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カミ様少女を殺陣祀れ!/11話

【目次】【1話】 / 前回⇒【10話】

甲高い排気音。店外で轟く爆音が、どんどん店に近づいて来る。
僕は身を起こし、店の入口の引き戸を見遣った。
扉のすりガラス越しに、急ブレーキで横づけされる車が垣間見えた。
「ん?」
「何の音?」
ボックス席のキリコと、注文票を手にした矢彦沢さんが同時に反応する。
僕は身を固くした。予感がした。これから起こる途轍もないトラブルの。
手荒く引き戸が開かれ、3人組の男たちが肩を怒らせて乗り込んできた。
「邪魔すんぞ!」
先頭は、黒縞スーツで金鎖を首や手首に巻いた、中年のグラサン男。
その背後に、20~30代くらいの男が2人。ランニングにアロハを羽織る短パン便所サンダル男と、赤いニット帽を被った細身の青ジャージ男。

矢彦沢さんを横目に見た。硬直して無反応。僕は覚悟を決めて進み出る。
「いらっしゃいま」
脇腹に膝蹴り。上体を折って呻く僕の、襟首が掴み上げられた。
「おいガキ。オメェSaezuri見たろ? あの女(メス)どもどこ行った?」
グラサン中年が、シャツの襟で僕の首を絞め上げながら、淡々と訊ねる。
「な、何の話ですかッ! 知りませ」
顎に一発。僕は奥歯を噛み鳴らした。痛みと共に、瞼の裏で火花が散る。
僕がヘロヘロになって後退ると、グラサン中年が2人に片手で指図した。
「おい! 歌わせろ」
「「へい!」」
ジャージ男が軍手で覆った両手を打ちつけ、便所サンダル男は浅黒い素肌の刺青を見せびらかしながら、薄笑いに眼光を光らせて歩み寄った。

「しらばっくれても無駄だぞテメェ!」
軍手の右ストレート。咄嗟に両手で庇うと、左フックが鳩尾を抉った。
「さっさと吐いちまえよコラァ!」
ジャージ男に背後を取られ、羽交い絞め。脇腹を便サンで蹴り上げられる。
「「オラァッ! クラァッ! オラァッ! クラァッ! オラァッ!」」
軍手パンチと便サンキックは容赦なく、僕がガードする隙も与えない!
クソッタレ! 僕は生まれてこの方、喧嘩なんぞ一度も経験ないんだぞ!
グラサン中年が腕組みしながら無言で見つめ、タバコを咥えて火を点ける。
僕は蹴り転がされると、ジャージ男に軍手で片耳を捻り上げられた。
「もう一度聞くぞォ僕ちゃん。このビッチどもはどこに行きましたかぁ!」
大声で喚き立てられ、耳鳴りと共に意識が朦朧とした。
「し、知らないって」
口にした次の瞬間、側頭部に強い衝撃を感じて、意識が飛んだ。

――――――――――

臨は血を流しながら白目を剥き、床にばたりと倒れて動かなくなった。
「舐めとんのか! ブチ殺すぞ、クソガキが!」
「ヘヘヘ、サッカーボールキックは止めろって。死んじまうだろォ?」
ジャージ男が腰を上げ、便所サンダル男に皮肉笑いで告げた。
「おい手前ら、俺は歌わせろつったんだ。誰が黙らせろつったよアァ!?」
「へへ。申し訳ありやせん、才原(サイバラ)さん」
才原と呼ばれた中年男が、臨の襟首を掴み上げ、往復ビンタして頭を振る。
「駄目だ、のびてやがる。ったく、もうちっと手加減ってもんをだな……」
才原は咥えタバコで臨を放り出し、腰を上げて店内を見渡した。
「あ、あんたたち! 警察呼ばれたいの!? と、撮ってるんだからね!」
「ちょちょちょ嬢ちゃん放っとけって! 黙ってろって危ねぇから!」
アクションカムを掲げて叫ぶ切子に、矢彦沢が両手を振って駆け寄った。

「あー……めんどくせ」
ジャージ男が呟くと、便サン男と共に歩み出た。進行方向のボックス席上のパーティションを殴り壊し、椅子や机に蹴りを入れて歩み寄る。
「あーヤメッ、お客様ヤメテくださヒィッ!?」
便サン男が刺青の腕を振りかぶると、矢彦沢は息を呑んで後退った。
「な、なによ警察……」
「クラァッ! 座ってろビッチ! ブチ犯すぞ!」
ジャージ男の軍手がアクションカムを引っ手繰ると、床に放り出した。
「ガキが! 舐めてっと! ブチ! 殺すぞ!」
便サン男が太い足を振り上げ、アクションカムを何度も踏みつける。
「かってェ! 頑丈なカメラだな、クソが!」
便サン男が苛立つと、アクションカムを蹴り飛ばして壁に叩きつけた。

「Saezuったやつ誰だァ! ここにメスどもが来たことぁ知ってんだぞ!」
才原が、店中に響く大声で怒鳴り、マガジンラックを蹴り壊した。
「どうなんだコラァ! オメーらだんまりか? 上等だぞオラァ!」
レジを投げた! 壁で跳ね、床に叩きつけられ、小銭と紙幣が飛び出す!
「アッアッ、ヤメッ、お願いだからやめてくださッ」
矢彦沢はビビり倒した顔で土下座し、恥も外聞も無く額を擦りつけた。
「やめるかバーカ! あのレスお前じゃねーだろな。おいスマホ見せろ!」
「ど、う、な、ん、だ……コラァ!」
便サン男が、土下座する矢彦沢の後頭部を踏みにじる足に力を込めた!
「すッ、すいません、ひっぐ……俺、何にも知らねんス……本当ッすよ」
才原がタバコを足元に落とし、紫煙を吐きながら靴底で揉み消した。
「チッ、使えねーカスどもばっかだな……クソが」
開け放たれた戸口の外で、大排気量バイクのエンジン音が近づいて来る。

「オラ! スマホ見せろつってんだよコラァ! 出せやオラァ!」
「ズビバゼッ、仕事中だから持ってねっすあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
立て続けの打擲音の後、矢彦沢の悲鳴が店内に響き渡った。
気怠そうな顔でそれを眺めていた才原は、背後に気配を感じて振り返った。
そこに立っていたのは、白スーツに長髪と顎鬚を靡かせた偉丈夫だった。
「ああ゛? 手前何見てんだコラ。今取り込み中だ、失せろ!」
偉丈夫は倒れている臨を一瞥し、溜め息をついて店内に踏み込んだ。
「また余所者か。やれやれ、鬱陶しいから出てってくれないかな?」
「何ブツブツ言ってや、入ってくんなこ、手前なめ、ぶち殺すぞオラァ!」
才原が懐から匕首を抜き、鞘を抜き捨てて白刃を閃かせた!

袈裟懸けに振り下ろされた刃は、人差し指と中指で白羽取りされていた。
「この我、諏訪大明神に喧嘩を売るとは……1000年早いよ、人間」
白スーツの偉丈夫が嘲い、2本指を捩じって匕首をペキンと圧し折った!
「兄貴ィ!」
「手前何だこの野郎ッ!」
下っ端2人が、矢彦沢のスマホを放り出して才原に駆け寄る!
才原の額に血管が浮かび、不明瞭な叫びと共に、懐に手を突っ込んだ!
諏訪神は溜め息をこぼすと、一歩踏み込んで、才原の胸に軽く手で触れた。
次の瞬間、才原が背後に吹き飛んだ! 下っ端2人も巻き込み、壁に激突!「「「うごあああああぁぁぁぁぁ゛ッ!?」」」
諏訪神は才原たちに一瞥もくれず、膝を折って臨を助け起こした。
「えーと、名前何だっけ? ノ……ノ……あー思い出せそうなんだけど!」

「何よこれ……映画? 現実? 超絶特ダネ……私、夢でも見てるの!?」
切子はスマホを構え、興奮気味に呟いた。一部始終を動画で撮影していた。
「いってぇ! ハァッ、ハァッ……って尊師!? どうしてここに!?」
「だから諏訪大明神だって。ノ……えーうん。ともあれ、細かい話は後だ」
「うおッ、ちょ!?」
諏訪神はおもむろに臨を担ぎ上げると、踵を返し店外へと歩み出て行く!「だッてめッ! 逃げんなコラァァァッ!」
「オラアアアアッ! ぶっ殺すッ!」
「この腐れインポ野郎がァァァ!」
才原たち3人組は身を起こすと、次々に店外に走り出て改造車に乗った!
諏訪神と臨を乗せた、白いSSバイクが走り出すと、フルエアロのBMW改造セダンもまた爆音を放ち、バイクの後を追って走り出した!

――――――――――

「のさ、のし、のす、のせ、のそ、のた……のそ……のぞ、そうノゾム!」
諏訪神はフルフェイスヘルメットに笑い声を轟かせ、バイクを停める。
「ハッハハハ、やっと思い出した! ノゾムなら、ゾムちゃんかな!」
「何でだよ!? 百歩譲って略すのはともかく、ゾムはありないでしょ!」
臨はバイクから降ろされ、諏訪神に肩を支えられて歩きながら抗議した。
「ナッハハハ、元気いいねえゾムちゃん! 男の子は元気が一番だ!」
諏訪神が家の扉を開くと、土間の上にカミが仁王立ちして待ち構えていた。
「やっほー隠ちゃん。元気してた? 我、遊びに来ちゃったよ!」
「帰れ! 余の領地に土足で踏み入るな無礼者! なぜ貴様がノゾムを」
臨と諏訪神の背後で、破滅的な爆音が轟き、タイヤスキールが滑り込む。
「手前らクソ野郎、追いついたぞ! 逃げられると思ってんのかコラァ!」
才原と下っ端2人が車外に飛び出した。全員、手には拳銃を握っていた。
数発の銃声。1発の銃弾が、臨の背中から右胸へと血飛沫を噴き出させた。

麗奈が居間の戸口から顔を突き出し、その瞬間を見てスマホを落とした。
「おい見つけたぞ! 例のガキだ!」
「お、おおお母さーんッ! しゃ、借金取りが来たーッ!」
「ギエエエエエ゛ッ!? 神様仏様ァーッ! 悪霊退散悪霊退散!」
麗奈が叫んで居間に取って返すと、濁った叫び声が古民家を震わせた。
「オラァ! クソババアさっさと出て来い! 居るのは分かってんだ!」
「3500万、耳ィ揃えて払ってもらいましょうかい!」
「嫌だってんなら、娘ともども風俗にぶち込んで稼いでもらうぜ!」
倒れる臨。肩を竦めて道を開ける諏訪神。土間の上で仁王立ちするカミ。
「なッ、何だ手前このクソアマ! 何でマッパなんだ手前は変態かッ!?」
「チャカ見えねえのかこのガキがッ! どけコラァぶち殺」
カミは縦ロールの黒髪を揺らし、前蹴りで才原の上半身を吹き飛ばした。

「「あッ、兄貴ィッ!?」」
カミは素足で血の池に飛び降り、便サン男の頭を右手で掴んで持ち上げた。
「あああああ゛ッ!? もげる、もげるッ!」
便サン男が両目を充血させて暴れ、拳銃の弾をありったけカミに撃ち込む。
「この腐れビッチ、くたばれ!」
ジャージ男が構えた拳銃を、カミの左手が掴んで捻り、腕ごと捩じ切った。
同時に、便サン男の頭が林檎のように、パンと音を立てて握り潰される。
「がぁぁぁはぁぁぁ゛ッ!?」
肘から先を失くしたジャージ男が泣き叫び、戸外に投げ飛ばされた。
左手にジャージ男。右手に便サン男。2人まとめて改造車に投げつけ。
形容不可能な破壊音と共に、車と人体が潰れて混ざり合い、飛沫が飛んだ。


【カミ様少女を殺陣祀れ!/11話 おわり】
【次回に続く】

From: slaughtercult
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