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地獄も投げ出した家にて

 ナカモトの家の玄関は広く、すっきりとしていた。新品のスニーカーが1足だけ。起爆装置のひとつやふたつはあると思っていたのだが。
「手応えのねえ扉だな。高級エンジニアにしては防犯意識が低過ぎら」
 荒事屋のブルーザーがブッターギルン社の電ノコを止めて言った。
「仕事は楽な方がいい」おれは言った。
 売れっ子にはおれの気持ちはわかるまい。おれにはあと28時間しか残されていないのだ。それまでにナカモトからデバイスの在り処を引き出さなければ、バラされて市場に流されるのはおれの方だ。
「ブルーザー、脳だけは傷つけるな。それが無事なら後は読み取り機でどうにかなる」
「へいへい、わかってるぜカカポ」
 大枚叩いて雇った切り札はのんきに笑った。
 靴のまま上がった。廊下の両側と突き当りにはドア。突き当りのドアに電撃銃を構えたブルーザーが先に入る。
「なんだい、こりゃあ」
 ドアの向こう側はリビングだった。まだドアは続いている。部屋の中央の椅子にはナカモトが座っていた。椅子の後ろに回された手は縛られている。頭がコップのように切り取られ、脳がなくなっていた。
「見ろ、カーペットが汚れてねえ。どんな腕のプロがやったんだ」
「しかもそいつは、まだ家の中にいるな。他の部屋をあたれ。見つけたらぶっ放せ。おれは廊下の左側だ」
 虎の子の短剣を抜く。

「おい、カカポ。こっちへ来い」
 廊下へ引き返したブルーザーの声がした。玄関からだ。
 行くと、奴は三和土を見下ろしていた。スニーカーの他に泥だらけの革靴が1足と片方、揃えられている。
「誰か見たか」ブルーザーが言った。
「いや、三本足の奴は一人も」
 リビングから風船が割れるような音がして、おれは走った。部屋の中から死体が消えている。
 泥まみれの素足が壁や天井を歩き回っていた跡があった。
 追いついてきたブルーザーが、おれの肩に手を置いた。
「カカポ。あんた、何を隠してるんだ」
(続く)

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