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黎明の01フロンティア №00-07 中編

№00-07 前編 より続く

――――――――――

\中編開始
\黎明の01フロンティア


昼休みのチャイムが鳴り響く。
いつもの売店争奪戦へと、クラスメートが一人また一人と教室を飛び出す。
(昼休みくらいは大人しくしててくれよな……)
黎明は人気の少ない屋上へ向かおうと、教室のドアを引き開けた。
そこに、担任の剱持麻衣子が立ちはだかる。
「……鍛冶屋くん、ちょっと来なさい」
仁王立ちするスーツ姿の背中からは、怒気が立ち上るようであった。
「何でしょう。またサーバの故障か何かですか?」
「いいから、来なさい!」
麻衣子は怒りに顔を引き攣らせ、頭ごなしに言い放つ。
黎明は肩を竦めて頷き、麻衣子の背中に従った。
左右田夏目は教室の片隅でそれを見て、おもむろに席を立った。


そこは職員室ではなく、どこかの応接室であった。
上座には、第1職員室の主・新喜教頭が座っていた。
「そこに座りなさい」
黎明は麻衣子の言葉に従い、下座に腰を下ろす。
「さーて、と……どこから聞いたもんかねェ……」
新喜教頭は甚だ不本意といった表情で、テーブルの書類をめくった。
隣に座っているのは、実習生・木暮彌市。
――ドンッ!
麻衣子は痺れを切らして、テーブルを平手で叩いた。
「鍛冶屋くん! 今から質問することに、正直に答えなさい!」
黎明を見つめる木暮の顔が、ニヤリと不穏に笑んだ。
「ちょ、ちょ、ちょっと剱持センセ! もちょっと穏便にだね――」
麻衣子は宥めにかかる新喜教頭の手から、書類を奪い取った。
「職員室のサーバに、不審なプログラムが入っていたそうよ」
黎明の眼前に、A4サイズのコピー用紙が放られた。
黎明はそれを見た瞬間、僅かに双眸を窄めた。
(俺が仕掛けたバックドア……勘付きやがったか)
「ええ、それを入れたのは俺です。整備用のプログラムですよ」
「正直に答えなさい、と言ったはずよ」
麻衣子は黎明を睨みつけ、有無を言わさぬ口調で続けた。
木暮が呆れた様子で肩を竦めた。
「あー、正直に言った方が良いと思うけどなァ?」
黎明は挑発的に告げる木暮を、眼光鋭く見返した。
「3日前の4時限目。あの時の『整備』に使ったのは事実です」
「白を切るのはやめなさい!」
ドンッ、ドンッ!
麻衣子は、書類の上からテーブルを叩いた!


フッフッフ……木暮が肩を揺らして黎明を見据えた。
「嘘ついたって無駄だよ。これはバックドアじゃないか?」
「ええ。仰る通りです」
「何の為にこんなものを仕掛けたんだい?」
「情報が抜き取られた痕跡があるのよ! 正直に答えなさい!」
黎明は、深く溜め息をついた。
「……いいですか。先々月、新学期から職員室サーバが度々異常を来していたのは周知の通りです。俺がその度、修復作業に駆り出されたのもね」
「要点だけを答えなさい!」
黎明は、麻衣子の言葉を咎めるように一瞥した。
「俺はここ最近のトラブルの多さに、嫌な予感がしました。サーバが悪党に掌握されたら一大事と考え、『勝手口』を設置したのもその為です」
うんうん、と新喜教頭が頷いた。
「案の定、3日前のトラブルでは、サーバのログインすら不可能になった。誰かが勝手にパスを書き換えたんです。その時はバックドアから接続して、何とかサーバシステムを正常化しましたが――」
「君の行為は法に触れているんだよ。解ってるのかい?」
食い気味に木暮が突っ込み、黎明は眉を顰めて一瞥した。
「ええ、その通り。グレーどころか真っ黒でしょうね。法的な処罰も結構。だがここで重要な論点はそこじゃあないんです!」
――ドンッ!
「いい加減にしなさい、鍛冶屋くん! あなた――」
麻衣子の横槍を無視して、黎明は大声の早口で言葉を続ける。
「結論から申し上げますと、サーバには大量の不審な暗号化ファイルが保存されていました……人目を忍ぶようにね!」
木暮の薄笑いが、すっと真顔に変わった。
「あなた方は、俺が情報を盗んだと疑ってるようですがね。俺の見立てじゃ収集していたのはサーバ自身だ! 接続された教員のPCHIDから――」
「そいつはどうかな。君自身がやっていない保証が、どこにある?」
木暮が口角を上げ、反論した。
目は笑っていなかった。
(なるほど……こいつの話の落とし所が読めてきたぜ)


新喜教頭の平手が、木暮の話題を制した。
「そもそもその……何だ。ファイル? とやらは、一体何なんだね?」
冷や汗をかきながら、新喜教頭が早口でまくし立てた。
麻衣子と木暮が、同時に新喜教頭を見つめる。
「……ハァ」
黎明は盛大に溜め息をこぼし、椅子に深くもたれた。
「個人情報……それも、かなりプライベートな内容です。それ以上――」
木暮の顔つきが明らかに変わり、唐突に椅子を蹴った。
「おい貴様! 解析したのかッ!?」
「ちょっと木暮クン! まあ興奮しないで、ほら座って!」
宥める教頭。表情を凍りつかせる麻衣子。
冷静沈着に、その光景を見上げる黎明。
木暮は懐に手を突っ込み、HIDを操作した――

――BUZZ!

BUZZ! BUZZ! BUZZ! BUZZ! BUZZ! BUZZ――!

[ALERT: 不正接続 多数! …… ハッキング 集中攻撃です!]
ヘッドセットで、プランセスが悲鳴のような報告!
[CAUTION: MC-III プライベーティア 多数侵入 攻撃継続!]
(場末のチンピラが使うようなプログラムじゃねえな……)
黎明は木暮を睨み、舌打ちした。
(どうやら、悪党が本性を現してきたらしいぜ)
「失礼しました、教頭先生。少し頭に血が上ってしまって」
木暮が勝ち誇った笑みと共に、上着を正して座り直した。
「……おや? どうしたんだい鍛冶屋くん。怖い顔をして」
黎明は目頭を揉むと、ヘッドセットを左手で押さえた。
「プランセス。カノーネンフォーゲル展開、制圧しろ」
[DANGER: 攻撃不能! 防御で 精一杯です! リソース低下!]
(攻撃が予想以上だな……一体何人で攻撃してやがるんだ?)
――ドンッ!
木暮が止めとばかりに、テーブルを打ち据える!
「さあ、そろそろ白状したらどうなんだい、鍛冶屋くん!」
(こうなったら仕方ねえ。奥の手を使うか)
「負けを認めたまえ! 職員室サーバをハッキングしたのは君だろう!」
黎明は溜め息をこぼし、懐からHIDを取り出した。
「証拠を消すつもりかッ! 君を警察に突き出すこともできるんだぞ!」
「ちょっと木暮クン。いきなり警察ってのも――」
「教頭先生は事態の深刻さを理解してないんだッ!」
「そうよ、教頭先生!」
口論する三者を尻目に、黎明は接続ケーブルを取り出した。
「ハンターキラーだ、プランセス。直接支援する」
[CONFUSE: えっ レイ それは 待ってください 駄目です お願い――]
HIDの接続ポートにケーブルを繋ぎ、後頭部の脊髄ユニットを手探る。
「何をする気だ! 鍛冶屋!」
木暮が血相を変え、掴みかからんばかりの勢いで叫ぶ!
黎明は口の前に人差し指を立て、片目を閉じて微笑んだ。
「ちょっと失礼」
[CONFUSE: リソース低下! リソース低下! 待って 駄目 待って――]
黎明は、脊髄ユニットにケーブルを……接続!
BEEP!
[<MASTER>: 接続確認 同期開始 …… ハンターキラー β0.9.201 起動]
視界に閃光めいたノイズが走り、精神が加速する!

\中編終了
\黎明の01フロンティア

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