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カミ様少女を殺陣祀れ!/5話

⚠警告:刺激的なコンテンツ/内容:人体損壊など激しい残虐描写⚠
⚠気分が悪くなった場合は、速やかに閲覧をお止めください⚠
⚠対象年齢:18歳以上/自己責任でお楽しみください⚠

【目次】【1話】 / 前回⇒【4話】

まず初めに暗闇があった。磐座の洞(うろ)には虚無の暗黒が満ちていた。
古のカミは『そこ』に居た。幾星霜の歳月を岩窟の牢獄に囚われ過ごした。
それは光と陰、夢と現、生と死さえも曖昧な、遥かなる微睡の時であった。
カミの意識に刻まれるのは、磐座の裂け目より滴る水の音、ただそれだけ。
無限の時の牢獄の狭間。カミは曖昧な覚醒の中、闇の帳に幽かな光を見た。
それは予感だった。何かはわからぬが、何かが起こる気がした。
それは、微睡の終焉を告げる使者の到来であった。

――――――――――

崖上の本宮、拝殿の側面。岩窟の入口までおよそ十数メートル。
礫まじりの地べたに五体投地する僕の耳へ、慌ただしい物音が聞こえる。
僕は拳銃を撃って、人を殺した。仲間たちは混乱しているようだ。
足音が近づいてくる。ここは動かずに、死んだふりでもしておくべきか。
いや、僕は無傷ピンピンの五体満足だから、生きてることは丸わかりだ!
ならどうする? 逃げるなら今しかない! 即断即決、飛び起きる!

僕が飛び起きるのと、懐中電灯の光束が僕を照らし出すのは同時だった。
うっわ、ツイてねぇ! やっぱ、死んだふりしとくべきだった!
「止まれエエエッ!」
怒声! 銃声銃声銃声! 暗闇を切り裂く火球と閃光! 地面が弾ける!
僕は右肩に鋭い熱さを感じ、銃を放り出しながら仰向けに倒れた。
腕の付け根の熱さが、鋭い痛みに変わる。どろどろと何か流れ落ちる感覚。
ああ、弾に当たったんだな。因果応報。少し報いが早すぎる気もするけど。

すっかり戦意喪失し、仰向けで動かない僕に、複数の足音が近づく。
「こりゃもう助からんな。不用心に近づくからだ、アホめ」
集団の一人が呟くと、間もなく僕の顔が、懐中電灯の光で照らされた。
金属音と共に、剥き出しの銃身が数本、僕を見下ろした。
ライフルは反則だろ。お前ら、何で当たり前のように持ってるんだよ。
光束の外輪に広がる濃い闇の中で、顔の見えない男たちが僕を見下ろした。

「子供? まだ生きてる。なぜ拳銃を?」
「関係ない、殺す。脳天ブッ飛ばして、崖下に投げ落としてやる」
「ここで殺すな。先遣隊の様子が気になる。こいつも洞窟に連れて行こう」
「正気か? ガキはお荷物だ。人道主義者にでも宗旨替えしたのか?」
男の一人が鼻で笑うと、僕の首根っこを掴んで引きずり起こした。
「オラ、立て! なに、肉の盾くらいならガキでも務まるさ。そうだろ」
顔の見えない男が嘲い、サーチライトを拾って僕に押し付けた。
「ハハッ、そりゃいい。あんた考えることがえげつないねぇ」
「チッ。命拾いしたなクソガキ。だが逃げたら即殺す。早く行け!」
苛立たしい怒声と共に、左肩を固い物で殴られ、強烈な痛みが走る。

―――――――――

拝殿の裏に開いた岩窟。僕は行く手に広がる暗闇に、思わず立ち竦んだ。
「止まると殺す。走っても殺す。俺たちの前を、ゆっくりと歩け」
肉の盾を提案したクソ野郎が、僕の背中に銃口を押し付けて吐き捨てる。
「あ、あんたたち、一体何なんだ?」
銃声! 左肩の付け根が爆発したように熱を帯び、僕は激痛に膝を突いた。
「うがあああ――ッ!」
「調子に乗るなクソガキがッ! 今すぐにでも殺してやりてぇぜッ!」
「おい馬鹿、弾の無駄遣いはヤメロって!」
肉盾提案男が溜め息を吐くと、僕の背後から襟首を掴んで引きずり起こす。
「仲間は気が短い。さっさと歩いたほうが身のためだぞ」

肩から下げたサーチライトが、ぶらぶらと無意味に灯りを揺らし続ける。
両肩の風穴からは血が流れ、使い物にならない両腕が重く垂れ下がる。
僕は先の見えない禁足地の奥、先の見えない暗闇の洞窟を進み続けた。
例のヤツらは、僕より数歩の背後で銃を構え、洞窟の中へと僕を追いやる。
ちくしょう。こんなはずじゃなかった。一体どうしてこんなことになった?
僕は土埃の漂う洞窟を進み――その先で散乱する夥しい瓦礫に目を剥いた。
まるで鉱山の発破現場だ。瓦礫の向こうは暗闇。奥にまだ空間があるのだ。
僕は石くれに足を取られて躓きながら、生唾を呑んで歩みを進める。

――――――――――

口金の絞りめいて、洞窟の岩壁が徐々に先細り、上下左右から迫り来る。
洞窟の幅はテーパー状に狭まり、やがて人ひとり通るのもギリギリに。
身体を斜めに傾げ、痛む肩を岩壁に擦りつけ、やっとの思いで潜った先に。

――唐突に空間が開いた。
隙間を潜り抜けた僕は、肩透かしを食ってよろめき、顔から倒れ込んだ。
「いってぇ! クソッ!」
「早く立て。さっさと歩け。後ろが詰まってんだよ」
肉盾提案男が溜め息をこぼし、僕の襟首を掴んで無理やり引きずり起こす。
僕は顔中を岩肌で擦り剝き、視界も覚束ないままふらふらと歩き出した。

「うおーッ、すげぇ。随分でっけえ空間。マジに神様とか居そうな雰囲気」
軽口男が懐中電灯の光を揺らし、物見遊山でもするような気楽さで言う。
「だといいんだが。今までの殆どがホラ話か、あっても残り滓程度だった」
「カミは実在する……確かな伝承がある……天照の郎党は必ず絶滅させる」
短気男がカルト信者めいて、低い声でブツブツと呟いた。
彼らより先を歩く僕は、温い風に不快な匂いを嗅ぎ、異様な音を聞いた。

「ふしゅううう。く、か、か……みつけた。たきのち。におい。わかるぞ」

風が唸るような音を立てて、低く虚ろな冒涜的な声が、洞窟中に響き渡る。
べしゃりぐしゃり。濡れ雑巾めいた音と共に、何かが次々と滴り落ちた。
僕は足を止めた。背後の彼らもまた、懐中電灯で周囲を照らして沈黙した。
人間の残骸。周囲に散らばる、上半身や下半身。手足や頭、様々な臓器。
灰色の岩肌を赤黒く彩る血の海。その中心に『それ』が在った。

苔、菌糸、腐葉土、堆肥……あるいは獣の腐った毛皮。その集合体。
言語化を拒絶する『それ』の容姿を、強いて表現するならそんなところだ。
がらんどうの石室の暗闇に広がる巨体は、建物の2階を優に超える高さ。
何だよこれ。デカすぎだろ。そもそも、どうやってこの中に入ったんだよ。
沈黙。息を呑む音と溜め息をつく音。ややあって、狂おしい啜り笑い。
「えッ、な、何? どうしたの? 大丈夫? SAN値チェックする?」
軽口男が捲し立てると、ガチャリと金属音が響いた。
銃声。

――――――――――

ホーワ・M300カービン銃が火球を噴き、30カービンのFMJ弾を射出した。
弾頭は臨の後頭部から額に抜け、頭蓋の上半分がスイカめいて吹き飛ぶ。
「う……う……うおおおおおッ! カミぃいいい! 我らが救世主ううう!」
短気男は銃を抱え、臨の背中を蹴り飛ばし、古のカミの御前に躍り出た。
「えッ、はッ!?」
「おい馬鹿ッ、前に出るなッ!」
人の形をしているような、いないような、砂山めいた巨体が歪み、蠢く。「カミこそ我らの希望おおお! カミこそ我らの力あああ!」
『それ』の体表が音も無く盛り上がり、海産物めいた触腕を飛び出させた。

射出された触腕が弧を描き、先細り、勢いのついた鎖分銅めいて飛翔。
「カミよ、我らを救いたま」
狂乱して駆け寄る男の顔面に触腕が直撃し、頭がトマトめいて爆裂する。
触腕は螺旋を描き、首なし死体を器用に絡め取ると、天井へ投げ飛ばした。
食肉工場めいた解体音と共に、血と骨と細切れ肉のシャワーが降り注ぐ。
「うッ、うわあああああッ!?」
「ばッ、化け物おおおおッ!?」
残された2人の覆面男は、手に手にカービン銃を構えてカミに乱射した。

火球。閃光。立て続けの銃声。乱れ飛ぶ110グレイン・FMJ弾頭。
『それ』の体表に突き刺さった無数の弾は、砂めいて呑み込まれて無反応。
同時に金属音。空撃ち。弾切れ。投網めいて押し寄せる、無数の触腕。
登山服姿の2人は身体中をケバブめいて刺し貫かれ、吊り上げられる。
それは余りに強力で野蛮で残忍で、制御不能(アウトオブコントロール)。
これは人の手に負えるものではない。この世に解き放ってはいけなかった。
時ここに至り、空中を振り回される男たちの胸中に、後悔の念が浮かぶ。
焼き串めいた触腕がしなると、2人の男を空中で放し、かち合わせた。
2人分の骨肉が混ざり合い、ジューシーにすり下ろされて血の滝が流れる。

――――――――――

目が覚めて感じたのは、辺りに立ち込める血肉の、吐き気を催す香り。
「ああああああ゛ッ!?」
全身に怖気が這い上がり、僕は絶叫しながらあらん限りの力で飛び起きた。
あれ? ちょっと待て、どうして腕が使えるんだ。
訳も解らず、血塗れの両手で顔を撫で回した。頭もちゃんとついている。
僕は眼前のサーチライトを拾い上げ、血を拭って正面を照らし。
周囲は相変わらず血の海で、人間の一部がそこら中に散らばっていて。
「く、か、か。たき。よのたみ。よくぞきた」
目の前には相変わらず、古のカミ――言語を絶する超越存在が『在った』。

「うわあああああ゛ッ!?」
「あ、ちょ、おい」
僕は困惑する声を気にも留めず、180度ターンして出口に全力疾走!
何だあの怪物! あれが隠多喜神社の『祭神』だって!? 冗談じゃない!
僕は岩壁の亀裂に身をねじ込み、隘路を遮二無二押し通り、来た道を逆走。
隘路を脱すると、膝に手を突いて立ち止まり、息を切らした。
おもむろに背後を振り返り、ライトで照らして顔面蒼白。
腐色の『カミ』が、軟体動物めいて隘路一杯に広がり、迫ってくる!
「何だよお前、G第5形態か! そんな存在はゲームの中だけにしておけ!」
誰か、ロケットランチャーをくれ! 僕は半泣きで再び走り出した。

走る、走る、走る! 暗闇の向こうに月と星明かり! 見えたぞ、外だ!
三十六計逃げるに如かず! 僕は岩窟を飛び出し、外の世界を求めて走る!
何かに躓き、身体が派手に浮き上がって転倒! 地べたを転げ回る!
もう追いつかれたのか、早すぎだろ!? 僕は咄嗟にライトで照らした!
ああー、僕が撃ち殺した誰かさんの死体だったかー! 因果応報だなぁー!
腐色の巨体が洞窟からぬるりと這い出て、凄まじい速度で接近する!
『それ』は血生臭い香りを辺りに振りまきながら、僕の眼前で停止した。

「あああああ゛気持ち悪ううううう゛ッ! ギエーッ悪霊退散!」
僕は右手で暗闇を手探ると、その辺の物を適当に掴んで『それ』に投げた。
サーチライトの灯りに照らされ、くるくると回転する扁平なそれは――
「しまったあああああ゛ッ! 僕のエロ本があああああ゛ッ!」
一之宮きざしの貴重な同人エロ漫画があああああ゛ッ!
「ぬ」
『それ』の巨体が触腕を伸ばすと、僕が投げたエロ本をぬるりと絡め取る。
沈黙。色々と脳裏に押し寄せる絶望。ああ、僕の幼気な青春の1ページ。

風が鳴り、鳥と虫が鳴く。崖下の沢が流れる涼やかな音。静謐なる夜の山。
「ふむ。ふむ。ああ。そうだな。ふむ。まあ。うむ」
『それ』は冒涜的な声で唸ると、僕の眼前でぐにょりと全身を蠢かせた。
凄まじい力に吸い込まれるように、巨体が急速に嵩を窄ませていく。
粘土をこねくり回すように、『それ』は自分の身体の姿形を調整していく。
僕は何を見ているんだ。理解不能。目の前で一体何が起こってるんだ?

「ぼおおお゛、おおおお゛、おおおお、お……ふむ、こんなものか」
人間サイズに収縮した『それ』は、最後に声を調整すると満足げに頷いた。
八頭身の立てロール黒髪ロング……巨乳で吊り目、しかも全裸の……少女。
その佇まいは紛れもなく。僕の愛しの、夢にまで見た『一之宮きざし』。
「どうじゃ、この姿は。余が本気を出せば、この程度は造作もないのじゃ」
少女の姿をした『カミ』が誇らしげに宣言し、片手のエロ本を投げる。
「出会い頭に逃げ出されれば、余も傷つくからのう。全く世話が焼ける」
僕は咄嗟に両手を突き出し、宙を舞う同人エロ漫画を受け止めた。
「さて、タキの血を引く者よ。この通り、主は戻ったぞ。宴を用意せい」
ああー、そう来たかー。
僕は『それ』のビフォーアフターを脳内で反芻し、笑いを引き攣らせた。
ともかく、それが3日前、『カミ』と僕との出会いで起こった全てだ。


【カミ様少女を殺陣祀れ!/5話 おわり】
【次回に続く】

From: slaughtercult
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