小説:死霊狩り (ゾンビー・ハンター) /アヴァロン 灰色の貴婦人
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大本営発表でクラスのみんなに差を付けろ! どうも、slaughtercultです。
最近、久しぶりに物理書籍を購入したので軽い紹介などでも。
山○屋2号館2階の『AFTERNOON TEAROOM』にて、4人掛けテーブルを一人占めしつつ(良い子はマネしないでね)、ファイブオクロックティーの華やかな妙味に舌鼓を打ち、『死霊狩り』の冒頭を読み始めた時の私の図。
この時はまだ、自分の買った本が2冊どちらも、筆舌に尽くしがたい曲者であったことなどslaughtercultには知る由も無いのだった……。
以下、解説には当該作のネタバレを含みます。ネタバレの上で読まれてなお興味深い作品であることは保証しますが、ネタバレNGな方はそっ閉じ推奨
【死霊狩り (ゾンビー・ハンター) [全]】
作者:平井和正(1938-2015) 刊行年:1972(1巻)'76(2巻)'78(3巻)
元々は3冊に分かれていた本を、本編に後書きやら解説やらもひっくるめて1冊にまとめ、649頁の『業本』……いや合本としたSFアクション小説。
初出が1972年であり、和製ハードボイルドが濃厚に臭う作風も相まって文体に古さを感じたのですが、大藪晴彦の『野獣死すべし』が1958年、モンキー・パンチの原作漫画『ルパン三世』(未見)は1967~69年。ルパンのTVアニメが1971~72年なので、丁度この辺りの世代ですか。
まあ大藪チックな文体は、当時の流行りと言えばそれまで? 私は平井氏の作品を読むのは当作品が初めてなので、この手の文体が氏の特徴であったかどうかわかりません。多分違うと思うけど。いや根拠はありませんが。
まず特徴的な大藪テキストの再現性が異様に高い。勉強したんだろうなあ。飛行機ハイジャックで最初からクライマックスの冒頭、企業テロ、沖縄駐留米軍、レース事故と読んでて「昭和だな」という気分になる出来事の数々。
病み上がりで会社からはリストラされた主人公が、暴露記事書くぞゴラァ!するわ、ハーフ美女の恋人は同僚にNTRるわ、ストリートファイトするわ、すったもんだしてるうちに孤島のジャングルでサバイバルゲームドーン!
恐怖! 生き血を啜る大アリクイ! 荒唐無稽なデタラメ冒険小説っぽさ。いや~実に素晴らしい。冒頭から読者を振り落としにかかってますなぁ~。所々で劇画調の挿絵がいい仕事をする。主人公よ、お前は本当に23歳か!
劇画調の挿絵も、時代の風を感じられてまた良いものです。
ただし、キャラグラは漫画版が良すぎてなぁ……。
で、私は学生時代の昔に、漫画版の『死霊狩り』を読んだことがありますが第1部は漫画版とほぼ同様、サバイバルゲームを勝ち残るまでが物語の肝になってますね。出会いと別れ、日常へ戻りそして……素晴らしき王道展開。
一点かなり意外だったのですが、全編を通して『死霊狩り』の表題ほどにはバンバン死霊を狩ってないんですね~これが。『戦闘妖精雪風』の3部作で雪風がドッグファイトするよりも、死霊を狩ってないですよねこれ多分。
それが面白くない、とは言っていない。隙あらばチラチラこっちを見て話に加わろうとする林先生だいすき。漫画版から好きだったけど、原作を読んで更に好きになりました。強者オーラを漂わせたお節介焼きとか最高かァ!?
展開はハードでとにかく救いが無く、主人公は誇大妄想的司令部に君臨する暴君、お前のメンタル絶対削るマンのボスからパワハラ波状攻撃を受けて、対面直訴してはあしらわれる繰り返し。一々それに付き添い見守る林先生。
怪物との戦いというか、怪物と戦う主人公の心理状態に主眼を置いてるのが実に興味深いですね。これがSFか。キレ芸に定評のある主人公・田村俊夫は『雪風』の主人公・深井零少尉と比べて、お喋りなので感情が分かり易い。
1部、2部、3部と物語が進むに従って、主人公のメンタルが追い込まれていく辺り、読み進めるの辛さがある。ていうか、2部の時はうじうじすんな早く殺れお前、とか思ってたのが3部の展開で「あ……なんかすまん……」となるこの感じ。私は苦悩を裏技でグリッチする主人公など見とうなかった。
それはさておき、1部の劇画タッチ挿絵は、冒険譚とも相まって現代でいうライトノベル風味というか、外連味があってよかったですね。2部以降には無いわけなんですが。なんでや。版元が変わったせいなのでしょうか。
そしてラスト……ラストなぁ、これはねぇうん。これは賛否両論割れるしかないよねこれは。物語は娯楽なんだから最後くらい楽しく〆ろという思想の方にはオススメできません。私は伏線と残りページ数で色々察したけど。
いやこれ……終わったけど……終わってねえだろ色々……初代バイオハザードのタイラントの顔ドアップでスタッフロールが流れるBAD END並みに終わってないじゃん色々と。消化不良。夢で終わらせない。いっそ夢で終わらせて。
夢で終わらせない ちっぽけな世界でも 風をナビにして レールの上
歩いて行こう ってそんなポジティブに終われるかいい加減にしろ!
ドガーン!!!!! 大爆発! 終わり! 閉廷! 以上! 皆解散!
【アヴァロン 灰色の貴婦人】
作者:押井 守(1951- ) 刊行年:×2008年→○2000年 ※後述
バールさんの美文麗文note記事で、私が押井守や伊藤計劃も美文麗文では?いや違うか……とツイートしたのが切欠で、ポロッとこぼれた作品名。
そこから、むつぎはじめさんや居石信吾さんなど先達方の乱にゅ……お導きツイートを頂き申して、何だか急に欲しくなって買っちゃった次第です。
冒頭の文「この世界は常に強烈な既視感に包まれている、と俺は思う。」を引用して考えるにつけ、『ソードアート・オンライン』への強烈な既視感を感じる私であります。スピンオフ作品の『ガンゲイル・オンライン』など、『アヴァロン』以後の作品であると考えると、色々想像してしまいますね。
時系列としては、『SAO』のネット公開が最も早く2002~2008年。
『アヴァロン 灰色の貴婦人』の刊行が2008年。『SAO』の物理書籍化が2009年~で、スピンオフの『SAO GGO』は2014年~刊行とのこと。
(2020年3月23日 訂正)『アヴァロン』の物理書籍は2000年に刊行し、映画版も2001年放映された、(『SAO』の2002年公開よりも先出)というツイート情報を頂きましたので、お詫びの上で訂正申し上げます。
ちなみに下記ツイートで名前の挙がった『クリス・クロス 混沌の魔王』は
1994年刊行の、第1回電撃ゲーム小説大賞・金賞受賞作とのこと。
【この情報に従って、時系列を再整理すると……】
『クリス・クロス 混沌の魔王(1994)』⇒『アヴァロン 灰色の貴婦人(2000)』
⇒『ソードアート・オンライン(2002)』⇒『ガンゲイル・オンライン(2014)』
念のために言っておきますが、パクリ云々の話はしてませんよ、今私は。
3人の別々な作家が、スタンドアローンで話を作り上げたかもしれないし、先に打たれたボールを、より捻った変化球……より巧い物語を作ってやろう精神で、相手のコートに撃ったり撃ち返したりしている ”かもしれない”。
私はこの辺の文脈に詳しくないのでアレですが、源流を辿れば川原礫さんの『SAO』以前にも、同じ志を持った物語はあったかも知れません。古今東西世界各地を探せば、元ネタはまずあると考えて間違いないでしょう。
しかしこと『アヴァロン』近辺の時間軸で考察すれば、押井守さんにせよ、時雨沢恵一さんにせよ、ボールの撃ち合い……引用し魔改造しての再提示。いかにもやりそうと言うか、貴方たちそういうこと好きですよね、と。
すいません、話が逸れました。ともかく、これら3作を俯瞰して考えると、ゲームと人間との距離感(スタンス)に顕著な違いが見受けられて面白い。
私、SAOはアインクラッドのみ読んだ民なのですが、やはりSAOは英雄的というか。ソロプレイを基軸にしたヒロイズムっすよね。それがスピンオフのSAO GGOになると、仲間がいてたーのしー!なワイワイ日常重点になる。
それらの中間時期に発表された『アヴァロン』は……生活臭と世知辛さ!(笑)好きなことしてお金稼ご♡(迫真)に、ディストピア飯だの生活保護だの、酒と涙と男と女だの、夢も希望も未来も無い黴臭さが圧し掛かってくる!
ほんとね。もう、やっぱこれ押井守ですわって。私、押井守大好きだったと再確認したりしなかったり。ミリタリー描写だの飯だのと、ツッコミどこは色々あるでしょう。でもね、私に言わせれば大事な部分は他にある!
世知辛いんですよ! 押井守の物語は、世知辛い! お金が無くて、住居は暗くて狭くて臭くて(言い過ぎだな)、飯は不味そうで旨そうで(矛盾)、正にここ、一番大事! この救いようの無いしみったれ加減が! 大好き!
私、押井守の小説は『BLOOD THE LAST VAMPIRE 獣たちの夜』から入った民なのですが、『獣たちの夜』はもっと凄いぜ~マジで凄いぜ~。アカ時代の郷愁と、明日から使えないムダ知識が山盛りでもう気が狂うほど気持ちが(ry
異様に凝った設定描写。火器の戦闘(ファイアファイト)描写、食事描写、あと犬。やたらみんなタバコ吸ってたり。思わせぶりなのかそうでないのかわからん尻すぼみEND。全て様式美です。押井守という作者の”伝統芸能”。
攻殻機動隊で例えると、川原礫さんの『SAO』が史郎正宗さんの原作漫画、時雨沢恵一さんの『SAO GGO』が神山健治さんのTV版 S.A.C.ってとこかな。押井守さんの『アヴァロン』はといえば、押井守の映画版イノセンス(笑)
残留押井守能が強過ぎる! 押井守は何をかけても何で割っても押井守! もうね、私は表層的な紹介しかしないので、興味出た人は読んでください。読んだ方が早い。押井ワールドにハマるでも焚書するでもお好きにどうぞ。
【総括】
和製ハードボイルドと近代ラノベの結節点(slaughtercult調べ)の意欲作。何かの間違いで旧共産圏武器庫から盗掘密売された大量破壊兵器・押井守。
いや~、こいつは久しぶりに良い買い物したな!(ニチャア)(キモオタスマイル)
結論から言ってしまいますと、他人へのオススメ度は低いかな~うん?
という取り合わせになりましたが、個人的には70点越えは固いのでヨシ。
死霊狩りは、漫画(未完)を買って再履修したいな~などと思ったり。
アヴァロンは、赤い眼鏡なんかも含めて押井映画を見たいな~と思ったり。
まあそんなことこんなこと、色々と考えたりしつつ。こんな通ぶってる割に大した内容を書いてない、余り参考にもならないレビューをかいてみたり。まあそんなわけで、人生楽しくいきましょーね! いい読書ライフを!
【小説:死霊狩り /アヴァロン 灰色の貴婦人 おわり】
From: slaughtercult
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