見出し画像

【読書ノート】日本において民主主義は可能かー丸山眞男セレクション

丸山眞男セレクションを読んだ。

日本の戦後を代表する政治思想家、丸山眞男の文章をまとめたもの。文庫ではあるがそれぞれの文章でテーマも異なり内容も難しい。

全体として、日本社会・組織の本質とそのあるべき姿を徹底して考えた人、という印象を受けた。特に一貫したテーマとしては以下の三つがあると読んだ。現代日本の組織・社会・政治状況においても残念ながら通底する課題だ。とはいえ、こうしたテーマが現代においても課題であるということは、丸山という思想家の分析や提言がアクチュアリティを持つ、ということでもある。

  • 規定事実と組織や社会の空気に流される日本人・日本社会への批判

  • 制度と原理原則に則った政治の重視

  • 国民が政治的責任感を持つことの必要性

まとめていうなら、「日本社会において健全な民主主義は根付くのか、根付くように変えていくにはどうしたらいいのか」、という問題意識が通底していると言っていいだろう。

どの文章も面白く示唆的だと思ったので、次は日本政治思想史研究あたりを読みたい。以下は本セレクションの各文章の雑多なメモ。

国民主義の「前期的」形成

明治維新に至るまでの幕末の社会政治的状態、思想を概括し、尊王攘夷論の誕生とその性質を探る。結論としては、幕末の尊皇攘夷においては幕府政権下の封建制度が解体され、天皇を最上位に置く中央政府に権力を集中させるための土台が作られた。とはいえその中心となったのは権力を有する一部の武士であって、国民をも巻き込んだ政治を形成しようとする動きは少なかった。これを丸山は「国民主義の『前期的』形成」と読んでい

  • 江戸時代、武士と農工商は明確に区分された階級であった

  • 江戸幕府治世下の日本では、商人は道徳的最下層に位置付けられ、武士以外の町人たちは政治に全く関与させられず、それぞれの属する藩などの極めて狭いコミュニティの中で世界と隔絶された生活を余儀なくされた。

  • 尊王攘夷は諸侯によってなされたのではなく、書生によってなされた

超国家主義の論理と心理

  • 日本は超国家主義社会だったのか

  • 超国家主義とは?

    • 言論・思想統制、共通敵の設定と排外主義的政策によって特徴付けられる国家

  • 日本では明治に至っても内面・思想の自由は認められていなかった。そこには常に忠孝が求められ、教育勅語に示されるように、国家が国民の内面生活に侵食していた。

    • 現代においては、「社会による内面の統制」はまだまだ猛威を震っているかもしれない

  • 国家と国民の融合が日本国の特徴である

  • 日本の政治家は、倫理や道理ではなく行為の巧妙さによって他国を判断する

  • 抑圧移譲の原則

    • 抑圧されたものがその部下を抑圧するという、現代の日本の企業でも問題になる構造

福沢諭吉の哲学

福沢はかなり徹底した進歩派だったようだ。そして、物事の本質を見ようとする人だった。

  • 社会のあらゆる側面を相対化し、その意義を本質から考えることは賞賛すべき特質ではあるが、多忙な一般市民にどこまでそれを求められるのかはわからない。とはいえ、いわゆる批判的思考を教えることでそうした態度をより広めていくことができるだろうし、それが民主主義を育むことにつながるだろう。

  • 福沢という人は日本人のマクロな行動特性をよく理解していたように読める。

軍国支配者の精神形態

  • ナチスと日本帝国の対照

    • 一方は真の異常者、無法者たちの集まりであったのに対して、他方は小心翼翼たる官吏の集まりであった

  • 「独裁的責任意識が後退するのに、民主主義的責任意識は興らない」

  • 何が日本の政治を堕落させたか

    • 天皇という飾りだけの絶対権力の存在

    • 民主主義的市民意識の不浸透

    • 弱い議会

肉体政治と肉体文学

  • フィクションを介在させず、そこにある現実を描こうとする態度を持った作品、これが肉体文学。

  • 丸山は、フィクションを介在させないという意味で、日本の政治にも同様な傾向があるという。日本の政治には、制度とプロセス(フィクション)の軽視と確立された制度へのリスペクトの欠如が蔓延している。重要な意思決定が、プロセスに則って透明化された過程によって行われず、舞台裏の個人間の話し合いで決定される。こうしたウェットな関係性を重視する態度を、丸山は「肉体」政治と呼んでいる。

  • そして、こうした制度の軽視と破壊という点で、ナチも同様の傾向を持っていた。

  • トランプ現象に代表される現代のポピュリズムにも同じ傾向があるのはもちろんだ。制度そのものに対する不信、ニヒリズム。

三たび平和について

米ソ冷戦時代において、理想としても、実際的にも取りえる道は平和しかないと訴える。ここで提案された未来のビジョンは最終的に実現した雪解けの結果に近く、「理想論」という批判がいかに近視眼的なものになりえるかを示している。

「現実」主義の陥穽

  • 「日本にとって民主主義とは、"It can't be helped, democracy"だ」

  • 日本人はとかく忘れやすく、その時点の世論と世情に流されやすい。このことはようく頭に刻み込んでおくべだろう

戦争責任論の盲点

  • ヤスパース「国民が自ら責任を負うことを意識するところに政治的自由の目覚めを告げる最初の兆候がある」

政治的判断

  • 「政治的な事象のリアルな認識についての訓練の不足がありますと、ある目的をもって行動しても、必ずしも結果はその通りにならない。つまり、意図とははなはだしく違った結果が出てくるということになりがちなのであります。」

現代における人間と政治

  • 狂気は知らないうちに社会を席巻して、気づいたときにはもう遅いかもしれない。権力が特定のグループをターゲットに抑圧を始めたら、警戒しすぎるということはない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?