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【短編小説】国家間情報衛生委員会検閲会議議事録 第3集 ※当書籍の持出厳禁※

【議事録番号】157-K-CR
【日時】2089年(唯暦50年)6月13日
【場所】非公開
【議題】検閲No.928356-T、クレアラシル・ミダス著『天の撃鉄』の一部抜粋部の試験的検閲
【出席者】5名

【参考資料】検討に使用した検閲No.928356-T、クレアラシル・ミダス著『天の撃鉄』の一節。

 ██から、██が立ち上っていた。男は████████を堰き止めるために肩を握りしめるが、手から███しまう。
「何だい、アタイが仲間だと思っていたのかい?」
 ███████████は、にたりと笑みを浮かべていた。█████はまだ俺に向く。
「……そ、うだよ、██████んだから仕方ねえだろ」
「大体男ってのは勘違いするモンなのさ」
 ███は自身の████を触る。
「██████コイツに惑わされてね――アンタもそのクチだろ?」
「んな、訳、あるかよ……!」
 俺の頭の中は、何故か怒りで満たされていた。
 騙し討ちされたというのに。
 それだけ――俺は███のことが██████。

【議事録本文】
※「高等個人情報等保護法」に基づき、の特定に繋がり、危害を加えられる恐れのある文言(名前、住所、見た目その他)については『黒処理』を行っている。

A「録れているかね。……宜しい。では――『健全なる精神は完全なる文に宿る』」
出席者全員「『健全なる精神は完全なる文に宿る』」
A「これより第157回、国家間情報衛生委員会検閲会議を始める。███(以下、B)、今回の対象文書について説明を願う」
B「はい。今回は『天の撃鉄』という拳銃を用いたファンタジーアクション活劇です」
C「拳銃だと! 野蛮人の考え付きそうなタイトルだな!」
B「私もそう思っております、███(C)。また作品の性質上、拳銃描写は数多く、中には拳銃の整備内容や各種拳銃の性質、拳銃の部品名や連想させる表現、実際の使用やそれによる殺傷シーンが数多く書かれています。これらは国家検閲法に抵触するものであるから、規制をすべきと思われます」
D「今すぐ作者を拘束すべきでなくって?」
B「それは我々の職務権限を超えています。逮捕検討は公平委員会が判断すべき内容です。……どうせ逮捕されるでしょうが」
A「話が逸れておる。本筋に戻すよう」
B「失礼致しました。今回は対象書籍の検閲のため、一部分を抜き取り検閲基準を検討したく存じます。それに応じ全編を検閲し、改めて検討の俎上に上げたく存じますが、如何でしょう」
(全員、異論なしの声が上がる。)
B「では、検討を始めさせて頂きます。お手元の資料をご覧下さい」
E「うえ、酷えなコイツァ」
D「全くね。ああ穢らわしい! 早く殺されて仕舞えば良いのよこんなゴミ!」
A「ディアナ、口を慎みなさい」
D「……失礼致しました」
B「……宜しいでしょうか。検討を始めます。先にも申しましたが、拳銃に関する描写――それを連想させるものも含め全てを検閲の対象とすべきと考えます。対象は1文目、5文目です」
(全員、即座に異論なしを表明。)
B「では、ここにある拳銃表現は全て規制対象に入るとのことで『黒処理』をします。次に、2文目です。拳銃に撃たれたことで血を流すシーンですが、ここも当然規制されるべきと考えます」
E「待てよ。ここを規制するなら次も規制すべきじゃねえか? 肩の銃創を押さえつけてるとこだよ。そこから出るものなんて血液しかねえんだからさ」
B「一理御座います。そこまで頭が回りませんでした。感謝致します」
E「へっ」
B「どうでしょう。流血を連想させる2文目の表現は『黒処理』とさせて頂きます。…………。次の3文目のセリフです。女性によるセリフですが、如何でしょうか」
D「この文章は良いんじゃないかしら。誰もが味方とは限らない、という猜疑心を国民にキチンと植え付けることができるもの」
C「それには同意するが、その猜疑心が我々政府に向いたとしたらどうなる?」
D「絶対的な味方たる政府への反抗は起こり得ないし、起こったとして『親の目』の監視と公平委員会の潜伏観察からは逃れられないわ。それよりは、相互告発を誘発する形で三重の監視を実現する為にも、この表現は残すべきよ」
C「……ふむ、それはそうかもしれぬな。皆はどうだろうか。ディアナの意見に異論はあるだろうか。私は筋が通っていると思う」
(パラパラと異論なしの声)
C「というわけだ、███(B)」
B「では、この表現は規制対象とせずそのまま残すことに致します。次の4文目、女性のセリフの後の表現です」
D「……この表現は、ちょっと」
E「言いたいことは分かるぜ、ディアナ。エッチだよな」
D「あ、あああ、あなたね! 口を慎みなさい! 穢らわしい! 女性蔑視者! 人権侵害者!」
E「そこまで言うことァねえだろ」
A「静粛に! ディアナ、あまり議論を乱す様だと『101号室』送りにする」
D「……っ! 申し訳、ございません」
A「███(E)も、あからさまな挑発行為は取らぬよう」
E「了解でーす」
B「……続けてよろしいでしょうか、███(A)」
A「よろしい」
B「では、次の行ですが、ディアナの嫌悪があった通り、男を「悪性」の行為へと走らせる妖艶な行為又は性的魅了が見受けられます。国家検閲法だけでなく、善性行為推進法の37条に抵触します。後の8文目、9文目も合わせ、議論の余地なく規制されるべきと考えます」
(異議なしの声。ディアナが食い気味に話す)
B「では、次です。5文目は検討が終わっており、これ以上の規制対象はございませんので、6文目、男のセリフです」
E「あー、こいつァ、昔の男なら誰でも口にしたくなるセリフだよなァ。良い女を前にしたらよ」
D「……███(A)、こいつこそ『101号室』送りにすべきよ」
E「何でだよ? 俺は『昔の』ってちゃんと限定したろ? それを聞かずに意識している方こそ、問題があるんじゃねえか?」
D「なっ、それは……!」
A「……███(E)の言う通りだ。ディアナ、もう看過できぬ。これ以上は議論を乱す。そんな不調者は――どうなるか分かっているね?」
D「え、あ……?」
A「分からないようなら言ってあげよう。君は『101号室』送りだ。後は、どうなるか分かるね?」
D「あああっ、そんな! 許してください! 『あのお方』の前で跪くチャンスを!」
A「おい、連れていけ」(扉の開く音)
D「いや、いやだあああっ! 嫌だ嫌だ嫌だああああああっ!!! あの屑みたいな奴らみたいに、四肢を引き千――」(扉の閉まる音)
E「うひゃ~……ご愁傷様だな」
C「しかし、仕方ないであるな。議論は調和が第一。
A「その通りである。では███(B)、続きを」
B「かしこまりました。6文目――最後の文の13文目にも類似表現がありますが、これらは規制対象としてよろしいでしょうか」
(異議なし、と声が上がる)
B「では、次の7文目と、8文目の内先程指摘のなかった部分については問題ないと思われますが、如何――」
A「問題大ありだ」
B「……愚鈍な発言をお許しください。何故でしょうか」
E「そうだぜ、どこにも問題はねえように見える」
C「私も同様の故、理由を聞かせ願いたい」
A「私の孫娘の名前と同じなのだ。これを切っ掛けに虐められでもしたら、どう責任を取るつもりか。暴力小説の手先として告発され、███(Aの孫娘の名前)の可愛い手足が『101号室』でされでもしたら!」
B「…………問題でございますね」
E「だなァ~ぞっとするぜー」
C「……では、規制致そう。███(B)、最終文の男の呼びかけているところも同じだろう」
B「そう致しましょう。それでは、これで検討内容は以上となりますが、これ以外には御座いますでしょうか」
(全員異議なしの声。)
B「では、███(A)、これにて検討は以上です。内容を纏め、公平委員会への報告文書として後ほどご提出させて頂きます」
A「宜しい。それではこれにて、第157回、国家間情報衛生委員会検閲会議を終える。皆、これからも健全であるように」
(会議が終わり、扉が開かれる。ディアナの絶叫が響き渡る。)

【参考事象】
・ディアナは『101号室』にて四肢処置を受けた後、市中晒しとし、鳥葬。ディアナの親類一同については全員処刑器具『寸刻み』にて処置を行った。
・著者クレアラシル・ミダスについては、処罰器具『手砕き』にて処置し、『103号室』にて教育的措置を行った。
・当議事録を持ち出した者、及び盗み見た者は、処刑器具『蒸発』にて処置を行う。








……おい、そこのお前。
何こそこそ盗み見てやがる。


【終劇】

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