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生地の専門家に聞く、環境に優しい素材ってそもそも何?(上)|WWD

アパレルメーカーがサステナビリティなモノづくりへシフトするとき、最初にぶつかる課題がテキスタイルの選び方です。

そもそも何がサステナブルなのか、何を選んだらよいのか悩ましい。

そこでテキスタイルのプロである梶原加奈子カジハラデザインスタジオ代表に、テキスタイルとサステナビリティの関係について、基本の考え方と最新事情を2回に分けて聞いてみました。


カジハラデザインスタジオ



1回目の今回は市場動向について

世界と日本のマーケットは環境配慮型素材へどれほどシフトしているのだろうか?


WWDJAPAN(以下、WWD):
テキスタイル市場全体傾向としてサステナビリティ・シフトは進んでいますか?

梶原加奈子カジハラデザインスタジオ代表(以下、梶原):

新型コロナのパンデミック以降、日本市場が急速にサステナビリティにシフトしてきたと、日頃の仕事を通して感じています。私は欧米のラグジュアリーブランドに日本のテキスタイルを紹介する仕事をしていますが、彼らはコロナ以前からサステナビリティへシフトし始め、GOTS認証など認証された日本の素材が求められる状況でした。特にケリング傘下のブランドは熱心でした。パリの大型素材見本市「プルミエール・ヴィジョン(PREMIERE VISION)」も19年春夏からサステナビリティ素材の発信に力を入れており、フランス市場の意識の高さが展示会にも影響していましたね。その流れで海外向けに販売している日本の繊維メーカーは2018年頃からサステナビリティを積極的に学び、生地開発に生かしてきました。

アメリカは産業側より一般社会の方が動きが早く、環境問題をディスカッションする世論が企業を動かしたように思います。商談中も企業人としてより個人的な思いからサステナビリティを熱く語る人が多かった印象です。紙ストローへの切り替えも米国が早かったですよね。

GOTS認証とは?
Global Organic Textile Standard(GOTS)
テキスタイル(繊維製品)を加工するためのオーガニック基準。糸、生地、衣類など広い意味での繊維製品が対象。

ウールやコットン、絹などの原料繊維がオーガニックであることだけではなく、繊維の収穫〜加工〜製造〜流通の全ての過程において環境的・社会的に配慮した方法が実行され、一般製品との混合や汚染がないように管理されていることの目印。
原料の70%以上がオーガニック繊維であること、加工がオーガニックな方法で行われている事、遺伝子組換え技術を使用しない事、水・エネルギーの使用に関して環境目標を設定している事、毒性のある薬剤を使用しない事、衛生的で安全な労働環境である事、搾取や差別のない労働条件を満たしている事、トレーサビリティー(生産履歴の追跡可能性)が確保されている事などの要求事項があり、第三者による審査・認証を受けることが求められる。


WWD:コロナ以前の日本の業界のムードは?

梶原:
日本の小売りやアパレルからは、ネガティブな見方が多かったですね。サステナブル素材の価格が高いことへの懸念や直接的に売り上げにつながるかの不安感、消費者がまだ理解していない、求められていないといった声が多く聞かれました。主に日本向けに開発している会社は、サステナビリティについて前向きではなく、少し遠い出来事のような雰囲気でした。


WWD:それがコロナで変わったと。

梶原:
はい。新型コロナウイルス感染症の拡大によって各国が外出自粛制限をおこない、経済活動が停滞したコロナ禍では、環境改善に関するさまざまな報告が世界中から発信されました。その影響が大きかったと思います。NASAは、人工衛星による大気汚染の観測結果を発表し、中国湖北省武漢市が封鎖された後は、中国での大気汚染物質の二酸化窒素の濃度が低下したことや、大気汚染が深刻なインド北部ではエアロゾルが減少したことが伝えられました。

大気汚染問題が深刻なロサンゼルスでも、今まで見えなかった景色が見えると話題になりましたよね。ロックダウンで可視化された環境改善を通して、人間の活動が自然環境に大きな影響を与えており、サステナビリティを考えていく必要が現実にあることを実感した人が多いと思います。社会が積極的に考え始めたことに伴い、企業が行動し、小売りやアパレルも動き始めました。


コロナを機に日本市場が動き出した

コーヒーの粉末で着色した合皮

WWD:日本の繊維メーカーにはどのような動きが見られますか?

梶原:
ほとんどの繊維メーカーがサステナビリティの考え方を開発に反映し始めています。特にサステイナブルなコンセプトがある糸、後加工の工程や溶剤での工夫が進んでいます。また、移動に伴う二酸化炭素排出・大気汚染の改善策として地産地消への意識が前向きです。日本で作る、産地の近場で作るなど、物を大きく動かさない方法を考えることもよく話題になります。

同時に廃棄物を減らす意識が高まっています。無駄を作らない、残っているものを活用でする方法を積極的に考える企業が増えています。私は「ジャパン・テキスタイル・コンテスト(JAPAN TEXTILE CONTEST)」というテキスタイルコンペの審査員長を務めていますが、2020年のコンテストでは、サステナビリティを意識した素材の応募が増えました。開発の方向性として、サステナビリティを学び、方法を選んで企画する人が産地でも増えていると思います。


そもそも“サステナビリティな素材”とは

WWD:そもそも“サステナビリティな素材”とは何でしょう?

梶原:
多面的な視点で考えると判断は難しい。環境のためにと考えても、別の方向から見れば資源を無駄にしている矛盾が常にあります。そのため、現時点で私は“サステナビリティを考える”という姿勢でいます。言い切れるものはないけれど、地球の未来のために考え、学び、挑戦をしていくべきだと思うからです。人間活動と自然の共存バランスを考えて、 100%の答えがなくても行動してみる事が大事です。


WWD:梶原さんは生地開発の仕事もしていますが、ご自身が開発する際に心がけていることは?

梶原:
トレーサビリティの意識です。トレーサビリティとは、原材料の調達から生産、そして消費または廃棄まで追跡可能な状態にすること
私たちがどのルート、方法で素材を作っていくのか。事実を知って方法を選んでいくことを強化しています。納期や価格やロットなどの条件と照らし合わせると、一番良い方法を採用できないときもあります。でも、できる事を考え、少しの側面でもサステナビリティの要素を取り入れるバランスを大切にしています。


テキスタイルを選ぶ際の10のポイント

WWD:テキスタイルを選ぶ際はどんな点をチェックしますか?

梶原:
私が注目している順番は次の通りです。

①製品からのリサイクル循環システム
②長く使える素材の開発
③リネン、ヘンプ、ペーパーヤーン
④生分解性素材の開発
⑤人工レザーの開発
⑥リサイクルコットン&ナイロン
⑦ノンミュールジングウール
⑧オーガニックコットン・ウールのトレーサビリティー
⑨水を使わないプリント
⑩環境に優しい草木染め


ミュールジングとは?
羊にはさまざまな種類がありますが、特に毛の長い、セーターに使用するには好都合なメリノ種などの羊は、主に羊毛を採取するために人間が自分勝手に品種改良したもの。しかし羊の毛は長すぎると、お尻の周りの毛に排泄物が付着し、そこからウジが沸いて羊が病気になり死んでしまうことも多く、無駄になってしまう為、お尻の部分の毛が生えてこないように、お尻の肌を幼少期に直接切り落とし羊を育成する方法がミュールジングです。



参照:https://www.wwdjapan.com/articles/1227863


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