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血だるま放浪記 黄金の吹雪

 雪まみれのメッコングを丸机の上に投げ落とすと、酒場の酔漢どもがどよめいた。
 店主曰く、引き取り人足が到着するまで数日掛かるという。だから先に賞金を受け取って、それで当座をしのぐことにした。
 机の上の死骸は見せびらかすままにして、祝いの火酒をラッパしていると、太った男が相席してきた。
「コイツはあんたがひとりでやったのかね、ジャド人の旦那」
そいつの長く伸びた一対のハナヒゲで、ドロ人だということがわかった。シラフだった。
「ああ」おれは言った。
「武器は」ドロ人はメッコングの砕けた胸殻を覗き込んでいる。
「これだ」バンテージを巻いたままの両手を差し出す。
「こいつをやるには12ミリの徹甲弾がオススメ、と聞いてるけどね」丸い目が手をじっと見る。
「ちょっと失礼するね」
肉付きのいい指が伸びて、おれの手をまさぐった。手の甲の消えかけたサソリの入れ墨を、念入りにゆっくりなぞった。
「コンディションは悪いね、でも磨きがいがあるね」
ドロ人はうんうん唸りながら手を引っ込める。
「決めたね」
「何をだ」
「またファイトする気はないかね、ムベンガさん」
 おれは酒を一口飲み、ドロ人をじっと見た。
「アークリングの殿堂入りチャンプが、たかが害獣駆除で腐ってるのは見てらんなくてね」
「アンタ、プロモーターかい」
「ただのファンね」
「だったら静かに引退させてくれ」
「悪いファンでごめんね」
「一応聞いとくが、相手は」
「ヤクザのガイムラ。目的はやつの財産」
「簡単に言ってくれるな」
「たかが田舎ヤクザじゃないの。あんたの拳なら楽勝ね」
「中央もひと目置く機械化ヤクザを殺すのは、専門の殺し屋でさえ厳しいだろうな」
「だからこうやって、わざわざ頭を下げることにしたのさ」トイレから嫌な声がした。
扉が開いて、背の高い、包帯だらけの男が滑るように出て、おれの酒をひったくった。
「そろそろ借りを返してもらいてえんだ、兄ちゃんよ」
(続く)

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