の話をするのでしょうか?

今日は晴れています。

そして私は今、少し笑っています。

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やりとりが半年は続いてからだろうか‥、

私は思い立って短編の小説を書いた。

(わかってもらえるのだろうか?)

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題;小説を書いてみました。”ペン太の伝説”という。

本文:ぺらぺらさん。私、実は小説家を目指していてペン太の伝説と言う話を書きました。

感想が聞きたいです。

作品はpdfで添付しておきました。

よろしくお願いいたします。

ペン太の伝説 left alive

「あーー退屈で死にそーー。」

知恵は言葉ばかりではなく態度でそれを示すから厄介だ。

啓司はいつも諭す役。

「君ねぇ、死ぬなんて大層な言葉をそんなに簡単に使うものじゃないよ。」

「ペン太なんかはこんなにも暑い中、ほら散歩してる。」

知恵は不思議でたまらない。啓司がいっつも口にするペン太が。

「ひぃふぅみぃよぉやぁどれがペン太なの?」

啓司は作業を続けながら答える。

「どれをとってもペン太だよ。でも僕があれがペン太だと言えばあれがペン太なんだ」

それ自体は重要なことじゃなく、理解は常に誤解の総体であってね。」

暫く眉をへの字にしていた知恵は

「あ、それウケウリって奴だ。リカイハツネニゴカイノソウタイデアル。って何処かで聞いた。」

啓司君、知恵ちゃん、お昼休み行っといでーー。

ここは北海道、辺鄙な土地にある水族館、啓司君も私もアルバイト

として働いている。お昼休みは大概売店で売っているものですます。

お弁当を持ってきている人も多いが、所帯染みていやだ。

若者は若者たれって感じかなぁ。

そこらへんは啓司君と以心伝心だ。

啓司君はいつものベンチでいつものジャムパンを頬張りながら

いつもの牛乳を流し込んでいた。

昔聞いたことがある。イチゴ牛乳を買って他のパンを買った方が

色々な味を楽しめるのじゃないかと。

啓司君は

「ふーん」としか言わない。

私は今日、メロンパンとイチゴ牛乳。

「このセットどうでしょう?」

とたずねると

鼻で笑いながら啓司君

「アウトレイジ ビヨンドって感じかな。」

私は何か悪いことでもしたのか、笑えない。

「何でヤクザものなの、もっとほらサウンドオブミュージックとか。

奏でる味のハーモニーが。」

鼻で笑いながら啓司君。

「メロン熊か・・・。気分で決めたセットなどその程度だ。」

笑えない。実は気分だったのだ。

それは突然のことだった。彼が仕事を辞めると言い出したのだ。

就職先でも見つかったのかというとそうでもないらしい。

「知恵ちゃんには何か話すんじゃないのかい。」

とパートのおばちゃんが

聞いてご覧よというものだから聞いてみたら。

「ペンギンのボールペンが発売中止になったから辞める」

の一点張り。

いい職場なのに。私はペン太のこともよく知らない。

あれからどれだけたったろう、仕事の合間にこうして当時から今を

振り返って色々書いている。ペン太にだって話しかけている。

飼育員のおじさんにどれがペン太なのと聞くと決まって

「それは君が決めればいいじゃないのかい」としか答えてくれない。

教えてくれる人もいなくなった。

退屈だった。ずっと退屈だった。

そんな毎日を過ごしていた。

ところが、ある夜、私は気づいた。今は「目覚めの日」と言っている。

ペンギンのボールペンとにらめっこしていたら気づいた。

あぁ”独りぼっち”なんだこの”ペン太(多)”は。

”私たち”は”知っている”。”世界”は”孤独”な人で溢れてる。

リカイハツネニゴカイノソウタイニスギナイ。

男は待っていた。人知れず待っていた。独りぼっちで。

独りぼっちの哲学者。

私はそれから何かに取り付かれたように小説と言えるかどうかのお話を書いた。

それがこれ(改訂版)

啓司君に追いつきたくて、知って欲しくて。

作品はわたしの手を離れそれなりに売れた。

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後日

ペンギンのボールペンの再販が決まった。

いっつも啓司君が買う本には丸藤堂という袋に入っていた。

私は決心をしてその本屋に向かった。足取りは軽やかだ。

哲学書のコーナーに向かうと、スニーカーにコートの啓司君がいた。

嬉しかった。やっぱりいたんだ。

ひと呼吸。息を整えると

「やぁ啓司君、先生と呼んでおくれよ」

と声をかけた。

啓司君はこちらを見て微笑むと

「君に会える気がして毎日通ってたんだ丸藤堂。貰い物でよければこれを受け取って欲しい。ジャムパン。ジャムパンの工場で働いているんだ、今。」

そう、苺だ。苺のジャムパンだ。何も変わっていない彼がいた。

彼は水族館に復帰した。

私の発案でオットセイのオット君の下敷きの発売が決まったことは秘密だ。

(再改訂版)

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引っかかるものがあった。

リカイハツネニゴカイノソウタイニスギナイ。

どこかで‥‥

検索にかけるとヒットした。

カタコトさんあるまじき行動だ。

「スプートニクの恋人」

(私はこの独りぼっちの哲学者を知っている。

キラキラしているのだ。呼吸をするように。)

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題;ペン太の伝説、感想。

本文;

会いたいです。あって感想を話したいです。

カタコトさんに憧れています。

今度の土曜日、13:00ハチ公前で。

私は赤いワンピースに赤い傘を持っています。

私のことが醜いと思われたなら、どうぞ通り過ぎて下さい。お願いします。

















PS:

私は嘘をついていました。

本当は23歳のフリーターです。

すみません。

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私は煙草を吸っている。

ぺらぺらさんから貰った最初のメッセージ。

思いだしていた。

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題:カタコトさんへ、ペラペラから

本文;

初めましてカタコトさん。カタコトさんと言うハンドルネームがかっこよくて私も真似をしてしまいました。ペラペラと申します。30代のOLです。カタコトさんのブログに出てくる作品が好きで仕方がないのですが、何処を探してもないのです。ブログ楽しみにしています。それだけが伝えたかったのです。よろしければメル友に。よろしくお願いいたします。

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bgm

もう、待ち合わせの時間になっている。が、僕は家にいる。後一本煙草を吸ったら‥‥。ハチ公前に行ってみよう。

彼女が帰った後を見届けよう。

スプートニクの恋人‥‥持っていくか。

付箋が挟まっている。

「理解は常に誤解の総体に過ぎない」

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ハチ公前には10分前についた。

待ち合わせの時間だ。

カタコトさんに会える。きっと会える。

そうしたら言うんだ。

”あなたはきっと小説家になれる”

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待ち合わせの時間を過ぎてもう三時間は経っただろうか、交差点の信号を待っていた。

視界に入った赤いワンピースに赤い傘を見てハッとした。彼女はまだ待っていた。

急がなくては‥。

伝えたいことがある‥。

”君は醜くなんてない”

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”車との衝突音”

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待ち合わせ時間からもう六時間経っている。

私は空をあおぎ呟いた。

「悲しくなんてない。私、悲しくなんてない。」

endroll

bgm















出演 カタコト ぺらぺら

原作 カタコト

















題:君に伝えたいことがある

本文:僕は脱サラして小説家を目指している31歳の男です。今、帝都大学病院の304号室にいます。

よろしければ見舞いにきて頂けないでしょうか?

よろしくお願いいたします。




















ps:芥川順平も僕が書いたものです。

あなたによこした散文や詩はすべて。(笑)

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「会える」

カタコトさんと会える。私は走った。

スプートニクの恋人に付箋を入れて。

304号室の名札には”西方等”とある。

「カタコトさんですか?」私は入室する。

「やぁ、ぺらぺらさん」

数秒の沈黙ののち二人は同時に言う。「ぺらぺらさん、あなたは醜くなんてない。」 「カタコトさん、あなたは小説家になれる。」

「ふぅ」二人は溜め息をつく。 「ありがとう」二人は同時に言う。

「ぺらぺらさんはハチ公物語って日本映画を知ってる?」

「うん。悲しい話ですよね」

「僕はね、小さい頃見て悔しくて悔しくて泣いたんだ」

「僕は今そのためにここにいる」

つまり‥‥‥

「映画。シェーンが振り返らなかった理由は彼が役者だから。アラン・ラッドだったからだと思うんだ。」

「ぺらぺらさん。ちなみに名前は?」

「カタコトさんは西方等さんですよね。私の名前は平琴音です。」

「そうか、病室の名札か。」

「僕は変わり者でね……」「私も……」

机に置かれた2冊のスプートニクの恋人

雑談は続く


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