『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第5回
≪地図鳥は飛んでゆく≫
この世界は歪だ。電気のインフラが整備されているのに、なぜか電話が無い。なので人々の通信手段は『地図鳥』に委ねられている。
カラスほどの大きさで全身真っ赤なこの鳥は、顔つきがキツネに何となく似ていることから『ファイヤーフォックスバード』という名が付いた。皆は略して『ファックス鳥』と呼んでいる。その特徴は別名通り「地図が読めること」。
問題は食べるエサが高価であり、維持費がそれなりにかかること。なので所有しているのは企業か大富豪に限られた。
ウチのお店にも1匹いる。レジカウンター内に設けられた止まり木にいるのは「ピーちゃん」という名のメス。こいつがそこら辺に生えてる雑草食べてくれたら経費も減るんだがなぁと店長はいつもボヤいている。ここら辺で言うとアルジェント地方だけに生息する「サスペリア」という花の種しか食べないので、下手すると僕より高給取りだ。
「ガーガーガーギーギー」ピーちゃんが鳴いた。この鳥のもう一つの特徴は、仲間が来ると必ず鳴くことだ。
「お、金持ちから注文でも入ったかな?」店長が上機嫌で自動ドアの方に向かった。程なく飛んできたファックス鳥を太い左腕に乗せ、足に巻き付けられている紙を解いた。
「どうでした?」
「…またトレジャーアイランド社の新刊案内だよ。しかも今日だけで3枚目だし」店長は口をへの字に曲げながら紙を破いた。「返信は無しだ」背中を2回叩かれたファックス鳥は、店長の腕に緑色の糞を残して飛び立った。
緑と言えば、昔「グリーン・ラクーン・ドッグ」という「言葉を覚える狸」が通信手段に成りかけたが、5文字しか覚えられないので普及はしなかったそうだ。
こうして今日も、ありふれた1日が始まった。
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