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祈祷師アンゲラ/17話

【祈祷師アンゲラ~黒翼のワルキューレ~】
【17話/戦場は遠く】

【16話より続く】

――97――

視界の左右に迫る山。細くうねる谷道を下るは、夥しい武装した男たち。
「ラグランジェのクソどもめ!」「今度という今度は、容赦しねぇ!」
上気して進軍する隊列は、猟兵と郷防隊の混成旅団。彼らの士気は高い。

谷を抜け、平地へ。視界の先には、遠くない昔に『死んだ』廃村が広がる。
荒れ地の只中では、燃え尽きた傭兵たちの亡骸が骨となり、雪に埋もれる。
リンドバーグ公国の兵たちは、殺気をまとって廃村へと一直線に突き進む。

BLAM!BLAM!BLAM! 廃村から銃声だ! 威嚇めいて断続的に響く!
「諦めの悪い野郎どもだ!」「今すぐにでも、そこから叩き出してやる!」
「前列、横隊!」「「「オウ!」」」号令一下、兵士たちが戦列を組む!

BLAM!BLAM!BLAM! ZIP!ZIP!ZIP! 飛来した弾頭が周囲に着弾!
廃村の上空を目がけ――CLACLACLACLACLACLANK! 構えられる銃口!
「撃てーッ!」BLABLABLABLABLABLAM! 一斉射撃、立ち込める硝煙!

仰角射撃! 無数に放たれた大口径の鉛弾は、大きな放物線を描いて飛翔!
そして斜め上空から――ZIZIZIZIZIZIP! 廃村を目がけて、弾着が殺到!
「来たぞッ!」「撤退ッ!」降り注ぐ弾の雨の中、傭兵たちが身を翻した!

BLAM!BLAM!BLAM!「オラオラオラァ!」「くたばりやがれぇッ!」
前進、射撃、装填! 混成旅団は断続射撃と共に、廃村に接近していく!
ZAP!「ギャッ!?」ZAP!「ゲェッ!?」近づくにつれ、自軍にも被弾!

――98――

ZIZIZIZIZIZIP! 廃村。大量の弾着に、廃墟が悲鳴を上げて木片を散らす!
BLAM! 家屋の残骸に隠れた傭兵が発砲! 彼の背中を仲間が叩いた!
「早く離脱しろ、死ぬぞ!」「行け! 俺が殿を務める!」「何だと!?」

「「「ウォーッ!」」」BLABLABLABLABLABLAM! 鬨の声と、銃声!
ZAP!「オ゛ッ!?」傭兵が振り向くと、仲間は頭蓋が割れて死んでいた。
CLANK! 彼は新式銃のボルトを操作し、薬莢を排出! 次弾を装填する!

「ここが死に時だな……父さん、母さん……」傭兵が呟き、銃を再び構えた。
眼前に迫るは、100人を優に超す歩兵部隊。同胞・リンドバーグ人たちだ。
BLAM! ZAZAZAZAZAZAP! 次の瞬間、傭兵は弾の雨に打たれ死んだ。

「痛ェーッ!」負傷して置き去りにされた傭兵が、廃村の地をのたうつ!
「「「滅ッ!」」」SQUISH!SQUISH!SQUISH! そこに殺到する銃剣!
「グボッ」仰向けで這い回っていた傭兵が痙攣し、白い大地に血が流れる。

「ワーッハハハ! 勝利!」「「「勝利!」」」勝ち鬨を上げる兵士たち!
彼らは家屋の残骸から傭兵の死体を引きずり出し、先を争って金品を漁る。
CRACKLE!CRACKLE!CLACKLE! 放火された廃墟の群れが炎を上げる!

「進軍再開ーッ!」TAP!TAP!TAP! 夥しい兵たちが廃村を後にする。
炎に照らされる屍は、傭兵だらけだ。彼らは早々に撤退し、死体は少ない。
混成旅団の損害は数人程度。死者は捨て置かれ、一団は国境を目指し進む。

――99――

BLAM――ZAP!「ゲェッ!」森の中から不意討ち! 隊列の1人が倒れる!
BLABLABLABLABLABLAM!
 道の脇の森めがけ一斉射! 手応えはない!
「卑怯だぞーッ! 正々堂々戦えーッ!」BLAM――ZAP!「オ゛ッ!」

混成旅団は国境沿いの深い森を迂回し、長蛇の列を成して国境線を目指す。
彼らが森に分け入らないのは、この森が狼の根城と信じられているからだ。
そのため、森は傭兵たちの格好の潜伏場所と化し、奇襲を許してしまう。

「こんな森、焼き払っちまえば良いんだ!」若い猟兵が拳を突き上げ叫ぶ!
「森はラグランジェまで続いとる。敵方の領地まで森を燃やせば戦争だぞ」
「望むところだぜ!」勇ましい返答に、隻眼の老兵は溜め息をこぼした。

……RUSTLE!「全員伏せろ!」老猟兵の号令に、隊列が一斉に伏せた!
BLAM! 奇襲は空振り、老兵はすかさず、音の方向へヤーゲル銃を照準!
BLAM――ZAP!「ガバッ!」森の中で、1人の傭兵が心臓を貫かれ、即死!

「もう大丈夫だ。進め!」老兵は銃に火薬と鉛弾を装填し、片手を挙げた。
混成旅団の進む先に、森が開け……石積みの巨大な門が現れる。国境だ!
「フン、ラグランジェめ……雁首揃えおるわい」老兵が片目を細め、嘲う。

城壁めいた堅固な石門。重厚な木製の観音扉は閉ざされ、門上部には兵隊!
帝政ラグランジェ共和国の国境警備隊が、青銅砲と新式銃を照準している!
リンドバーグ公国の混成旅団は、鹵獲砲と旧式銃の歩兵で、陣を組み対峙!

――100――

暗闇。村へ続く涸れ井戸の中、ベアトラムは石蓋を押す背中に力を込める。
「クソッ、重いな……動けッ!」「大丈夫?」「平気だ。もう少しでッ!」
石蓋が動き、暗闇に光が差した。「ハァッ、ハァッ……開いた。行くぜ」

ベアトラムは涸れ井戸から顔を突き出し、周囲の安全を確認して這い出た。
続いて、井戸から突き出る銀色の双眸。アンゲラも注意深く地上に出る。
BLAM!BLAM!BLAM!「銃声が近いな」「ええ……急ぎましょう」

CLAP!CLAP!CLAP! アンゲラは電磁障壁で2人を包み、村へと歩く。
「見ろ。死んでる」撃ち倒された歩哨の屍を、ベアトラムが足で小突いた。
長身の男と、少女。2人の黒装束が、あばら家の残骸を背に村へ歩み入る。

集落内。付近を制圧した傭兵たちが、数人の分隊で残党狩りに練り歩く。
CLANK! 唐突に民家の窓が開かれ、傭兵たちは訝しげに足を止めた。
「おい、窓を開くな!」「家の中でじっとしてろ!」「流れ弾が来るぞ!」

民家の窓から突き出る銃口! 若い女性が、震えながら燧石銃を構える!
「この村から出て行け、人殺しーッ!」BLAM! 銃弾は傭兵の頭を直撃!
CLANK!CLANK!CLANK! 堰を切ったように、周囲の民家で窓が開く!

「俺たちがこの村を守るんだーッ!」「おい待て、村人を殺す気は無い!」
BLABLABLABLABLAM! 武装村人が発砲し、傭兵たちは蜂の巣で即死!
「何の騒ぎだ!」「こっちで銃声がしたぞ!」他の兵たちが集まってくる!

――101――

「残党が居やがったか」「一体どこに」「知るか。皆殺しにするだけだ」
路辻を駆ける傭兵たち。その頭上、民家の2階の窓が開き、銃口が煌めく!
BLABLAAAAM!「「「ウガーッ!?」」」少年が水平2連散弾銃を発砲!

WHIZZ! 窓辺から老婆がクロスボウを発射! 傭兵の胸を矢が貫通!
BLAM!BLAM!BLAM! 傭兵たちが撃ち返し、窓辺の老婆を射殺!
CRACK! 少女が小口径銃を発砲! 傭兵が腰椎を貫かれ、泣き叫ぶ!

「どういうことだ、村人に撃たれてる!」「虱潰しで、皆殺しにするぞ!」
BLAM!BLAM!BLAM! ラウンド2、傭兵VS村人の総力戦が始まった!
どちらの勢力も逃げ場なし、殺られる前に殺る、死に物狂いのサバイバル!

「ヤバいな! 村一つ、丸ごと戦場だ!」ベアトラムとアンゲラが駆ける!
BLAM!「ギャーッ!?」THUD! 2階の窓から、女性が胸を撃たれ落下!
「「ギャーッ!?」」BLAM!BLAM!BLAM! 家々で響く悲鳴と銃声!

2人の黒装束の眼前、少女が髪を掴まれて暴れ、家から引きずり出される!
「イヤーッ!」「姉ちゃんを放せーッ!」棒を手に、少年が家を飛び出す!
BLAM! 傭兵の1人が、無言で少年を射殺! 少女を強引に連れて行く!

「マルセルーッ!?」「いいから来い、殺すぞ!」「おい、誰だ手前ら!」
弟の亡骸に手を伸ばし、泣き叫ぶ少女! 傭兵たちが黒装束に気づいた!
CLAP!CLAP!CLAP! アンゲラが紫電を放ち、ベアトラムと共に突撃!

――102――

気が逸れた瞬間、少女が傭兵の腕を振り払うと、腰の銃剣を引き抜いた!
「このガキッ!」傭兵は少女を睨みつけ、少女の睨み返す眼光に恐怖した。
SQUISH!「ガッ、ゴボォッ!?」胸板に刃がねじ込まれ、鮮血が溢れる!

「ガキがッ!」背後の傭兵がリボルバーを抜き、血塗れの少女に構えた!
「止せッ!?」BLAM! ベアトラムが叫び、少女の頭から血が噴き出す!
「貴様ら、毒竜だな!」「目障りだ、死ね!」BLAM!BLAM!BLAM!

ZIP!ZIP!ZIP! 立て続けに放たれた銃弾は、電磁障壁に受け流される!
「な、何だッ!?」「クソ!」銃を撃ち尽くし、傭兵たちが銃剣を抜く!
「「「アッ!?」」」銃剣が磁力で引き寄せられ、アンゲラが奪い取った!

ベアトラムは仰向けに倒れた少女に駆け寄り、流血も厭わず抱き上げる!
少女は左目だけでベアトラムを見上げ、微かな力で袖を引き、事切れた。
アンゲラは目だけで彼を一瞥すると、手にした銃剣を足元に投げ捨てる。

「こ、こ、こんの……ガキがッ!」傭兵の1人が拳を固め、アンゲラに突進!
アンゲラは僅かに身を躱し――SPAAAAARK! 傭兵とすれ違い様に放電!
「アババーッ!?」傭兵が白目を剥き感電失神! 地面に頭から倒れ込む!

「ヒェーッ!?」「一体何なんだ!?」傭兵たちがどよめき、一歩後退る!
「ウワァ―――――ッ!?」ベアトラムが少女の屍を抱え、激しく慟哭!
粉雪の舞い落ちる、灰色の曇天を見上げ……野性味を帯びた貌が涙を流す!


【祈祷師アンゲラ~黒翼のワルキューレ~】
【17話/戦場は遠く 終わり……次回に続く】

From: slaughtercult
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