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意識「他界」系

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犯人は伝説上の怪物? 謎の通り魔殺人事件の真相は、とある禁書が関わり出したことによって予期せぬ大惨事に…伝奇ホラー。
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2015年11月の記事一覧

意識「他界」系 その31

意識「他界」系 その31

結婚して20年の女房に何の文句も無い。ただ、自分の性癖をストレートにぶつけるのことは「今更過ぎて」出来なかった。そんな時出会ったのがシングルマザーの長谷川良枝だった。46歳の杉山敏夫からみれば、34歳の良枝は充分に若く、大人しい伴侶とは正反対に性に対して貪欲だった。

「今度さぁ、軽いSMプレイやってみない?」行きつけのスナックで知り合って男女の仲になって1か月。普通のプレイでは物足りなくなってい

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意識「他界」系 その30

意識「他界」系 その30

最初から違和感だらけの部屋だった。脱ぎ散らかした衣類やゴミの散乱する廊下。それを抜けて通されたリビングも足の踏み場がないほど散らかっていた。唯一片付いていた茶色いソファベッドの上には、ピンク色のバイブレーターが無造作に置いてあった。それを見られても部屋の住人、細貝法子は気にしていない様子だった。

「どうぞ、ベランダ使ってください」女にそう言われ、窓の下に干してある洗濯物を暖簾のように手で避け、左

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意識「他界」系 その29

意識「他界」系 その29

振動で目が覚めると上から覗き込んでいる男と目が合った。

「大丈夫ですか? 分かりますか?」

「…あ、あぁ…ここは?」

「救急車の中ですよ。お名前言えますか?」

「森下…森下覇和威」

「ハワイ? どんな字?」

救急隊員の質問に覇和威は答えられなかった。「ゴメン、何か頭がガーンってなってて意味わかんねー」まあ元々言葉で自分の名前を説明できたことも無かったが。

「無理も無いですね。相当強く

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意識「他界」系 その28

意識「他界」系 その28

現場であるマンションのエントランスに2人の男がいた。一人は大木刑事で、もう一人は松尾羽の部下である左文字大介。大木は寒さと退屈凌ぎに、週末のG1予想を彼としていた。

「アンタの予想と違って、俺はダンスウィズダディに賭けるね。今の時期の芝とあの距離ならダディの末脚が勝つって」52歳の大木からすればまだ20代半ばの左文字は子供みたいに見えるが、意外にも競馬の知識は深かった。

「いやパルーサの逃げが

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意識「他界」系 その27

意識「他界」系 その27

ロンドンから車で約4時間。サマーセット州にある小さな町グラストンベリー中心部にある古びたカフェに男はいた。午後3時半、ジャック・テイラーは曇った空を窓から眺めていた。予感がしてグレーの背広の胸ポケットに手を入れた。案の定、携帯電話が鳴った。

「もしもし、やっぱりショウか。そろそろ掛かってくる気がしてたんだ。え、何だって? くそ不味いフィッシュ・アンド・チップスでも食べてるのかって? おいおい、こ

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意識「他界」系 その26

意識「他界」系 その26

「ですから何度も言ってますけど、事件性は無いってことなんで、ハイ。そう言われましても、部屋に鍵が掛かってるんではどうしようもないので、ハイ」受話器を首と肩の間に挟んだ刑事の大木は、隣のデスクの佐久間に向かって「お手上げのポーズ」をして見せた。

「明日の朝ですね、マンションの管理会社の方に電話して鍵を開けてもらいますから、その時までお待ちいただけませんか?」佐久間が、少しおどけた顔で自分の首を掻き

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意識「他界」系 その25

意識「他界」系 その25

結局のところ、喧嘩の勝敗は場数の差で決まる。場数を踏めば踏むほど、相手・状況・自分のコンディションを瞬時に判断し、ベストな動きが出来る。

竜崎は一瞬で間合いを詰めると、手加減の無い下段蹴りをその太った女に見舞った。女は掴んでいたヤンキーを放り捨てると、竜崎の方に向き直った。左回りに首をゆっくり回してから両腕を突き出し突進してきた。

気合いもろとも竜崎は、前に出していた左手を後ろに勢いよく引いた

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意識「他界」系 その24

意識「他界」系 その24

会社帰りのOL、鈴木里菜は友人に電話で愚痴をぶちまけていた。

「ねえ聞いてよ、朝行ったらタイムカードの横に見慣れない張り紙があるのよ。読んだら仕事の改善したらいい部分だとかなんとか箇条書きしてあってさ。書いたのはバイト。何で社員がバイトに上から目線で命令されなきゃいけないわけ。意味わかんなくない? しかもそのクソ女、しょっちゅう休むのよ。やれ貧血だ、友達の見舞いだとか言ってさ」

急にシフトの穴

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意識「他界」系 その23

意識「他界」系 その23

「お客さん、パネルで部屋選んでください」美魔女を目指して魔女みたいになってしまった顔面白塗りの女が、受付の小窓から顔を出した。

「あ、違うんです、聞きたいことがありまして」竜崎は大きな身体に似合わぬ小声で尋ねた。「このホテルの名前なんですが、どんな意味なんですか?」

「ホテルの名前? ここの受付やって4年になるけど、アナタみたいな人は2人目ね。「ティ」はお茶。「モール」は遊歩道。意味? 知らな

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意識「他界」系 その22

意識「他界」系 その22

時間も時間だし、そろそろお開きにしましょうとなり、それぞれが自分の財布をゴソゴソやりだした。

「最初電話で松尾羽が「そのメイド服女にも監視を付ける」って言った時は意味が分かりませんでしたが、なるほどね、そういう危険性があったんですね」言いながらも梶山は半信半疑ではあったが。

「殺し方が残酷だったり遺体を食べちゃったり…意味不明な猟奇的事件てあるじゃないですか? 結構な確率でアチラの世界に感化さ

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意識「他界」系 その21

意識「他界」系 その21

「えぇ大丈夫です、キャッチしました。特徴的な女でしたから。今ですか? ホテルにね入りましたよ。え、名前? 『ホテル ティ・モール』って名前です」

(ティモール? まずいな、暗示的だ)

「若、何がまずいんですか? ちょっと電波が悪くて聴き取り辛いんですが」

(ローマ神話に登場する神の名前だ。ギリシャ神話におけるポボスと同じものだとされている)

「ポ…何ですか、それは?」

(恐怖を意味する神

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意識「他界」系 その20

意識「他界」系 その20

着信があり、一旦店の外に出ていた倍賞いちかが上機嫌で戻ってきた。

「若が私を心配して電話してきてくれました。あ、それと「久しぶりの外出で体調を崩してしまい行けなかったことすみません」と言っておりました」

それは最初に聞いたと思いながら、次何飲みます? と梶山はいちかにメニューを渡す。

「じゃあ梅酒のソーダ割りで…そうそう、大事なこと聞いとかなきゃ。梶山さん、若の言いつけ守りましたか?」

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意識「他界」系 その19

意識「他界」系 その19

「泊まってくれるならタダでもいいよ」通り過ぎようとした和田に、その女はそう言ってきた。これから次の相手を探すのも面倒だし、冷え切ったワンルームマンションに帰るよりはマシかと和田は承諾した。

「ネカフェで寝るのもシンドイし」安っぽいグレーのダウンに花柄のミニスカート。服装のセンスも無い。和田は「萌」と名乗った女のいいところを探そうと努力したが、声が可愛いのと巨乳なこと以外は難しそうだった。

「じ

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意識「他界」系 その18

意識「他界」系 その18

「ちょっと待ってね倍賞さん、少し整理させてくださいね」民子が目を閉じて眉間を人差し指で押す。梶山以外の2人の男子も、同様に怪訝な顔だ。

「その、松尾羽さんのお仕事は『禁書の回収及び封印』と言われましたが、今回の一連の事件は、その禁書とやらが関係していると?」

「もちろんです。え、だから皆さん松尾羽に協力を頼まれたのではないのですか?」倍賞いちかは真剣そのものだった。そのことに疑いは一ミリも無い

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