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カミ様少女を殺陣祀れ!/26話

【目次】【1話】 / 前回⇒【25話】

ボロ切れめいて千切れた学生服をまとい、臨が立ち上がる。アスファルトに広がった血の池が、ビデオの逆再生めいて臨の身体へと吸い込まれていく。
「何なのよ、こいつッ……!」
ゴスロリ衣装で紫紺の長髪を振り乱し、丞子は苦み走った顔で後退った。
「ギャア! ギャア! ギャア!」
青白く輝く鬼火狐たちは、戦闘ロボットに付随するオプション兵器のように丞子の周囲を取り巻き、いつでも飛びかかれる体制で警戒した。
「カハーッ……」
臨は小首を傾げた姿勢で白い歯を剥き、蒸気めいた吐息が空気を霞ませる。臨の身体の輪郭に陽炎が取り巻き、周囲の景色が歪む。臨は手足を不自然に突っ張らせ、操り人形のように不気味な仕草で、丞子たちに歩み寄った。
「何よその動き、キモッ! それが田舎神の力ってワケ? 普通の人間よりちょっと頑丈になった程度で、いい気になってもらっちゃ困るのよ!」
丞子が歩み寄る臨を指差し、鬼火狐たちが踏ん張る前足に力を込めた!
「行けッ! 八つ裂きにしておしまいッ!」
丞子が叫んだ次の瞬間、臨の身体が残像を曳いて走り出す!


丞子と狐たちは、攻撃態勢をキャンセルし跳躍、四方八方に散開!
両腕を胸の前で鎌めいて垂らした臨が、一切の予備動作もなく残像突撃!
丞子が一瞬前に立っていた空間を、黒熊の上体すら切断する鉤手が空振り!
その姿、獲物に飛びつく蟷螂のごとし! 振り抜かれた蟷螂の斧は、末端が音速を越えて指先にヴェイパーすらまとい、ヴォンと衝撃波が弾ける!
「何ですってッ!?」
丞子は驚きの声と共に、一度のジャンプで十メートルほど後退! 狐たちはブロック塀や民家の屋根上など、方々に飛び上がって臨を見下ろす!
「クシャーッ……」
獲物を捕らえ損ねた臨は、両の鉤手を振り抜いた前傾姿勢で静止。残心して威嚇めいた金切り声を上げる。その姿、あたかも威嚇する肉食昆虫!
「フンッ、残念ね……神様を舐めてもらっちゃ困る……の、よッ!」
丞子はゴスロリ衣装の袖を伸ばし、傍らに立つ時速30km規制の標識を片手で掴んで力を込めた。円い看板を支える太い鉄管の軸を、紙縒でも折るように容易く根元で圧し折り、バチンとねじ切って誇らしげに掲げた!
「……でも、丸腰じゃちょっとヤバそうだからチートね。ちょっとだけ」
丞子は即席武器として携えた道路標識を、両頭斧めいて素振りして威嚇!
臨は前屈みで膝を曲げ、両手を胸の前に揃えた蟷螂の姿勢。髪を振り乱した顔が丞子を見据えて歯をカチカチと噛み鳴らし、双眸が赤く光っていた。
「かかってきなさい、眷属……いえ『人間』。神の力を教えてあげるわ!」
丞子は道路標識を肩に担ぎ上げ、片手で銃の形を成して臨を指差す!


前傾キョンシー姿勢で佇む臨の姿が、再び消失! 丞子は道路標識を両手で戦斧のように握り、額から冷や汗を流して『その瞬間』に目を凝らす!
「……来るッ!」
陽炎が残像を曳き、透明な龍めいて地をのたうち、超高速で丞子に迫る!
丞子は既に標識を振り抜いていた! 陽炎の龍は丞子の斬撃ムーブを察知し鎌首をもたげるように跳躍、上に軌道修正! 丞子の背後に回り込む!
「……早いッ!」
空中で反転し体勢を入れ替え臨が着地! 丞子は振り返って標識を構える!
そして衝突! 臨、ゼロ距離突撃し蟷螂の斧! 丞子、標識で受け止める!
壮絶な火花と破断音! 標識のパイプ軸がスッパリと三分割される!
「……甘いのよ」
数十センチのパイプ柄を残し、片手斧と化した標識を握り、丞子が嘲う!
「「「ギャオッ!」」」
両の鉤手を振り抜いて残心する臨! その頭上から降り注ぐ鬼火狐たち!
臨の両肩に! 両脚に! 首の付け根に! 食らいつき、押し倒す!
「ギシャアーッ!?」
「「「ギャオーッ!」」」
昆虫の断末魔めいて臨が鳴き、すかさず立ち上がって狐たちを振り払わんと五体を打ち振るが、狐たちは臨の骨肉に深々と食らいついて離れない!
ミシミシと石臼で挽き潰すような破砕音! 臨の五体にぶら下がる狐たちが食らいつく顎の力を強め、そして……臨の手足を、首根を、喰い千切る!


鮮血をしぶかせ痙攣する臨と、跳び下がる狐たち! そこに標識の片手斧を振りかざし、すかさず駆け寄る丞子! ダメ押しの一撃に鋼鉄の輝き!
「ぜりゃあああああッ!」
一閃! 時速30km規制の看板が、臨の身体を正中線に沿って左右に切断!
臨の体制が崩れ、首が転げ落ちるよりも早く、丞子が再び身を翻す!
ダメ押しのもう一撃! 臨の両耳に沿って横一線! 頭部を十字に裁断!
「ハァッ、ハァッ……」
丞子は標識の片手斧を振り抜きつつ、素早く背後に跳躍! 着地し残心!
鬼火狐たちが跳ね、丞子の周囲に回転着地! 視線は臨から放さない!
四分割された臨の頭部が、サイコロステーキのように転げ落ちる! 続いて両手足が千切れ落ち、二分割された胴体が内臓をぶち撒けながら倒れた!
吹き荒れる血の嵐! 燃え盛る溶岩めいて、周囲の景色が陽炎に歪む!
「ハァーッ……手こずらせやがって。今度こそちゃんと死んだかしら?」
標識の片手斧を血払いし、丞子が忌々しげに呟いた。直後、鋭い痛みに顔を歪め、頬を手で拭った。返り血だ。臨の返り血が蒸気を発していた。
「痛ッ!? 最後の最後まで私をおちょくりやがって、この……」
「「「ギャア、ギャア、ギャア!」」」
狐たちが激しく鳴き、丞子の意識を引き戻す! 前方に転がる臨の残骸に!
いや、それはもはや残骸などではない! 撒き散らされた血飛沫が、蒸気をもうもうと立ち昇らせて寄り集まり、臨の身体が再生して、立ち上がる!
「うそ」
出現と同時に消失! アスファルトに灼熱の血の焦げ跡を残し、陽炎の龍が残像を曳き、牙を剥いて身構える狐たちの隙間を抜け、丞子に突撃!


昼下がりの住宅街を貫く、トラック衝突めいた衝撃音! 身一つで突っ込む臨の攻撃に、丞子は防御する暇もなくビリヤードめいて弾き飛ばされる!
「グボエッ……」
路地裏をぶっ飛ぶ! 丁字路の突き当り、ブロック塀めがけ一直線!
背中から衝突! 大の字でめり込み、衝撃音! ブロック塀に亀裂が走る!
「クソッ。人間にしては……思ったより、やるじゃないの」
丞子が痛みに噎せ、咳き込んで目を開くと、直ぐ目の前に迫った臨の姿!
「ハァッ!?」
臨の手で金属光沢を放つ何か。鉤手で切断された標識のパイプ軸の残骸だ!
重い一撃! 吸血鬼を殺す杭打ちめいて、丞子の胸を貫く鉄管の切れ端!
「ガバアッ……」
双丘の狭間を貫かれ、神、吐血! 致命傷には程遠いが、痛いものは痛い!
臨は鉄管で丞子を斫り、背面のブロック塀もろとも衝撃で突き崩す!
轟音! 立ち込める土埃! 丞子はゴスロリ衣装を血で濡らし、崩れかけた空き家が建つ一角、その家庭菜園の残骸めいた空き地に転がり込む!
「グベボッ! ゴボオッ! 痛ェーッ、チクショウ!」
丞子は痛みに叫び、浅く呼吸しながらよろめき立ち上がる。ゴスロリ衣装の胸には鉄管が深々と突き刺さり、扁平に潰れた先端が飛び出していた。
土煙の中から臨が飛び出し、丞子に追い縋る! 鬼火狐たちも後に続く!
「クソッ、しつこいヤツねッ!」
丞子は舌打ちして遁走! 空き家の窓を破って室内に転がり込む!
臨はもう一本の鉄管の切れ端を握りしめ、空き家の壁をぶち破って突入!


破壊! 破壊! 破壊! 壁を、柱を、建具を! 荒廃した家屋に散在する有象無象を薙ぎ倒し、行く手を遮るあらゆる物体を壊しながら、丞子と臨が交錯を繰り返す! 鬼火狐たちが死角から臨を奇襲し、手足に食らいついて動きを止めれば、土埃の中から丞子が飛び出し、標識の片手斧で斬撃!
「人間風情が……調子に乗るんじゃ、ないわよおおおおッ!」
血飛沫! 臨の上体を袈裟懸けに切断! ずり落ちかけた上半身が、右手を突き出す! 臨の握りしめた鉄管の残骸が、今度は丞子の左肩を貫く!
「グゲエーッ!?」
丞子は悲鳴を上げ、建具の残骸を薙ぎ倒して転がった! 臨に食らいついた狐たちの顎が、臨を四肢切断! 臨の肉体が崩壊し、破れ畳を転げる!
「「「ギャア! ギャア! ギャア!」」」
丞子が歯を食いしばって起き上がると、鬼火狐たちが駆け寄って心配そうに見上げた。丞子は右手で左肩の鉄管を掴み、力任せに引っ張る。
「ギエーッ!? イデデデデデッ! 無理無理無理、抜けないッ!」
丞子が痛みに悶え、鉄管を抜くのを諦める。目と鼻の先で、臨の残骸が既に身体を再生させつつあった。丞子は舌打ちし、鬼火狐を伴って遁走!
壊し尽くされた一階を駆け過ぎ、急傾斜の階段を駆け上がって、二階へ!
「神様が、どつきあいで人間に歯が立たないっての!? ありえないッ!」
だだっ広く埃っぽい空間、暗がりの天井には、煤けた梁が十字に伸びる。
次の瞬間、床をぶち破って臨が出現! 薄暗がりに光る赤眼が丞子を睨む!


跳躍! 跳躍! そして跳躍! 丞子が、鬼火狐たちが、臨が、床を跳んで梁へ着地し、梁を駆けて屋外へ飛び出す! 朽ちかけた屋根瓦の上に!
朽ちた木材が弾けるような音を立て、ボロ屋敷全体が地震に襲われたように振動する! 臨と丞子の激しい衝突に耐えきれず、もはや崩壊寸前だ!
壊れ行く空き家の屋根上で、丞子は拳を震わせて臨を振り返った。
「何なのよ……何なのよ……何なのよォ、お前はあああッ!」
「カハーッ……」
臨は狂気に取りつかれた眼差しで、蒸気めいて息を吐き、丞子と対峙する。
丞子は驚きに目を見開いた。この人間、本気で神を殺そうとしているのだ!
「ああもう面倒臭いッ! さっさとくたばりなさいよ、この死に損ない!」
丞子は胸と左肩から鉄管を生やしたまま、臨に捨て台詞を吐いて駆け出す!
鬼火狐を引き連れ、屋根瓦を駆けて跳躍! 隣家の屋根に飛び移る!
「クシャーッ!」
臨も決断的に走り出し、軒瓦を蹴り砕きながら踏み切って、隣家に跳躍!
屋根から飛び出した丞子たちと臨の背後で、空き家が音を立てて崩壊する!
遁走する丞子と鬼火狐! 追跡する臨! 両者が続々と屋根を跳び渡る!
瓦を踏み砕き! 太陽光パネルを圧し折り! パラボラアンテナを破壊し!
荒ぶる竜巻めいて、進路上の屋根の構築物を破壊しつつ走り続ける!
丞子の眼前で、跳び渡るべき屋上が途切れた! 国道に突き当たったのだ!
「ええい、南無三ッ!」
雨樋に壁に手摺と、ひらりひらりと身を翻して地上に着地! 前方に広がる道路、歩道橋までは遠い! 目の前の車道は今、赤信号! 丞子と狐たちは遮る者の無い車線上に迷いなく躍り出て、一息に向こう側へ駆け抜けた!


臨がビルの屋根上から飛び降り、国道前の歩道へと着地した時、丞子たちの姿は既に無かった。臨は殆ど役目を果たしていない学生服で、大事な部分を辛うじて隠した出で立ちで佇み、赤眼を光らせて周囲を見渡した。
「カハーッ……」
眼前の道路を、無数の車両が唸りを上げて往来する。車窓から、乗員たちが野蛮人めいた臨へと、通りすがりに遠慮なく奇異の眼差しを浴びせた。
「ママー! あの人何してるのー?」
「シーッ! 見ちゃいけません! さあ、行くわよ!」
「何あの人?」
「野蛮人?」
「頭おかしいんじゃねえの?」
「おい、絡むなよ!」
「気持ち悪い……」
雑踏が思い思いの言葉を浴びせ、立ち尽くす臨から距離を取って歩き去る。
臨の見開かれた双眸から、赤い光が風前の灯めいて瞬き、かき消えた。
臨は始め、肌寒さを感じて我に返った。次に、自分の両手を眺めて驚いた。
「ハッ、僕は一体何を……って、ハッ!? ハァ……ハァーッ!?」
そこにあるのは紛れもない自分の身体だった。但し、限りなく全裸に近い。
「何が、僕に何が、な、な、なななな……何じゃこりゃあああああッ!?」
全身の血液が沸騰するような羞恥心に耐えかね、臨は反射的に駆け出した。


【カミ様少女を殺陣祀れ!/26話 おわり】
【次回に続く】

From: slaughtercult
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