マガジンのカバー画像

意識「他界」系

100
犯人は伝説上の怪物? 謎の通り魔殺人事件の真相は、とある禁書が関わり出したことによって予期せぬ大惨事に…伝奇ホラー。
運営しているクリエイター

2016年1月の記事一覧

意識「他界」系 その59

意識「他界」系 その59

「ワタシ、声、大きかったですか?」ブラジャーをしながら恥ずかしそうに尋ねる倍賞いちかを梶山は愛しく思った。

「そんなこと、なかったよ」と答えながらも(ホントは職安通りまで聞こえるんじゃないかと思ったぜ)と心の中で呟いた。

この至福の時間を終わらせたくは無かったが、腕時計を手首に巻き、スーツに袖を通して立ち上がった。内閣情報調査室の一員としての使命感。今は自分の幸福感より、それを優先しなければと

もっとみる
意識「他界」系 その58

意識「他界」系 その58

国内レンタルDVDショップ大手、「KATAYA」の渋谷店には名物客がいた。3階のアダルトコーナーに週二回は出没する木村という中年紳士。いつも10枚近く新作を借りてくれるので、店側としては上客なのだが、「面倒くさい客」としてアルバイトからは煙たがられていた。

「この前は、この作品の2番目に出てくる女の子の名前が知りたいって言われた」大学4年生の滝田雅人がパッケージを見せながら、隣の小向千里にぼやい

もっとみる
意識「他界」系 その57

意識「他界」系 その57

ごった返す地下通路にようやく入って目に飛び込んできたのは、床に転がる夥しい死体の数。血と臓物の臭いが、喉の奥に酸っぱいものを込み上げさせる。

動かない亡骸の間で、土下座をするような格好で蠢いているモノ。それを見た瞬間、毒島は悟った。これは単なる通り魔事件なんかじゃないと。

「桜木、各鉄道会社と連携して乗降客を近くの出口から外に出せ! 多部と柳沢は地下通路への出入り口で、ここから一番近い所を封鎖

もっとみる
意識「他界」系 その56

意識「他界」系 その56

渋谷マークシティ、井の頭線とJR線の連絡通路。そこに飾られた巨大壁画は新たな待ち合わせスポットになっていた。その壁画が「水爆の炸裂の瞬間」をテーマにしていることなど殆どの人は考えることも無く、平和ボケした緊張感皆無の顔で立っている。

二宮亜里沙もその一人。ヘッドホンをしてお気に入りの西野カナを聞きながら、彼氏を待っていた。

不意に、隣に人の気配がした。肩に手を置かれた。どうせナンパかAVの勧誘

もっとみる
意識「他界」系 その55

意識「他界」系 その55

「てめえ一件も契約取れねぇのに辞められると思ってんのか、コラ」

不動産会社とは名ばかりの詐欺企業。毎日、朝から晩まで「投資用ワンルームマンションにご興味ございませんか?」と知らない相手に電話する仕事。あまりの理不尽さに高木春彦は入社した日に「辞めさせてください」と上司に泣きついたが、そう言われてぶん殴られた。

「入社時の誓約書、ここになんて書いてあるか読んでみ」そこには小さな文字で「甲は未契約

もっとみる
意識「他界」系 その54

意識「他界」系 その54

大量の芳香剤が胸焼けを誘う。丸めったティッシュ・レシート・メモ書き・乱暴に開封された封筒・ダイレクトメール・食べ掛けのパン・真っ黒なバナナ・小銭・薬・ペットボトル・レジ袋などなど。足の踏み場もないほど散らかった和室の奥にある押し入れ。売るほど芳香剤を置く理由はそこにあった。半ば白骨化した遺体。

「不正受給…」床に散乱する年金関係の封書から、大木刑事にもすぐにそれと分かった。「藪坂は父親の死を隠し

もっとみる
意識「他界」系 その53

意識「他界」系 その53

通り魔の語源にもなった「通り悪魔」とは、ぼうっとしている者の心に憑依する妖怪とされている。正体は定まっていない。ふとした瞬間に「魔が差した」というが、それは「通り悪魔」が関与している可能性が高い。

この一文から始まる「通り悪魔の考察」というコラムを読みながら唸っている男がいた。月刊「ラー」編集部の柿沼忠司である。乱雑したデスクにはFAX・封筒・メモ・心霊写真などが広がっていた。その上に足を投げ出

もっとみる
意識「他界」系 その52

意識「他界」系 その52

ラブホテルに入って悩むのは、いつも有線の選曲だった。J-POPを選ぶには歳が行き過ぎたし、好きなJAZZを選ぶと集中できない。

だから梶山は相手に選択権を譲ることにしていた。今日の相手、倍賞いちかはJAZZを選んだ。内心「おいおい」とは思ったが、幸い行為の最中にお気に入りの曲が掛かることは無く、集中して無事終えることが出来た。

「で、何が知りたいんですか、私から」さっきまで獣のような声を出して

もっとみる
意識「他界」系 その51

意識「他界」系 その51

『死舞夜』---ハロウィンの夜に、本物のゾンビが出現し、渋谷の街がパニックになる。

今書いているマンガのタイトル。これが入選しなかったら漫画家になる夢は諦める。重田みどりはそれぐらいの覚悟で書いていた。

あぁ、今ワタシは自分の書いている作品とリンクしている!

あの鉄扉の隙間から飛び出している、灰色の長い腕! 必死に抑えていた見知らぬ女は、ついに堪え切れなくなり鉄扉と壁に挟まれた。

現れたの

もっとみる
意識「他界」系 その50

意識「他界」系 その50

自分が欲情しているのを隠すために饒舌になる男---これまでの人生で乱堂美姫は嫌というほど見てきた。沈黙を埋める話題を焦って探す彼らが、手っ取り早くつかむのが「乱堂」というこの変わった苗字だった。だから「変わったお名前ですよね、乱堂って」助手席の橋爪がそう言ってきた時、彼女は過去に何百回もそうしてきたように「そうね」と冷たく返事をするべく口を開きかけた。

「もしかして御先祖様にドイツ人の血が混じっ

もっとみる
意識「他界」系 その49

意識「他界」系 その49

田舎の両親が知ったら悲しむだろう---秋山稔は小さく溜息を付いた。20代最後の夜、汁男優としてホテルの一室に下半身剥き出しの情けない姿で立っている自分。三流大学を中退して入ったブラック企業を2カ月で辞めてから、コンビニの深夜シフトを続けて何とか生活していた。AV鑑賞と、時折「汁男優」をやることが唯一の趣味という、画に描いたような底辺の暮らし。

「おい若ハゲ、まだ勃たないのかよ?」明らかに年下のA

もっとみる
意識「他界」系 その48

意識「他界」系 その48

最上階が居酒屋ということもあってか、屋上へ続く狭い階段には、ビールケースやらネギの生産地が書かれた白いダンボールなどが所狭しと置かれていた。

坂上早苗は息をゼーハー吐きながら、ビールケースから空き瓶を2本抜き出した。

唐突に小5の時のことを思い出した。風邪を引いて休んだ体育の授業。教室には早苗と木村明美、男子は五十嵐と藤田がいた。早苗たち女子は最前列に座り談笑していた。2人の男子は、どうしてそ

もっとみる