無職と専業主婦
私は専業主婦だ。
だから、というか、そして無職だ。
自分の中の、この矛盾。
"専業"だって言っているのだから、"無"職ではない。
でも、自分の中では、ずっと"無"職だと思っていて、誰かに「仕事してるの?」と聞かれても「あ、無職なんですー」なんて、ヘラヘラしたりする。
"ヘラヘラ"するのは、きっと、外で働いている人に対して、少しだけ卑屈になってるんだろうな。
ずっと家にいちゃって、ごめんなさい、なんて。
数年前に、勤めていた会社を辞めて以来、ずっと"自分は社会の役に立ててない"感があった。
あった、と過去形なのは、今はもう、そんな風に思っていないからだ。
***
コロナ禍になる前のこと。
友人と泊まりに行った温泉宿で、"自分は社会の役に立ててない"感の話を、源泉掛け流しナトリウム塩化物泉に浸かりつつ、ついうっかり、こぼしてしまった。
すると、なにがそんなに彼女を興奮させたのかは分からないが、
「なんでそんなこと言うの!!あほか!」と怒られた。
「え、、? あ、、すいません。」
と、タジタジになりながら、とりあえず謝った。
謝りはしたものの、何に怒られたのかわからない。
「・・・で、なにが"あほ"なの?」
と聞くと、「なんでも!」と、雑な回答が返ってきた。
「いや、なんでもって、、」と食い下がってみたが、それ以上、細やかな回答をする気はなさそうだった。
彼女は、大学を出て社会人になって以来、ずっと社会に出て働いている。
まあ、いわばキャリアウーマンだ。
だから、予想回答的には「じゃあ、また外に出て働いてみれば?」とか言われるかなぁ、なんて思っていたのだけど、予想外に叱られた。
なにがいけなかったんだ、、、
と、湯あたりしかけた頭で考えてみたがわからなかった。
黙り込んだわたしに、さすがにちゃんと答えた方がいいと思ったのか、彼女はこう言った。
「だからね、家のこと、やってるんでしょう?それで、旦那も娘さんも、毎日あなたの作った弁当持って働きに行って、帰ってきたら家の中が快適になってるんでしょう?すごいじゃんよ!」
いや、、お弁当は毎日作っているわけでは、、、
などといらぬ事を言うと、また叱られそうだったので、黙っておいた。
「わたしなんかさ、旦那と2人だからギリなんとかなってるけど、食事とか掃除とか洗濯とか、あーコレお金払うから、誰か全部やってよー、って思うんだよね。毎日。」
そっかー。
「それでさ、旦那さんと娘さんは、あなたが家を守ってることで安心して仕事に集中できてるんだから、あなたがその会社に貢献していると言っても、過言ではないわけ。」
急に饒舌になったな。なんて、また余計なことを言いそうだったが、黙って拝聴した。
拝聴している間に、なんだかものすごく勇気が湧いてきた。
それで、思った。
誰かに叱られるのもいいものだ。なんかスッキリした。
そういえば、この子、前からツンデレキャラだったな。
なんて、またどうでもいいことを思い出しながら、湯から上がったら、ものすごい勢いで立ちくらみがした。
お風呂で人生相談なんか、しちゃいけない。