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祈祷師アンゲラ/8話

【祈祷師アンゲラ~黒翼のワルキューレ~】
【8話/諍いの申し子】

――43――

千切れた左腕の痛みに苦悶するアンゲラ。ツェツィは死に物狂いで祈祷!
見よ! アンゲラの左腕と、肩の断面から……触手めいて肉が這い出す!
「ウガアアア――ッ!」痛みに絶叫するアンゲラ。ここからが正念場だ!

(国家祈祷師学校……我が愛しのクソ母校。思い出したくもないわね!)
挑発、罵倒、口論! 謂われなき叱責! 少女は紫電を纏い、立ち向かう!
濁流めいて流れる追憶の風景に、ツェツィは歯を食いしばってしがみつく!

「ギャア――ッ!?」SQUISH! 校庭、アンゲラの眼前に少年が落下!
「「「ギャハハ!」」」屋上から少女たちの嘲笑! 突き落とされたのだ!
全身複雑骨折、瀕死の重症、広がる流血! アンゲラが手を差し伸べる!

「ボクも女の子だったらなァ」アンゲラの隣で呟く美少年・オスカー。
そこに歩み寄る、ウェーブがかった黒髪のジゴロめいた男性教師!
(ウワッ懐かしい……エランベルジェ先生! 変わってないわね……)

「私に関わらないで!」SPAAAAARK! アンゲラ、男性教師に放電!
教師・エランベルジェもまた紫電を纏い、前髪をかき揚げ不敵に笑う!
「同じ稲妻使いとして忠告しよう。自分の怒りを飼い馴らせ、アンゲラ!」

追憶は流れ、物音響く研究室! アンゲラは戸口の隙間から中を窺う!
「先生ッ! こんなところアンゲラに見られたら、嫌われちゃうよおッ!」
処女めいて叫ぶオスカー! 何と……エランベルジェは男色家であった!

――44――

「ンギーギギギッ!」ツェツィ、泡を吹いて涎を垂らし、前後不覚!
「アアア゛――ッ!」アンゲラは激痛に耐える! 左腕が結合していく!
彼女の刺青が光を放ち……CLAP! 刺青に沿って一筋の紫電が走った! 

「本当に公国従軍祈祷師団に志願したのかい、アンゲラ!? 危険だよ!」
「そのために……私はここに入学したのよ」オスカーは力なく項垂れた。
「また会えるよね。ボクたち、友達だよ。いつも無事を祈ってるから!」

雪道に舞い落ちる鴉。荒野に倒れたベアトラム。寒村のカプリヴィ司令。
そして……泉のほとりに、手負いの狼。アンゲラが翠色の燐光を放つ。
左腕を失ったアンゲラが振り返ると、そこには一糸纏わぬツェツィの姿。

(掴まえたッ!)ツェツィが確信した瞬間、意識喪失と同時に心停止!
彼女の精神力が吸い尽くされ、アンゲラの左腕が……完全に結合した!
「ウアアア゛――ッ!」SPAAAAARK! 絶叫と共に、電撃が荒れ狂う!

「キャアーバババババッ!?」荒れ狂う紫電が、フィアナも巻き添えに!
アンゲラから放たれる高圧電流が、半径数メートルの全てに電気ショック!
それは彼女に触れるツェツィと……ついでにローラの心臓も復活させる!

「ギョエエエ゛ッ!?」跳ね起きるローラ! 訳も解らず周囲を見回す!
「やっと起きたローラアアア゛!」フィアナは涙目で足にしがみつく!
アンゲラは目を覚ますと、痛みの残渣に顔を顰めながら、左手を握った。

――45――

アンゲラは、自分の左腕を慎重に確かめた。完全に、元通りであった。
「舐めんじゃないわよ、新入り。私だって、やればできるんだから!」
ツェツィはアンゲラの両肩を掴むと、冷や汗を浮かながら勝気に笑った。

「あんたの記憶、色々と覗かせてもらったわよ。憧れの男の顔までね!」
アンゲラは無言で肩を竦め、ローラとフィアナが怪訝な顔をした。
「腕を喰い千切られてでも狼を治すなんてね……あんたどうかしてるわ」

「ありがとう……腕を治してくれて。狼の前で置き去りにもされたけれど」
CLAP!CLAP!CLAP! 迸る紫電に、ローラとフィアナが震え上がる!
「可愛くないわね」ツェツィはアンゲラと額を突き合わせ、睨み合った。

アンゲラは刺青の刻まれた頬を笑ませ、ツェツィの両手を握り……SPARK!
「アバーバババ!」感電するツェツィを他所に、軽やかに腰を上げた。
「さて……水汲みの途中だったわね。さっさと済ませましょう……」

「あッ……いいいいのよアンゲラちゃん! 水汲みは自分でできるから!」
フィアナは青褪めた顔を笑みに引き攣らせ、自分の天秤を担ぎ上げた。
ツェツィはアンゲラを睨んで舌打ちすると、黙ってフィアナの後に続く。

帰り道。4人の乙女たちは水瓶の天秤を揺らし、寒村を目指して歩く。
「エランベルジェ先生が男好きだったとはね。私の青春、返して欲しいわ」
ツェツィの呟きに、最後尾のアンゲラは溜め息をこぼして頭を振った。

――46――

人気の失せた泉。茂みを揺らして、姿を現すは灰色の巨獣……狼だ。
泉のほとりで、水面に映る自分の顔を暫し眺め、たっぷりと水を飲んだ。
それから彼は、地面の足跡を嗅ぎ回ると、匂いを辿って歩き出す。

水汲みの乙女たちが宿営地に戻りつく頃には、日は高く昇っていた。
「お前たち、随分と遅かったじゃないか!」美貌のナタリーが叱責!
「新入りがドジ踏んだせいでーす!」ツェツィがアンゲラを一瞥した。

「チッ、誰のせいだと思ってんだ……文句があるなら手前で取りに行け!」
ツェツィは小声で毒づきながら、水樽に担いだ天秤から水を注ぎ入れた。
「聞こえたら水責めだぞ、ツェツィ」ローラが口角を上げて茶化した。

「アンゲラ、全くトラブルに事欠かないヤツだね。何があったんだい?」
水樽に水を補給するアンゲラに、ウーズラが糸目で笑って歩み寄る。
「狼に会ったわ……危うく死ぬところだった」アンゲラが左腕を掲げた。

「その面は『危うく』って感じじゃないね。ローラたちはどうした?」
「全員逃げたわ……。腕を喰い千切られたけど……ツェツィが治してくれた」
アンゲラは淡々と事も無げに語り、ウーズラは笑みを凍りつかせた。

「こき使うようで悪いがね、アンゲラ。仕事だよ……また死体運びだ!」
訝しげに見返すアンゲラ。ウーズラは鼻で笑い、丘の上を指で示した。
「見えるかい。祈祷師の溜まり場さ……リンドバーグ人のだけどね!」

――47――

礼拝堂の一室。白装束の老婆……ローザリンデが、愛想笑いで椅子に座る。
机越しに向かい合うは、この村の駐屯軍司令・太っちょのカプリヴィ。
「昨晩はぐっすりお休みになったご様子で。ご気分はいかがですか司令?」

カプリヴィは腰を椅子からはみ出させ、眉根を寄せてフムンと唸るのみ。
彼の脳裏には、昨日会った恐るべき乙女と、謎めいた光景が渦巻いていた。
「……帰るとしよう。いつも世話になってすまんな、ローザリンデ先生」

「司令らしからぬ殊勝なお言葉で! 何か悪い物でも食べられましたかな」
「フン、抜かせ。ここで俺にそんな偉そうな口が利けるのは、先生だけだ」
カプリヴィは居心地悪そうに顔を顰め、小さな椅子から腰を上げる。

礼拝堂に居並ぶ傷病兵たちを睥睨し、カプリヴィは正面の観音扉を開けた。
「何かあった時は、またいつでも……」ローザリンデの言葉に曖昧に頷く。
THUD! 近くで物音。敷地の裏手からだ。カプリヴィは無言で歩き出す。

「おやまぁ、司令。”そっち”は見ない方が宜しいと、進言しますがね!」
「見られたくない物でもあるのか? そう言われると、ますます気になる」
ローザリンデに平手を振り、カプリヴィは腹を揺らして歩き続けた。

THUD! 荷車と、死体。そして黒服たち……クウォイラ人の祈祷師たちだ!
カプリヴィは鼻を鳴らすと、汚らわしい物を見る目で彼女らを眺めた。
「だから言ったでしょう」ローザリンデが彼の背後に立ち、嫌味に微笑む。

――48――

「ここは傷病兵の集まる場所。死人が出るのは避けられない、でしょう?」
「死人と言えどリンドバーグ人。”毒竜”どもに葬らせるのも癪な話だな」
「必要悪ですよ、必要悪……『彼女』たちにも仕事が必要なのです、ええ」

カプリヴィは肩を竦め、黒服を腕組みして見渡し……目を見張った。
「あ、あいつは……ッ!?」死体を担ぎ上げる二人組。うち一人は少女だ。
頬まで覆った黒装束。カプリヴィの脳裏に、電撃めいた衝撃が走った。

アンゲラは視線に気づいて振り返り、老婆と並ぶカプリヴィを見据えた。
「司令官と、隣はローザリンデの婆さん……駐屯する祈祷師の大ボスだ」
耳元でウーズラが囁くと、アンゲラはカプリヴィを一瞥して肩を竦める。

カプリヴィは昨日の顛末を思い起こし、無言で顔を顰めて鼻を鳴らした。
「何だい、あのガキの態度。今、この私を見て……肩を竦めやがったよ?」
ローザリンデは額に青筋を立て、アンゲラを憤然と見据えて歩き出す。

「おい、やめておけ先生! そいつは……」カプリヴィが諫めるも遅し!
「おいそこの”毒竜”! お前だよお前! 聞いてるのかい馬鹿タレ!」
ローザリンデはアンゲラを指差し、語気を荒げて大股で歩み寄る!

THUD! 荷車に死体を積み込み、アンゲラが溜め息と共に再び振り返る。
「手前、”毒竜”の分際でこの私に肩を竦めるたぁどういう了見だ!」
豪勢な白装束を揺らし、ローザリンデが激怒してアンゲラの前に仁王立つ!


【祈祷師アンゲラ~黒翼のワルキューレ~】
【8話/諍いの申し子 終わり……次回に続く】

From: slaughtercult
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