【書評】水の未来

環境問題は、空気、水•砂、生物多様性というイメージを持っています。

水の未来—グローバルリスクと日本—(著者:沖大幹)岩波新書1597

岩波新書は、安心感があります。

自然崇拝的な環境至上主義から人間中心主義への軸足の移動を明瞭に反映していて、環境そのものの価値を認めないわけではないが環境保全は究極的には人類の幸福追求のためである、という現実的な考え方が主流となりつつある。(vページ)

問題解決には、ゴール設定が必要です。環境保全は人類のため、というゴールは分かりやすいです。

さまざまな原因で亡くなる毎年590万人の5歳未満の乳幼児のうち、34万人が劣悪な衛生環境や安全ではない飲み水に関連した下痢によって亡くなっている。(7ページ)

世界で、毎年34万人の乳幼児が下痢で亡くなっていることは、知らなかった。

水の平均的な滞留時間(水が河川などに留まっている時間)が河川ではせいぜい数週間と短いためである。…平均的な滞留時間が20〜30年である湖の場合、汚染が顕在化するのにもその改善にも、河川に比べて非常に長い時間がかかる。まして、平均滞留時間が1000年を越えるような地下水の場合…(18ページ)

強いて順序をつけるなら、河川 < 湖 < 地下水で、汚染に気をつけなければなりません。

水資源はストックではなくフロー…どのくらい溜まっているか、という貯留量ではなく、どこをどのくらい流れているか、という循環量として水資源を把握する必要がある(27ページ)

ストックとフローの考え方は、混乱している人がたまにいるので、よく意識しよう。

圧倒的に単価が安いのが水資源の特徴である。…ものは安ければ安いほど良いと考えがちであるが、単価が安い場合、輸送や貯留のコストが利用可能性の大きな阻害要因となる。(30•31ページ)

水は輸送費が高いため、乾燥地に水を運ぶことが難しい。

2011年の10月はじめ、タイ中央平原を流れるチャオプラヤ川では、半世紀ぶりの大洪水となり、…この地域に集積していた部品の供給が滞ったため、被害は現地に工場を持っていた企業に留まらず、世界中で自動車やパソコンを始めとする関連製品の生産に深刻な影響が出た。(37ページ)

グローバル分散生産の弊害。分散すれば、その分被害にあう確率が高まります。一方、集中すれば、被害にあう確率は下がりますが、被害の大きさは大きくなります。

水分野に限らず、気候変動への適応策(adaptation)では、順応性手法(adaptive approach)が有効だとされる。…順応性手法とは、ある時点で立てた全体計画を遵守しつつ対策を進めていくのではなく、…状況に応じて柔軟に手法や方針を修正して気候変動の進行に伴う被害増大を最小限に抑えようとする手法である。(180ページ)

気候変動には、臨機応変に対応しましょうということです。個人的に「臨機応変」と聞くと、フォーク准将とビュコック大将の「行き当たりばったり」を連想してしまいます。

環境と経済の両立に悩んでいた時代はとうの昔に過ぎて、社会と経済と環境という3者の持続性をいかにバランスよく構築するかを構想し、その実現に向けて取り組む時代が来ている。(218ページ)

社会と経済と環境のバランスとしていますが、今の日本では、環境を「新型コロナウイルス」に変えても同じことが言えると思います。