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顧客中心の As-a-Service ビジネスモデル

原文 : Putting Customers at the Center of Your As-a-Service Business Model
作者:Tamarah Usher, Charles Shreiner
日本語訳:Ken Yoneda (米田 謙)

顧客のニーズとそれをどのようにサポートするかは、あらゆるビジネスモデルで異なります。しかし、As-a-Service (AAS) モデルでは、リアルタイムにフィードバックとデータが生成されるため、これまでにないプラットフォームの精度とダイナミックな顧客サポートが可能になります。

顧客のニーズを積極的に調査し、明確にすることで、リソースの効率的な活用、能力の活用、新たな収益源を見つけることができます。As-a-Service モデルで顧客サービスを提供する最適なアプローチは、多くの実績ある顧客戦略手法と変わりませんが、いくつかこのプラットフォームのビジネスモデル特有の考慮点があります。

顧客を真に知り抜く

顧客のことを熟知する。その方法は、デモグラフィックやサイコグラフィックなど色々と考えられますが、それらを超えて、ペインとゲイン、そして価値認識の深さまで踏み込むことで、プロダクトと市場の真の適合性を見出すことができます。プラットフォームが B2B であっても B2C であっても、ユーザーの「片付けたいジョブ」に伴うペインと機会を理解することは不可欠です。

ジョブ理論

顧客行動を考えるためのジョブ理論 (Jobs to be done, JTBD) フレームワークは、クレイトン・クリステンセンの著書 "The Innovator's Solution" で広く知られるようになりました (訳注1)。JTBD では、「人々は単にプロダクトを買うのではなく、特定の仕事をするためにプロダクトを雇う」という発想から出発します。人々が何をするためにプロダクトを雇うのか、そのことをより良く理解するためには、プロダクトの使用を取り巻く状況、他にどのような選択肢があるのか、ユーザーがどのようなトレードオフを望んでいるかを理解する必要があります。

ペインとゲイン

ユーザーの JTBD (片づけたいジョブ) を理解するためには、想定されるペインとゲインをモデル化し、プロトタイプや既存のプラットフォームでユーザーと迅速に検証します。この時、2種類のペインとゲイン、つまり機能的なペイン/ゲインと感情的なペイン/ゲインについて考える必要があります。機能的なペイン/ゲインは、サービスモデルの実用的なフィーチャーやベネフィットに関係し、感情的なペイン/ゲインは、顧客がプロダクトやサービスを利用した時にどのように感じるかに関係します。AASのビジネスモデルでは、機能的なゲインと感情的なゲインの両方から価値を提供することが不可欠です。

顧客セグメント

一部の顧客 (特にフリーミアムモデルの利用を検討している顧客) は、手間のかからない自動化された体験を望みます。そのような顧客は、セルフサービスを重視し、AI主導のチャットボット、標準的なレポート、オプションの限られたサービスで満足する傾向にあります。一方、多くのユーザーを抱える大企業の顧客は、すべての機能を簡単に使えるようになるまで手取り足取り教えてくれるような、ハイタッチでライブなモデルを求めます。また、自社のビジネスプロセスと連動させるためのカスタマイズを必要としたり、要求したりすることもあります。

どのような顧客を重視するかは企業の戦略に従うべきであり、それに基づいてどの顧客セグメントを優先するか決断します。顧客セグメントは、AASモデルへの移行によって変化する可能性が高いため、顧客の構成に注目し、頻繁にモデルを精査して顧客行動の変化を把握する必要があります。このような意思決定の裏には、サービス提供コスト (cost-to-serve) と購入傾向 (prosperity-to-buy) についての入念な分析が必要です。これらの戦術は、プロダクト戦略やロードマップへのインプットとなるだけでなく、特定のニーズに対応することで、より新しく利益率の高い顧客セグメントを開拓することもできます。

ビジネスモデルを拡大、成長、適応させるための重要な質問
顧客中心による As-a-Service モデルの成長

他の利用パターンの発見

人は、時に現在抱えている問題を既存のソフトウェアによって革新的かつ独創的な方法で解決する手段を見出します。これは、SaaS (Software-as-a-Service) ビジネスモデルにおいて特に当てはまります。SaaSモデルは、ユーザーが自分でインストールやメンテナンスをすることなく、オンデマンドでソフトウェアにアクセスして使用できるため、開発者が当初想定していなかった方法で使用されることがよくあります。

例えば、プロジェクト管理SaaS をマーケティングチームがキャンペーンの進捗状況を把握するために利用したり、会計SaaS を人事チームが従業員の休暇日数を把握するために利用したりすることが考えられます。このような利用方法の可能性は無限にあり、一部はソフトウェアの本来の目的から外れているかもしれませんが、利用する企業にとっては非常に価値の高いものになり得ます。自社のプラットフォームから得られるユーザーの行動データを活用することで、そのようなパターンを拾い上げ、見つかったユースケース向けにフィーチャー、オファリング、価格モデルをカスタマイズすることができます。

供給不足の市場を見つける

AAS におけるディスラプター(破壊的企業) は、常に JTBD の視点から有望なセグメントを探し、調査、顧客定義の指標、測定可能なイノベーションを通じて成長機会のポートフォリオを作成しています。顧客データから導かれたパフォーマンス指標や顧客が望む成果を用いて、機会を厳格かつ継続的に評価しなければいけません。その際に、私たちがよく用いるプロセスに、アウトカムドリブンイノベーション (Outcome-Driven Innovation, ODI) フレームワークがあります。

ODIフレームワークは、顧客戦略を市場レベルに集約します。以下の5つのステップを経て洞察を導きます。

  1. JTBDに基づいて市場を定義する

  2. 各セグメントについて測定可能な成果を明らかにする

  3. 供給過剰か、供給不足かに関わらず、満たされていないニーズを見つける

  4. 市場をセグメントに分ける

  5. 各セグメント向けのプロダクトを構想する

イノベーションのアイデア創出におけるこのような市場主導の視点は、一般的なプロダクトのコンセプト開発のアプローチとは異なります。

ODI 市場セグメント

ビジネスモデルのイノベーションは顧客からはじまる

顧客が誰であり、どこへ行こうとしているかを特定することは、AASビジネスモデルで成功するための基本的なステップの一つとなります。今回取り上げた戦術や分析 (JTBD、ペイン、ゲイン、顧客セグメンテーション、AAS の通常とは異なる利用など) は、提供するサービスを魅力的で拡張性のあるものにするだけでなく、ビジネスモデルに生まれる重力によって、顧客の長期利用とプロダクトの生涯価値の向上を促進します。これらの顧客志向のアプローチを、プラットフォームからのデータや洞察とともに採用することで、提供するサービスの付加価値を高め、その有用性を長期にわたって拡大し続けることができるようになります。

訳注1: このブログ記事の原文では、”Jobs to be Done” を広めたのは、クレイトン・クリステンセンの1997年の著書 "The Innovator's Dilemma (邦訳『イノベーションのジレンマ: 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』)" とありますが、 "Jobs to be Done" の言葉をクリステンセンが用いたのは、2003年の著書 "The Innovator's Solution" (邦訳『イノベーションへの解 利益ある成長に向けて』) とされています。

History of Jobs-to-Be-Done
The Origins of Jobs-To-Be-Done

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