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大人になるとなくなるもの
子供の頃にはあって、大人になると無くなるもの、なあんだ?
そんなクイズがあったら、主婦のわたしの答えはこうだ。
作らなくても毎食出てくる食事。
汚れた服が勝手に綺麗になって戻ってくること。
采配を振るわなくても回っている家庭内の経済。
それから、自分の誕生日のお祝い。
***
クリスマス・イブは妹の誕生日だ。
先月は、その少し前に母が倒れたりしたこともあって、妹は誕生日どころではなかった。
母のことが少し落ち着いた頃、何年か振りに妹の誕生日をお祝いしてあげたくなり、わが家に招くことを思いついた。
近所に暮らしているが、それほど頻繁に行き来はしていない。色々大変だったから、労ってあげたくなった。
お誕生日ケーキを注文し、彼女の好物を思い出しながらメニューを考える。レストランで祝ってあげたことは何度かあったけれど、自分の料理でもてなすのは初めてで、何を作ろうか数日前から念入りに予定を立てた。
前日に花屋さんへ行き、娘と2人で真剣に悩みながら、妹のイメージに合う花を数本選んでテーブルに飾った。
***
小学3年生になる姪っ子を連れ、お招きした日に妹はやってきた。
「今日はありがとう!」と言いながら、満面の笑みで玄関に入ってきた妹を見てホッとした。母の面倒を任せっぱなしにしてしまっていたので、疲れているのじゃないかと心配していた。
幼稚園くらいまでは人見知りが激しくて、まったく懐いてくれなかった姪っ子も、ニコニコ嬉しそうに「お邪魔します。」と言いながら、ママと手をつないで立っている。
どうぞどうぞ。上がってね。とリビングへ案内しながら、母の様子を聞く。
疲れていない?と聞くと、「うーん、疲れることもイライラすることもあるけど、とりあえず、その日一日過ごすことだけ考えるようにしてる。」と妹は笑顔で言った。
彼女の強いところは、こういうところなんだよな、と思う。わたしに無くて妹にあるものは沢山あるけれど、こういう強さをとても尊敬している。
しばらく2階の娘の部屋で、姪っ子を遊ばせてもらっている間に、夫に手伝ってもらいながら、料理の仕上げをした。妹の好物を思い出しているうちに、食べさせてあげたいものが浮かび過ぎて、テーブルがいっぱいになるほどの皿数になってしまった。
誰かを喜ばせたくて作る料理は、作っている本人もとても楽しい。
すべての皿をテーブルに並べ終わったところで、みんなを呼んだ。
階段を降りてきながら、テーブルに目をやった妹は、「わー!嬉しい!」と目をキラキラさせている。
「あー!これ、好きなやつだ〜!」と、いちばん好きな料理を見つけて、さっそく口に運ぶ。その様子を眺めているだけで、ほんわりと嬉しい気持ちになった。
妹と、夫とわたしは3人でワインを飲みながら、ゆっくりと色々な話をした。その横で姪っ子と娘は楽しそうに遊んでいる。時々、俯瞰した気持ちでそれを眺めながら、幸せだな、と思った。
あらかた料理を食べ終えたところで、ケーキを出すことにした。
部屋の明かりを落とし、ケーキの上のローソクに火を点けて、妹のところまで運ぶ。
「お誕生日、おめでとう!」ともう一度みんなで口々に言いながら、テーブルにケーキを置いた。
ローソクの火を吹き消し、メッセージが書かれたケーキのプレートを見つめていた妹は、唐突に顔を手で覆って、泣き出した。
びっくりした夫とわたしが、「どうしたの?」「大丈夫?」と問いかけると、しばし泣いていた妹が「なんだか、嬉しすぎて泣けてきちゃったの。」と言った。
そして、恥ずかしそうに「もう何年も、自分の誕生日のお祝いって自作自演だったんだよ。」と笑った。
自作自演、とはどういう意味かと聞いてみた。
「みんなわたしの誕生日なんか忘れちゃってるから、自分でレストラン予約して、そこで自分宛のケーキを予約するわけ。で、夫を無理矢理レストランにひっぱって行って、お祝いするの。だからね、自作自演。」
そうか、となんだかしみじみ思いながら、今日みんなでお祝いできて、本当に良かったと思った。お祝いできる相手がいて、わたしも嬉しかったのだ。
帰り際、妹はよほど嬉しかったのか「誰かが自分の誕生日を覚えていてくれるって、こんなに嬉しいことなんだね。胸があったかくなったよ。」と言いながら、姪っ子と仲良く手をつないで帰っていった。
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