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意識「他界」系

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犯人は伝説上の怪物? 謎の通り魔殺人事件の真相は、とある禁書が関わり出したことによって予期せぬ大惨事に…伝奇ホラー。
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2016年2月の記事一覧

意識「他界」系 その72

意識「他界」系 その72

時として人間は、自分でも理解できない行動をとることがある。

今の秋山稔がまさにそうだった。上は白のランニング、下半身は剥き出しという格好で靴も履かずに部屋から逃げ出した彼は、急に羞恥心を覚えた。

「俺、戻るわ」立ち止まった彼に、誰も注意を寄せなかった。走り去る他の汁男優たちの汚い尻を見て、秋山は底知れない虚無感を覚えた。

もう、どうでもいい。大したこと無かった俺の人生。生き延びたとしても先は

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意識「他界」系 その71

意識「他界」系 その71

人間に動物の考えていることが分かるのか? 答えは「否」だ。だとしたら、他の世界から現れた「未知の生物の思考」が分かるはずがなかった。

「なあ、こいつら何がしたいんだ?」アンダーソンはモニターに映るグレーの怪物を見ながら首を捻った。地球上の動物は、大抵食欲が満たされれば必要以上に相手を殺さない。それがこいつはどうだ。まるでイカレた人間みたいに大量に人を殺しまくっている。

「何だか、死体を増やすの

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意識「他界」系 その70

意識「他界」系 その70

ドバイに建設された最高級ホテル『ブルジュ・アル・シエテ』の完成披露パーティ。そこに招待されたのは世界の富の半分を握るとまで言われている、言わば大富豪中の大富豪たち36人。ゲル・ビーツ、フェック・ローラー、エルロス・カルー、コールズ・チャーク、ゾフ・ジェベスなどなど。

17時を回り、パーティは地下にある秘密のカジノへと場所を移された。これから行われるのは、ある意味「宴」であり、「儀式」であった。殆

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意識「他界」系 その69

意識「他界」系 その69

10年前、中西部のとある州。民家の地下室で発見された1本のビデオ。それこそが『UBWプロジェクト』が立ち上げられるきっかけだった。

監禁していた8歳の少女を殺そうとしていた男が、突如現れた灰色の怪物に襲われる映像。余りにも超自然的過ぎて公にはされなかったが、軍の情報部は興味を持った。

生命の危機を覚えた時、未知の生物を呼び出せる能力。「こいつを兵器に転用できないだろうか?」彼らはそう考えた。

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意識「他界」系 その68

意識「他界」系 その68

ようやく手に入れた履歴書は、FAXでコピーした感熱紙だった。写真の画像も潰れ気味。それでもその、小西隼人という少年の顔はギリギリ判別できた。同僚だったホスト連中から手に入れられたのは、この紙切れ一枚と「前は渋谷のゲーセンでバイトしていた」ということだけ。大枚叩いた割に、得られた情報は少な過ぎた。

「3日待ってやる。その小西ってガキを連れて来い。さもなきゃ、お前が浜崎の分の上納金も払うことになるか

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意識「他界」系 その67

意識「他界」系 その67

「おい、早く帰んないとやべーぞ」自分たちの通っている名門私立高校の名前を出せば、例え23時をまわっていたとしても補導されないことは分かっていたが、それでも無用なトラブルは内申書にも響く。文武両道は言うほど楽じゃない。22時半の渋谷には場違いな、塾の特別講習帰りの野球部の集団はただでさえ目立つ。彼らはこそこそと駅に向かって歩いていたが、先頭の桑田が異様な光景を目にして足を止めた。

「何か、渋谷ヤバ

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意識「他界」系 その66

意識「他界」系 その66

カーナビは渋谷への幹線道路がどれも渋滞気味だと表示していた。乱堂美姫は迷わずビッツを脇道に入れた。道、大丈夫ですかと言う橋爪に、美姫は左手で「FUCK YOU」のポーズ。「舐めないでよ、こう見えて明日からでもタクシードライバー出来るほど東京の道には詳しいのよ。あ、タバコ1本ちょうだい」橋爪から渡されたタバコのフィルターを煽情的な指使いでこねくり回してから「火もでしょ、普通」と口に咥えて舌打ちをする

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意識「他界」系 その65

意識「他界」系 その65

モニターを見つめる3人の男たちの思考は停止していた。あまりにも想定外のことが立て続けに起こり過ぎて、何をすればいいのか分からなかった。

そもそもスターターが呼び出せる「グレーマン」は1体が限度なのではなかったのか。それがどうだ。既に画面で確認できるだけでも8体は現れている。それとラボでの実験では、どんなに優秀なスターターが意識を集中しても、5分が限界だったはずだ。現実はどうだ。すでに現れて20分

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意識「他界」系 その64

意識「他界」系 その64

学生時代、当時付き合っていた彼女に無理矢理連れていかれたミュージカル。タイトルも内容も覚えてはいないが、毒島には妙に心に残ったシーンがあった。舞台には大勢の人が倒れていて、主人公が何か言うたびに、一人ずつ立ち上がっていくのだ。

あれは確か、戦死した人間が幽霊として蘇り、主人公を励ましていくベタな芝居。感動のクライマックスのはずなんだろうが、毒島には死者を冒涜しているようにしか思えなかった。

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意識「他界」系 その63

意識「他界」系 その63

「渋谷、オワタ…」

その誰かのつぶやきがきっかけだったのだろうか。Facebook、Twitter、LINEなどのSNSが「メンテナンスのため、ご利用になれません」と仕事を放棄した。

目が開いて最初に感じたのは、強烈な寒気だった。脳震盪? 移川民子は一度ギュッと目を閉じてから頭を振った。鼻から大量の血が噴き出た。どうやら鉄扉にぶつかって折れたようだった。恐る恐る左手で触れようと腕を持ち上げた。

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意識「他界」系 その62

意識「他界」系 その62

あの日と同じ耳鳴り。

襖の隙間から見た、首を絞められる母親の姿。ぐったりしたその体を揺さぶったり頬を叩いたりする白いジャージ姿の男。やがて諦めたのか、男は手を放した。ドサッと顔から絨毯に落ちる母。男はソワソワとしばらく歩き回っていたが、ふいに足を止めた。ゆっくりとこちらの方に視線を動かした。

目が合った気がした。押し入れの中にいた小学校3年生の樽町王人は、息を殺し、そうっと布団に潜り込んだ。心

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意識「他界」系 その61

意識「他界」系 その61

麻布の嵯峨根屋といえば、知る人ぞ知る高級料亭である。その奥座敷ともなると使う人間は限られている。政府高官か一流企業の役員クラスでもないと到底入ることは許されない空間。

白髪をオールバックにした、眼光鋭い初老の男---風間一郎は、向かいに座る2人の若者の話に時折頷いたり愛想笑いを浮かべたりはしていたが、全く内容は頭に入って来なかった。スマホのアプリゲーム会社の社長とのことだが、金儲けの話ばかりで退

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意識「他界」系 その60

意識「他界」系 その60

数日前から「Yeah Yeahメール」の宣伝トラックが渋谷の街を巡回運転していた。白いボディに書かれているのは「会いたい時に、すぐ会える!」だとか「スマホから始まる恋!」だとかいう文字と、草原で犬と戯れる女性の写真。

通常、この手の宣伝トラックはコンテナに何も入っていない。車重をわざわざ重くして、ガソリン代を多く支払いたい経営者がいれば別だが。

この「Yeah Yeahメール」のトラックは、そ

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