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空中電車①

日が暮れる前に帰らなきゃ……。



都会のど真ん中で焦りながら早足で進む。
慣れないスクランブル交差点では行き交う人の肩がぶつかりよろめく。


そしてふと気づく。

『あれっ…、ここって本当にイケブクロ?』

何度か来たことがあるはずの[イケブクロ]。当然今居る場所もそのつもりだった。ところが見渡すと全く知らない景色だったのだ。
商業施設も街中に流れる賑やかな音楽も、初めてでは無いはずなのに。
歩き回っているうちにどっか知らない街に来てしまったのだろうか。

足を止め茫然とした。



今朝方、ふとした思い付きで家を飛び出し、行き当たりばったりで電車に乗り込んだ。

家出だった。

母親と口論になりムカついて、色んなことが嫌になりその場の勢いで思いついたのだ。
スマートフォンも置いてきていた。
ちょっとした反抗で、一度はやってみたかったっていうのもあって、それにすぐ帰るつもりだったから。

まさかこの歳で迷子になるなんて。

『ほんと、なんでスマホ置いてきたんだろう…』

今更だがものすごく馬鹿げたことをしたと酷く後悔した。


恥を忍んで交番でも何でも手段はあったはずだが、この時の私はパニックになっていて、とりあえず早く[イケブクロ]に行かなければという考えしかなくなっていた。
知っている駅にさえ行けば何とかなるだろうと。


道なんて分からないがひたすら人混みの中を進んだ。
途中イベントでもあったのか、アニメキャラのTシャツを着た集団がどっと押し寄せ、もみくちゃにされる始末。やっと過ぎ去ったと思うのも束の間、次はやたら露出の激しいメイド服や、水着に近い面積の少ない服を着た女性の集団に出くわす。
街中を堂々と歩く彼女達はさも当たり前かのようで、むしろ楽しげであった。
そして彼女達目当てだろう男性達が群がり始めたのを横目に、急いでその場を離れた。
悪寒が走った。

こんなことが街中で起こるなんて異様ともいえる状況。
夜の繁華街ならおかしくはないのかもしれないが、今はまだ夕方くらい。
それにやっぱりいつもと何かが違う。

だんだんと受け入れがたい現実を感じ始め、恐怖さえ覚えるようだった。


『ここって、一体どこなの?』

じわりじわりと変わりつつある空の色を見ながら呟いた。


人混みが少なくなった路地で見つけたのは坂道。
迷ってる暇などないと、急いで登った。

坂の途中では横脇に体育館があり、そして校舎らしき建物もあった。
なぜかほっとしていた。
自分と歳が近い子がいる、そんな安易な理由から。

今日は休日でもあって、生徒は少ないはず。
それでも制服姿の子をちらほら見かけた。
坂を登っていると、頂上に見えてきたのは駅舎。

生徒達はそれぞれ駅に入って行き、追いかけるように私も向かった。




つづく。



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