【経理勉強録】繰延税金資産の回収可能性と表示

※一応こちらの記事では、「繰延税金資産」「繰延税金負債」についてはご存知であるという前提で話を進めていきます(※1)。
※個人的な勉強記事のため、見直しては追記修正などを行います。ご了承下さい。

1:繰延税金資産の回収可能性とは?

 繰延税金資産の回収可能性という言葉を企業会計で目にすることがあります。これは一体何でしょうか。
 簡単に言えば、「繰延税金資産に資産性が存在するか」、即ち「将来、法人税を減額する効力を持つか=将来減算一時差異として、本当に来期以降支払う法人税を減額する効果を持つか」ということです。この効果があれば、回収可能性があると判断されます。
 より分かりやすく言い換えましょう。「法人税を減額する」ということは、即ち「当期純利益がしっかり出ている」ということでもあります。従って、「将来、ちゃんと当期純利益が出ることが確約されない限りは、繰延税金資産を立ててはならない」となります。
 つまり、繰延税金資産の回収可能性を判断するには、有体に言えば将来黒字になれば良いのです。

 ちなみに、回収可能性の判断については、昔は会計基準すら存在せず完全に経理部の裁量に任せられ、外部の監査法人もそれが合理的かどうかを逐一判断する必要がありました。
 当然ながら「やってられるか!」となったので会計基準にて判断基準が定められています。順にみていきましょう。

2:回収可能性の判断基準

①分類をする

 まず、回収可能性を判断するということは、先にも説明しましたが、「将来、ちゃんと当期純利益が出ることが確約されるか」が重要になります。そこで、その確度について大きく5パターンに分けます。引用すると長くなるので、要点だけをまとめると次の通りになります。

・分類1
→過去3年と当期の計4年間、ずっと黒字で、かつ経営環境が近い将来著しく変わらないので黒字が出続けると予想される
・分類2
→過去3年と当期の計4年間、臨時的な要因を除けば安定的に黒字(「課税所得が、期末における将来減算一時差異を下回るものの、安定的に生じている」)で、かつ経営環境が近い将来著しく変わらないので黒字が出続けると予想される。
・分類3
→ 過去3年と当期の計4年間、臨時的な要因を除くと損益にかなりのブレがあるが、大赤字になっていない(重要な欠損金が生じていない)
・分類4
→ 過去3年と当期の計4年間、赤字になったことはあるが(更に繰越欠損金の期限切れをその期間内に起こし、翌期もそうなるが)、黒字になる見込みが立っていること。
・分類5
→ 過去3年と当期の計4年間、ずっと赤字で、かつそれがずっと続くこと。

 この分類により、繰延税金資産の回収可能性ができるかどうかを判定します。
 簡単なのは、分類1、2、5です。分類1、2は問答無用で繰延税金資産全額を計上してよく、分類5は問答無用で繰延税金資産を1円たりとも計上できません
 問題は分類3、4です。分類3の場合は翌期以降5年分しか回収可能性の判断をしてはならず、分類4の場合は翌期1年分だけしか回収可能性の判断をしてはなりません。さっきまでの説明を総合すると、「将来5年(又は1年)の回収可能性の判断をする= 将来5年(又は1年)についてどれだけ繰延税金資産を立てて良いかを判定する」ことになり、繰延税金資産を立てる額を決めていく必要があります。
 では、これをどうやって決めるのか? 当然適当に決めていいはずはありません。ここで出てくるのがスケジューリングという概念です。

②スケジューリングをする

 スケジューリングとは、その名の通りスケジュールを立てることなのですが、ここでは、「繰延税金資産の回収時期」のスケジューリングです。つまり、いつ繰延税金資産が解消されるのか=法人税を安くする効果を発揮するのかを、税効果の対象となっているもの1つ1つについて判定する必要があります。
 例えば、よくあるのは未払事業税です。これは申告時点で損金に算入することで差異が解消されますから、1年後に解消されます。具体的に、以下の状況が考えられます。

1:×1年の決算を終えた。法人事業税は1000万円となった。
法人事業税 1000万 / 未払事業税 1000万
 
2:1の未払事業税は、法人税上は申告時点で損金に参入され(こういうものを申告納税方式と言ったりします)、企業会計の費用計上と時期がズレる一時差異となるため、税効果会計を適用する。適用税率は30%(翌期の法定実効税率)とする。
繰延税金資産 300万 / 法人税等調整額 300万

3:繰延税金資産の回収可能性について検討したところ、分類4となった。そのため、2で立てた繰延税金資産は全額翌期の申告時点で解消できるため、回収可能性があると判断して良い。
(仕訳なし。回収可能性の判断をするに当たり、スケジューリングで「翌期解消」と判断する)

 一方、例えば子会社株式(完全子会社ではない)の評価損については、解散や合併が将来行われる予定がない場合、いつ繰延税金資産が解消されるか分かりません。何故なら最終的に税務上評価損を損金算入できるのは、子会社株式を売却等して手放した時のみだからです。
 このような場合は、スケジューリング不能と言い、繰延税金資産を立ててはいけません。要するに、「回収可能性なし」として繰延税金資産を取り崩す必要があります。この、スケジューリング不能=繰延税金資産の回収可能性がないと判断されたために取り崩す額のことを評価性引当金と言います。

1:×1年の決算を終えた。子会社株式の評価損を立てた。
子会社株式評価損 200万 / 子会社株式 200万

2:完全支配ではないため(※2)、税効果会計を適用する(税率は30%)。
繰延税金資産 60万 / 法人税等調整額 60万

3:繰延税金資産の回収可能性について検討したところ、分類3となった。しかし解散や合併時期が未定のため、税務上損金となるタイミングが不明なため、回収可能性がない=繰延税金資産を立てられないと判断されるため、評価性引当金を立てる。
法人税等調整額 60万 / 繰延税金資産 60万

※なお、個別上は以上で終了だが、子会社株式の評価損のため、連結修正が必要となる。行うこととしては、まず子会社株式評価損の取り消し(でないと、開始仕訳で投資と資本の相殺消去をして子会社株式がゼロとするので、単純に連結すると上記の仕訳より子会社株式がマイナスになってしまう)をする。その後、それに伴い対応する繰延税金負債を立てて(上記2番の相殺。何故か繰延税金負債を立てる)、評価性引当金を消去するために逆仕訳を立て(上記3番の相殺)、これらで計上された繰延税金負債と繰延税金資産とを相殺消去する。具体的な仕訳は以下の通り。

子会社株式 200万 / 子会社株式評価損 200万
法人税等調整額 60万 / 繰延税金負債 60万
繰延税金資産 60万 / 法人税等調整額 60万
繰延税金負債 60万 / 繰延税金資産 60万

なおこの結果、連結上は最終的に何の仕訳もされなかったのと等しくなる。何故なら、子会社株式の評価損は親会社と子会社の企業集団内部の話だからである。

 このようにして、1つずつ繰延税金資産を立てるかどうかを判定していきます。その後、繰延税金負債についても同じようなことをしていきますが、繰延税金負債が計上できるのは稀です(会計基準にもその様なことが書かれています)。
 その後、回収可能性のある繰延税金資産と繰延税金負債とを相殺し、それでも相殺しきれなかった部分は所得と相殺していく……などをして、最終的な計上額を求めていきます。残った額が、繰延税金資産の内、回収可能性のあるものとして計上されることとなります。これは有価証券報告書や招集通知(株主総会開催に当たって株主に送付される書類)に注記という形で書かれます。

3:財務諸表上の表示について

 以上のようにして繰延税金資産(回収可能性のあるもの)を求めましたが、財務諸表の内貸借対照表にそのまま載せれば良いかと言えば、そうとは限りません。
 簿記1級でも勉強しますが、財務諸表の表示については、同一納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債については相殺して純額で表示する必要があります。先に回収可能性のある繰延税金資産を求めたとしても、スケジューリング不能として残った繰延税金負債があることが往々にしてあります(その他有価証券を保有している企業ならば特に)。その場合はこれらを相殺します。
 あくまでも、回収可能性の判断と財務諸表の表示は全く別の話をしているのだ、ということに気をつけなければなりません。ここを混ぜると途端に処理が分からなくなります。


※1:もしご存知ない方は、まずこちらで説明します。
 そもそも、法人税とは会計上の(=PLに表示された)税引前当期純利益に法定実効税率をかけて求められます。普通はここで求めた法人税を納めるのだ――と、企業会計のみを勉強された方は思うでしょう。
 しかし、実は企業会計と税務会計とでは、収益や費用の考え方が全く異なります。詳しい説明は省きますが、要は「収益や費用の認識する基準が違うため」と思って下さい。そうすると、企業会計と税務会計とで納めるべき法人税額が異なってきます。ここで納めるべき法人税額は、税務会計で計算した額となります。
 この時、企業会計で求めた額(理論上の金額)より多く、税務会計の額(実際の支払額)が出た場合は、企業会計上は「より多く税金を支払った」ことになります。これは言い換えれば「将来払うべき税金を前払いした」となり、それはつまり「前払費用」と同じく資産性を持ちます。このように、前払いした税金分を「繰延税金資産」として計上します。「繰延税金負債」はこの逆ですね。
 ここで論じる回収可能性とは、要するに「繰延税金資産に資産性があるか?」を判断することに他ならないのです。

※2:ものすごーく細かい話になりますが、子会社株式の評価損は課税の公平性からかなり細かく規定が決められています。
 まず、「完全支配関係(親会社が子会社を100%支配している)か?」が判断基準となります。もし完全支配関係である場合は、原則として一切の損金算入が認められません(税務上は「資本金等の減算」という損金に当たらない項目として処理されるため。有体に言えば、「資本取引と損益取引区分の原則」に準じて、100%子会社との取引は資本取引だよね、だから法人税という損益科目にも影響しないよね、ということ)。それはつまり、会計上では損失(子会社株式評価損など)となるが税務上は損金にならない永久差異であり、税効果会計を立てるどころの話ではないということです。一応、「子会社の清算が終わるまで保有し続ける場合等、将来的に損金となる見込みが低い=繰延税金資産の回収可能性がないことが考えられるため」という理由もあったりします。
 一方、完全支配関係にない場合は、「将来、解散や合併をしたりしないか?」の判断を行います。もし将来(ここで言う『将来』は、乱暴な言い方をすれば地球が滅亡するまで。特に期間的縛りが設けられていません)、解散や合併が行われるとしたら、確かに損失が計上される筈であるから税効果会計を適用します。一方で、解散や合併が行われない場合は、いつ行われるかも分からない=いつ損失が立つかもわからないので、スケジューリング不能として扱われます。
 なお、以上については当然ながら、回復可能性を考慮する必要があります。

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